絶好の旅シーズンに開幕した「森の芸術祭 晴れの国・岡山」が、2024年11月24日まで開催中。会場となる岡山県北部は、のどかな自然に加え、城下町・宿場町など歴史ある街並みが残る地域だ。そこに「レアンドロ・エルリッヒ」「蜷川実花 with EiM」など世界で活躍するアーティストの作品が集結した「森の芸術祭」は、「この秋訪れるべきNo.1」だと旅行ジャーナリストの村田和子さんが言う。村田さんに芸術祭の見どころやお得情報を紹介してもらった。
* * *
「森の芸術祭 晴れの国・岡山」の舞台となる岡山県北部は、時の流れもゆったり。世界で活躍する有名アーティストの作品はもちろん、自然、レトロな町並み、美味しいものなど、心に響く「モノ」「コト」にあふれています。
「森の芸術祭」期間中(~11月24日)は、岡山駅、津山駅から鑑賞バスツアー(ランチ付きの1日コース)、各エリアまでのシャトルバスが運行され、各エリア内は無料循環バスなども運行。車がなくても、ひとり旅でも旅がしやすい環境が整います。
私も今回初めて訪れたところが多いのですが、「岡山県北部」は魅力が多く、それでいてゆったりと楽しめる、まさに穴場の旅先。芸術祭をきっかけに、五感に響く秋旅を満喫し、新たな地域の魅力を発見してみませんか?
「森の芸術祭 晴れの国・岡山」とは?
森の芸術祭の舞台は、岡山県北部エリアの12市町村。うち5つの市町(津山市・新見市・真庭市・鏡野町・奈義町)に作品が展示されています。
芸術祭の鑑賞には、鑑賞パスポート(大人3000円、大学生・専門学生2000円、高校生以下無料)が便利。鑑賞パスポートは、森の芸術祭開催中(~2024年11月24日まで)有効で、1施設1回の鑑賞ができます(※当日の再入場は可)。早めに入手すればリピートして長く楽しめます。(参考:単館での鑑賞は700円もしくは有料施設の場合は施設入館料)。
今回私が訪れた、津山市・新見市・真庭市・奈義町の4エリアについて、それぞれの見どころを順にご紹介します。
奈義/奈義町現代美術館周辺エリア~アート好き必見!ゲートボールも芸術祭の会場に
奈義町は列車の駅がなく、車でのアクセスが基本となる場所。ただし芸術祭期間中は毎日、岡山駅からシャトルバス(1800円:片道)が1往復運行し、岡山駅および津山駅発着の鑑賞バスツアー(ランチ付きの1日コース)も週末を中心に実施があります。アクセスがよくなる芸術祭を機に、ぜひ訪れたい、アート好きにはたまらないスポットです。
なんといっても驚くのは、奈義町現代美術館のクオリティの高さ! 日本で現代アートが注目される10年以上前に建てられたといい、体感型で鑑賞ができ、自分の中の常識が覆る驚きと発見があります。アートと建築が一体化した奈義町現代美術館の設計を担当した建築家の磯崎新氏も、森の芸術祭に参加しています。
他にも奈義町現代美術館には、坂本龍一氏と高谷史郎氏のコラボ作品などがあり、いつにも増して見どころが満載。
美術館の向かいにあるのが、地元の方の憩いの場である屋内ゲートボール場「すぱーく奈義」。実はここも芸術祭の会場で、金沢21世紀美術館の《スイミング・プール》で有名なレアンドロ・エルリッヒ氏が手掛けたインスタレーションが展示されています。入った瞬間に思わず歓声がもれる幻想的な作品は、画像ではなかなか全貌が伝わりません。一見の価値ありです。
一帯は那岐山をはじめとした山に囲まれ、秋の深まりとともに紅葉や雲海も楽しめるスポット。町内の無料シャトルバスを利用すれば、那岐山麓「山の駅」、なぎ高原「山彩村」などにも訪れることができ、秋の絶景も楽しめそうです。
ランチは奈義町現代美術館横の「ピッツェリア ラ・ジータ」がおすすめ。ピザが絶品なので、予約して出かけて。
津山/津山城周辺エリア~レトロな城下町の風情を楽しみながらのアート巡りが楽しい!
