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《65歳からの働き方》薄井シンシアさんの「人を巻き込む力」 自分が持っている”3つの力”を活かして今始めたいこと 

薄井シンシアさん
薄井シンシアさん、自身が持つ「3つの力」を活かして今始めたいこととは?
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有名企業の誘いを断り、2024年6月から外資系IT企業の嘱託社員となった薄井シンシアさん(65歳)は17年間の専業主婦を経て、17年間でキャリアを再構築。次は社会に恩返しをするフェーズだという。あふれるアイディアを整理して「いま、すっごくクリアな気持ち」と話すシンシアさんは、早速、「巻き込む力」を全開にして走り始めた。

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引き受けた以上は失敗したくない

《65歳からの働き方は週3。金土日月に休めるって大きい。ジムにもっと行ける。新しいプロジェクトも始められる。30歳に専業主婦になると決めたとき、こんな人生になるなんて、誰も予想できなかったでしょう。自分の価値観に沿って生きてきて本当に良かった!今日のランチは暖かいアボカドトースト》(2024年6月14日、シンシアさんのX〈旧Twitter〉より)

老後を考えている人は、いったん立ち止まって深く考えることがすごく大切だと思います。私にとって、この1か月間のジャーニーはとても意味がありました。結論にたどりついたら、すべてが本当にクリアになったし、週3日勤務になって、やりたいことを開拓できるようになったのも狙い通り。まさに理想のところに来ました。

社会へ恩返しする方法も、いろいろと考えています。私は寄付できるほど資産を持っているわけではありません。持っているのは「英語」と「営業」と「人脈」。この3つを誰かのために役立てたいけど、単なるボランティアは嫌です。戦略的にボランティアをしたい。関わるからには成果が欲しいと思っています。

転職の話を断った後、2週間かけて、誘いのあった話をすべて書き出して整理しました。いろんな人に連絡して見えてきたのは、一つ一つにビジネスチャンスがあるということ。だから今、種をまいています。

最初に実ったのは、子どもの学力アップの相談。ある母親に「英国の全寮制の学校に通う16歳の娘のライティング力が弱い。どうしたら良いか」と問われました。

薄井シンシアさん
引き受けた以上は失敗したくない
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私は彼女の娘とオンラインで直接話して「毎日4時間勉強できる? やる気が見えなければ中止するよ。24時間以内に返事をくださいね」と16歳の覚悟を問いました。引き受けた以上は失敗したくないからです。

彼女は夏休みに週2回、家庭教師をつけて勉強することになったので、IT企業勤務の知人に家庭教師を頼みました。私が見積書を作って双方が納得したので6月から勉強が始まりました。一つのビジネスが成立。成功すれば、次につながるかもしれません。お金稼ぎが目的ではないので、やりたいことへのこだわりが本当にありません。

シングルマザーにコーチング

シングルマザーの支援団体も手伝おうと思っています。ただ、手伝うからには組織を広げたいので三本柱の企画書をつくって提出しました。

一つ目の柱は母親たちにコーチングを受けさせること。企業の多くは、福利厚生として社員に「リーダーシップ」や「メンタルヘルス」のセミナーを提供しています。でも、コーチングが一番必要なシングルマザーたちの大半は受けていません。

私はよく「手伝うことがあれば声をかけてください」と言われます。だから、コーチングの資格を持っている知人に声をかけたら、すぐに5人が手を挙げてくれました。最初は小規模に始めたいので、5人のシングルマザーに1回30分のコーチングを3か月間受けてもらう。そうすればシングルマザーの人生が少しは変わるんじゃないかと期待しています。知人に手伝ってもらう時は、具体的な依頼をすることも大事だと思います。

子どもたちに別世界を見せる

二つ目はシングルマザーの子どもたち。外資系ホテルに勤務していた時、CSR(企業の社会的責任)の仕事で、DV家庭の支援施設を訪れたことがあります。その時に「大企業はクリスマスになるとおもちゃをくれるけど、それは自分でも買える。本当は『モノ』ではなく、子どもに別世界を見せたい」という話を聞きました。

