日本人の2人に1人が罹患するがんだが、医療の進歩により確実に生存率は上がっている。しかし、そうはいっても、実際に自分ががんと告知されたら……家族や大切な人にどう伝えるべきか。2020年に直腸がんと診断された歌手・女優の立花理佐（52才）は夫や息子にどう伝えたのか。
夫が優しく接してくれるほど疑心暗鬼に
「直腸がんと告知されたときは頭が真っ白になり、自分のことを言われている気がしませんでした」
そう語るのは立花。2020年、お尻に痛みを感じて病院で検査を受け、10日後にその結果を聞きに行った。車で病院まで一緒に行った夫は車内で待ち、ひとりでがん宣告を受けた。
「頭が真っ白なまま車に戻ると“どうだった？”と夫に聞かれました。空気を重くしたくなかったから、わざと明るく“がんだった”と答えると、夫は“あぁ、そうなんだ”とつぶやき、そのまま車内で10分ほどお互い無言でした。いろいろなことが頭の中をぐるぐると回って涙がこみ上げてきましたが、夫は黙ったまま、見ないふりをしてくれました」（立花・以下同）
その日から、夫は家事を手伝うなど優しく接してくれるようになったが、立花は複雑な思いを抱いていた。
「あまりにも夫が優しいので、実は私だけが余命を知らず死んじゃうのではないかと疑いました。告知されたとき、医師から余命やステージなどを聞かされなかったこともあって、本当は末期がんで夫と医師が話をつけていて、知らないのは私だけじゃないかって」
疑心暗鬼になったのには理由がある。彼女は過去に2度も家族に隠し事をされてつらい思いをした経験があったのだ。
「10代で芸能界入りして多忙な時期に祖母が亡くなりましたが、父は私の仕事に影響するといけないからと長い間祖母の死を隠していました。さらに母が末期がんになった際も、父は“治るがんだ”と嘘をついた。後になってこれらの事実を知ったとき、私はものすごく腹が立って、家族として認められていないのかと悔しかった。
いまとなっては気遣いから生じたボタンの掛け違いだったと納得できますが、そうした苦い経験をしたから自分のがんも“本当は末期では”と疑ってしまった。その後、冷静に考えたら私を抜きに夫が医師と話すことはないという思いに至りました」
高1息子に事実を話すと決意も帰宅後、思わぬ事態に
過去に事実を伝えてもらえず苦しんだからこそ自身ががんになり、深く悩んだのが「息子にどう伝えるか」という問題だった。
「母が末期がんだともっと早くわかっていたら、一緒に旅行するなどいろんなことができたはずです。だから当時高校1年生だった息子にはがんを隠すことなく、事実を話そうと決意しました。とはいえ、どう伝えればいいのか……。告知された日は、帰りの車内でずっと考えました」
だが、帰宅直後に思わぬ事態が生じた。
「家でゲームをしていた息子に、夫が“ママ、がんだって”とさらっと伝えたんです。なに勝手に言ってんのと思ったけど、息子も“そうなんだ”とさらっと返したから“えっ!?”と驚きました（苦笑）。その後、男同士でいろいろ話し合ったみたいで、息子も掃除や買い物を手伝ってくれるようになりました。
私と息子は好きなテレビ番組が似ていて、必ず一緒に見てくれるのもうれしかったです。治療がつらいときも気持ちが明るくなりました」
告知後、腸や子宮などの摘出手術を受け、現在も半年に一度の定期検診が続く。愛する家族に「本当のこと」を伝える意味を誰よりよく知る立花はこう語る。
「事実は必ず家族に伝えるべきだと思いますし、特に子供にはしっかりと話してほしい。がんになると病院でがんになったときのヒントが書かれた冊子をもらえることがあるので、参考にするのもいいと思います」
◆歌手・女優・立花理佐
1971年大阪府出身。1987年、ドラマ『毎度おさわがせします3』(TBS系)で、ドラマ初出演にして初主演。2020年に直腸がんと診断され、腸と子宮、卵巣の摘出手術を受けた。https://ameblo.jp/lisalovers/
※女性セブン2024年9月12日号