津山市は、江戸時代に発展した城下町。建物こそ取り壊されましたが、地上45mの石垣が健在で公園として整備されています。また古い町並みが残る「城東町並み保存地区」は、なまこ壁などの古い町家がカフェや食事処などになっており、情緒ある町歩きも楽しいエリアです。
そんな津山市内には、芸術祭の会場が10カ所もあり、循環バス(津山市内アート循環バス)も運行。作品の中で私がおすすめするのが、「津山まなびの鉄道館」のキムスージャ氏の作品。ノスタルジックな雰囲気と、訪れる時間で表情を変えるプリズムシートの光とのコラボが、心揺さぶる美しさを醸し出します。
そして大名の庭園が素晴らしい「衆楽園」では、リクリット・ティラヴァニ氏の、暖簾の作品が展示されています。美しい庭園を眺めながら、庭園内の木々がモチーフの暖簾の動きで風を感じるひとときは、日常の忙しさを忘れ心落ち着く時間が過ごせます。
ちなみにリクリット氏の作品(暖簾)は、真庭市の勝山町並み保存地区にある「ひのき草木染織工房」で、染織家の加納容子さんが染めを担当。古い家屋の軒先に、個性あふれる暖簾が揺れる町並みは、一見の価値あり。「勝山町並み保存地区」も芸術祭の会場となっており、妹島和世氏の椅子「あしあと」が町並みに溶け込むように佇んでいます。
岡山駅から津山駅までは、JR津山線の快速で約1時間10分。週末には1日1往復、美しい桜色の観光列車「SAKU美SAKU楽」も運行します。乗車券に指定席券(大人:530円、こども:260円)で乗車ができ、車内はレトロで懐かしい雰囲気。お弁当を予約して乗車すれば旅気分がさらに盛り上がります。
新見/満奇洞・井倉洞エリア~鍾乳洞がアートの舞台に。自然の織りなす造形美と蜷川氏の世界観に酔いしれる
自然豊かな新見市では、2つの鍾乳洞が芸術祭の舞台になっています。そのうちのひとつ満奇洞では、蜷川実花 with EiMによる《深淵に宿る、彼岸の夢》のインスタレーションが展開されています。
この鍾乳洞、全長500m弱もある立派なもので、天井が低い箇所では中腰になるなど足元に気を付けながら探検気分で進みます。「黄泉めぐり」とも評される作品の独特の世界観に身を置くと、吸い込まれそうで圧巻。赤に染まる鍾乳洞とヒガンバナのコラボは美しく神秘的、それでいてちょっと恐怖すら感じる迫力もあり見ごたえ充分です。
満奇洞へは、最寄りの新見駅から車で40分ほどの距離がありますが、会期中の土日祝は、新見市内の見どころをまわるシャトルバス(満奇洞・井倉洞シャトルバス)も運行。車がなくても大丈夫です(詳細の運行ダイヤやルートは確認のこと)。
また岡山駅から新見駅までは、普通列車(伯備線)で約1時間半、特急「やくも」で1時間なので、芸術祭の会場の中でもアクセスは便利です。
さらに芸術祭期間中は観光列車も週末に運行しています。10月は、通常山口県(日本海の海岸線)を走る「〇〇のはなし~岡山編~」が特別に伯備線を運行。沿線のストーリーが車内で楽しめるのも「〇〇のはなし」の特徴で、この日は「ぶどうの話」。高梁市・JA晴れの国岡山の職員の方が乗車し、おいしいぶどうの見分け方などをレクチャー、その後は試食や販売もありました。
11月からは「ラ・マル やまなみ」が同じ区間を運行します。手軽さから大人気。満席の場合もマメにサイトをチェックしていると空席がでることも意外とあります。ぜひチャレンジしてください。
芸術祭の回り方~1日1エリア、岡山駅・津山駅を拠点にお得な切符を活用しよう
森の芸術祭はエリアが広く、それぞれのエリア間の移動も時間がかかるため、1日1エリアのペースで計画するのがおすすめです。また宿泊するのなら、芸術祭エリアへの交通の便が良い、岡山駅、津山駅近辺が便利です。