ただ、ホテルも潤沢な予算があるわけではありません。母子30人をホテルに招いて3コースのランチを無料で提供しました。ラグジュアリーなホテルでランチを食べるって、特別な体験でしょう? 当日はテーブルマナーを教えて、ランチに関わったスタッフの仕事紹介をしました。後日、参加した数人の男の子が料理の道へ進んだと聞きました。

薄井シンシアさん
子どもたちに別世界を見せたい
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都内のホテルの総支配人を何人も知っているので、この案は実現できそうな気がします。もし協力者がいなくても、30人分のランチ代なら私が出せるので、ぜひ実現したいです。

経験を組み合わせれば良いと気づき、70代への不安が消えた

三つ目は資金調達。いろいろなNPO団体を見て感じるのは、良い人たちが良いことをしているのに組織力が弱いし、誰も事業の拡大を考えていません。私が拡大して、そのノウハウを一人のシングルマザーにすべて引き継ぎたい。そうすれば私が辞めても組織が回るし、彼女の収入にもなるでしょう?

資金調達はファンドレイジング(民間の非営利団体が個人や法人、政府から資金調達をする手法)を考えています。まだノウハウが浸透していないけれど、クラウドファンディングが注目されたように、これからファンドレイジングも増えると思います。

私はたくさんの経験をしてきました。その経験をパズルのように組み合わせればいいのだと気づいた時、70代への不安が無くなりました。

個別の人生相談を社会に活かしたい

私の元には、主婦から人生相談のダイレクトメールが続々と集まっています。仕事を続けてもいいし、キャリアから一旦降りてもいいと思います。今は時間を見つけて個別に返信しているけれど、そのアドバイスをウェブサイトで発信すれば、誰かのヒントになると思わない?

お互いを人生のサンプルにする目的で、相談者同士の交流会も始めました。ポジティブな人ばかり集まるから、すごく面白い。

先日の交流会では、ある会社を目指している女性が、出席者の中に関係者がいると知って「上を目指せるかも」と意気込んでいました。私が来年の企画を話したら「会場の心当たりがある」という人も現れました。

私がSNSで炎上した直後に「人生そのものがキャリア」と書いたTシャツを作って着てきた人もいました(笑)。私からお願いも指示もしていないけれど、みんな自分の意思で「T シャツを作りました」「企画書を作ります」と言ってくれるんです。一人で悩むより、みんなに背中を押してもらえることがすごく大事。そういう、ざっくばらんに相談しあえる会をつくれるのは、私だけかもしれません。

いろんな人を巻き込んだ方が相乗効果がある

私は自分の持っているボールを独占しないし、相手に何も求めません。例えば、女性リーダーの多くは取材を依頼されると自分で引き受けるでしょう? 私はそこまでエゴが大きくありません。だから取材依頼があると、「他の女性も一人か二人、載せてくれませんか?」と抱き合わせ取材を条件に出すことが増えました。私自身がスターになりたいのではなく、「専業主婦が再活躍することが当たり前の社会」にしたいのです。

私はメディアに出たくて出ているわけではありません。さまざまな世代にメッセージを届ける一つのツールだと思うから出ているだけ。一人で独占するより、いろんな人を巻き込んだほうが相乗効果があるでしょう?

◆薄井シンシアさん

薄井シンシアさん
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1959年、フィリピンの華僑の家に生まれる。結婚後、30歳で出産し、専業主婦に。47歳で再就職。娘が通う高校のカフェテリアで仕事を始め、日本に帰国後は、時給1300円の電話受付の仕事を経てANAインターコンチネンタルホテル東京に入社。3年で営業開発担当副支配人になり、シャングリ・ラ 東京に転職。2018年、日本コカ・コーラに入社し、オリンピックホスピタリティー担当に就任するも五輪延期により失職。2021年5月から2022年7月までLOF Hotel Management 日本法人社長を務める。2022年11月、外資系IT企業に入社。65歳からはGIVEのフェーズに。近著に『人生は、もっと、自分で決めていい』(日経BP)。@UsuiCynthia

撮影/小山志麻 構成/藤森かもめ

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