不調改善

「痛そう」「怖い」とイメージされがちな「白内障手術」 施術は局所麻酔で10~30分、一度行えば再び症状が出ることはない 近視、遠視、乱視、老眼も補正可 

白内障手術をすることで視界が見やすくなる(写真/PIXTA)
写真6枚

老眼の一種である白内障は、いまやシニアにとって誰にでもかかりうる病だ。発症確率は60代で70%、70代で90%、80代でほぼ100%と推計され、日本眼科学会によると1年間に150万件以上の白内障手術が行われている。

手術は70代が多く、102才で受けた人も

「目の手術」というと、「痛そう」「怖い」というイメージが浮かぶが、実際はどのようなものなのか。二本松眼科病院副院長の平松類さんが言う。

「白内障は目の中でレンズの役割を担う水晶体が汚れてしまい、視界がぼやける症状です。治療は点眼などの薬物療法もできますが、手術によってレンズを“交換”できる。水晶体を人工レンズに入れ替えるもので、局所麻酔をして10~30分くらいですむ施術です。痛みもほとんどないので日帰りでできます」

手術を受ける年齢は、男女ともに70代が最も多く、80代、60代と続く。手術を受ける目安について平松さんは視力低下をあげる。

「眼鏡をかけても、0.7以下の視力になるようなら手術を検討していいと思います。角膜内皮細胞が弱いなど、人によっては手術が難しいケースもありますが、ごくまれでほとんどの人が受けられる。私が施術した最高齢は102才です」(平松さん・以下同)

白内障手術の3ステップとは
写真6枚

白内障の手術は一度行えば、再び症状が出ることはない。そればかりか、近視や遠視、乱視、老眼すらも補正できる。

「人工レンズは加齢による変化を受けないので、手術を受ければその後は白内障同様、老眼にもなりません。

レンズにはいくつか種類があり、大きく分けると遠くか近くのどちらか1点にピントを合わせる単焦点レンズと、遠くも近くも見える多焦点レンズがあります。ぎらつくなどのデメリットもありますが、老眼も治したいなら多焦点レンズを選ぶことになります」

単焦点レンズでの手術費用は保険が適用されるため数万円の負担だが、多焦点レンズの場合は性能によって保険適用外のものもあり価格は数十万~100万円超と高額になる。

交通事故のリスクを回避

実際に白内障手術を受けた人たちからは、「見え方が変わって、人生も変わった」という声が聞こえてくる。

埼玉県に住む主婦、Aさん(49才)は、加齢による症状ではなく持病の糖尿病が引き起こした白内障で、失明のリスクもあった。

糖尿病が白内障を引き起こすケースもある(写真/PIXTA)
写真6枚

「ちょうど老眼が始まっていたので眼鏡で調節をすれば日常生活に不便はないくらいの症状でしたが、糖尿病の診断を受け網膜?離からの失明が怖くて手術を決意しました。

笑気麻酔(鎮静効果のある笑気ガスを鼻から吸引する麻酔)でうとうとしているうちに手術が終わり、術後は視界がパーッと開けたような、曇り空が急に晴れたような感じでした。老眼もすっかり治ってしまって。手術に不安もありましたが、失明の恐怖から逃れられたのがいちばんよかったです」

千葉県で介護士として働くBさん(58才)も続ける。

「利用者さんの送迎もするので、目が見えにくくなって距離感がつかめず運転に支障が出てしまうのが心配でした。前の車との車間距離を異様にとるようになってしまったりと、利用者さんのご家族まで不安にさせてしまい、事故を起こしてからでは遅いと手術を決意したんです。

15分くらいですぐに終わって、ビクビクしていたのに拍子抜け。目を開けたらもう別世界でした。油膜でギラギラだったフロントガラスがキュッとピカピカになった感じです。長時間の運転も苦にならなくなり、事故のリスクもぐんと減らせた。不安要素がないと、ストレスがなくて精神的にもすごく楽です」

「運転への不安が軽減された」という手術経験者は多い(写真/PIXTA)
写真6枚

平松さんのもとにも、手術を受けた患者からの驚きの声が届いている。

「目が見えにくくなると、できないことって意外と多いんです。手術を受けて、『趣味のテニスができるようになった』『テレビもはっきり見える』と日常のささいなことから楽しみまでできることが増え、それが活力につながります」(平松さん・以下同)

色彩が明るく鮮やかに見える

手術による効果は、視力アップだけではないという。

「白内障は視力低下だけではなく色がわかりにくくなるという症状もあります。暗いところで台所仕事をしていると、ガスの青い炎がわからなくて、コンロの火がついていることに気づかないという危険もある。手術は、そういったリスクを回避し、色彩をよりはっきり認識できるようになる効果が得られます」