効率的に回りたい、計画が面倒だという方には、岡山駅や津山駅から発着する、鑑賞バスツアー(ランチ付きの一日コース)が便利。作品の解説がありランチも芸術祭ならではのものが用意されるなど、存分に楽しめます。コースは2種類あり、価格はランチ込みで岡山駅発着が1万2000円、津山駅発着は1万円(鑑賞パスポートは別途購入が必要)。
そして芸術祭にあわせて発売される列車のきっぷが、とにかくお得!使わない手はありません!「tabiwa森の芸術祭2デイパス」(2500円、鑑賞パスポート付4500円)は、森の芸術祭の会場への足となる、自由周遊区間のJR普通列車、ならびに路線バスが乗り放題。指定席券や特急券などを別途購入すれば、観光列車や特急やくもなどにも乗車OK。岡山駅に宿をとっても、これさえあれば費用を気にせず、自由に列車やバスで芸術祭巡りができます。
さらにJR西日本の各エリア発着で、「森の芸術祭モリモリきっぷ」を発売。岡山駅までの往復新幹線に、先に紹介した2デイパス同様、自由周遊区間のJR普通車や路線バスが乗り放題(2500円相当)。さらに鑑賞パスポート(3000円)や、お土産セットがついて、大阪市内発着なら1万3500円と破格。
単純に新大阪駅と岡山駅を新幹線指定席で往復するだけでも1万2920円(通常期)なので、大盤振る舞いのきっぷといえるでしょう。一人から利用できますが予約は3日前までなのでご注意を。
各エリアでは、無料の巡回バスなども走っているので、上手に活用すればお財布にも優しく旅の計画ができますね。
アクセスの詳細は、森の芸術祭 晴れの国・岡山の公式サイト(https://forestartfest-okayama.jp/access/)もご覧ください。
まとめ~一日では回れない!混みあう前に足を運ぶ?紅葉を楽しむ?
鑑賞パスポートは、芸術祭開催中有効なので、早めに訪れれば何度かに分けて楽しむこともOK。会期後半になると混みあうことが予想されるので、ゆっくり作品を鑑賞するなら早めに訪れるのがいいでしょう。紅葉も一緒に楽しみたいというかたは、11月に入ってからがシーズンです。なお、月曜日は休館の施設があり、会場への足となるバスは週末のみ運行というものもあるので、曜日に気を付けて旅を計画するのもポイントです。
いかがでしたか? 今回ご紹介したのは、森の芸術祭のほんの一部。作品も岡山県北部も伝えきれない魅力がまだまだあります。ご自身で体感してくださいね。
■JRおでかけネット「森の芸術祭特集サイト」 https://www.jr-odekake.net/navi/forestartfest-okayama/
お得なきっぷやアクセス、鑑賞パスポートの情報など
■森の芸術祭 晴れの国・岡山 公式Webサイト https://forestartfest-okayama.jp/
◆教えてくれたのは:旅行ジャーナリスト・村田和子さん
旅行ジャーナリスト。「旅を通じて人・地域・社会が元気になる」をモットーに、旅の魅力を媒体で発信。宿のアドバイザー・講演なども行う。子どもと47都道府県を踏破した経験から「旅育メソッド(R)」を提唱、著書に「旅育BOOK~家族旅行で子どもの心と脳がぐんぐん育つ(日本実業出版社・2018)」。現在は50歳を迎え、子どもも大学生となり、人生100年時代を楽しむ旅を研究中。資格に総合旅行業務取扱管理者、1級販売士、クルーズアドバイザーなど。2016年より7年間、NHKラジオ『Nらじ』月一レギュラーを