都内でダンス講師をするCさん(63才)も、術後に色の識別ができるようになり感動したひとり。

「見えにくさを感じて眼科を受診し、白内障と言われたときは“おばあさんみたいじゃない”と思って落ち込みました。充分、おばあさんなんですけど(笑い)。認めたくない気持ちもあったし、目を使う仕事でもなかったので手術には踏み切れなかったんです。

でもだんだん色がわからないというか、娘や孫から『服の趣味が変わって派手になった』『化粧がおてもやんみたい』と言われるようになって。色の識別が正しくできなくなっていたせいで、洋服の色がどんどん派手になって、メイクもどんどん濃くなっていたのに自覚がなかった。

1泊入院で手術を受けたらすごくよく見えるようになり、目をこらすことがなくなったので、おでこにあったサルみたいなしわも薄くなりました。疲れ目もなくなったせいか、目元のクマも以前より目立たなくなりましたよ。結果的に白内障の手術を受けたことで若返りを実感しています」

初期の場合は目薬による点眼治療も行われるが、「改善されない」「悪化している」という場合は医師に相談しよう(写真/PIXTA)
写真6枚

神奈川県で飲食店を経営するDさん(69才)は、見えにくさでイライラすることがなくなり仕事もスムーズにできるようになったと話す。

「老人性白内障と診断されたときは“年のせいだからしょうがない”くらいに考えていて、目薬で持ちこたえていたんですけど、とにかく視力が悪くなってしまって、どんどん老眼鏡が合わなくなったんです。読書が趣味なので余計進行してしまったみたい。ルーペで本を読むのも疲れるし、調味料の分量は量れないし、包丁で指は切るし、肩こりはひどくなるしで、日常の不便さにイラつくようになって、お医者さんから手術をすすめられて受けることにしました。

手術というものをいままで経験したことがなかったから不安はありましたけど、麻酔がよく効いていたせいか、目の前がもやもやしているうちに終わりました。

術後はものがはっきり見えるだけでなく、食材の色も見分けられるので新鮮なものを選ぶことができるし、字がきれいになりました。以前はバランスよく字が書けなくて下手くそだったんですよ。老眼も治って手や顔のシミがよく見えるようになったのはガッカリですけど、現状をシビアに把握することで適切なケアができるようになったと考えればかえってよかったかな(笑い)」

ゴルフが趣味というEさん(52才)は手術を受けた後、プレー中に感動したと話す。

「ゴルフボールが見えやすくなったのはもちろんですが、以前は緑一色にしか見えなかった木々のグラデーションがよくわかるようになった。空や海の色の変化も感じられて、見慣れているはずの景色がまるで別世界のように鮮やかに見えるんです。  自然の美しさを当たり前のように楽しめるようになって、ゴルフがより楽しくなりました」

認知症かと思ったら視力改善で回復

Dさんのように見えるようになったからこそ、“見たくないもの”が浮かび上がってきてしまうこともあるが、それよりもなお視力回復のメリットは大きい。

鏡に映る自分の顔もくっきり見えるように(写真/PIXTA)
写真6枚

「手術後、“こんなにしわがあるとは思わなかった”とか、自宅に帰って“家がこんなに汚かったなんて”と愕然とするかたはたしかにいらっしゃいます。

でも、老眼鏡や眼鏡をかける手間、それを探す手間がかからないだけですごく快適だとおっしゃるかたも多い。  目が見えるということは、精神的にもプラスに作用します。仕事がしやすくなったり社会との交流に積極的になったり、外出が億劫だった人が外に出るようになったケースは多々あります」(平松さん・以下同)

目が見えにくくなることで、社会との交流が減れば認知症のリスクも高まる。実際、白内障の症状が悪化して認知症のような症状が出てしまう人もいる。

「食事も自分でできなくなり、歩行も難しくなって、家族全員が認知症だと思っていたかたが、白内障の手術をしたらすたすた歩けるようになって、介助もいらなくなったと家族が驚くパターンは珍しくありません。手術をして目がよく見えるようになると、脳の認知機能も上がり認知症リスクも軽減されるといわれています」

50才を過ぎると、半数以上の人に症状が現れるという白内障。気づかないままに放置すれば悪化してしまうこともあるため、早めの検診が必要だ。

「まだ50才だから、60才だからと思わず、見えにくさを感じたら一度は眼科医に診断してもらいましょう。老眼鏡が合わなくなったり、急に新聞の文字が読めなくなるなど違和感を覚えたときが検査のタイミングです。

白内障の手術は極めてリスクが低いといわれていますが、それでもゼロではありません。自分の目の状態をきちんと把握し、どの程度見えるようになりたいかを医師とよく相談して判断しましょう」

目は一生もの。思いきった決断があなたの人生後半戦を大きく変えるかもしれない。

※女性セブン2024年11月7日号

関連キーワード