色とりどりの紅葉を楽しめて気候も快適な秋は、山歩きデビューにぴったりの季節。登山経験豊富な俳優・市毛良枝さん(74才)が、山の魅力や初心者の心得を指南する。
辛さを忘れるほどの自然を味わえるのが魅力
市毛さんの山デビューは40才のとき。北アルプスの燕岳から常念岳を2泊3日かけて歩いた。
「初心者にはきついルートなので驚かれますが、登るごとに目の前に違う景色が現れ、その瞬間に辛さを忘れてしまうほど。運動音痴で体力もないと思っていたのに、『バランスがいいね』と褒められたのもうれしくて、すっかり山にハマりました。自然を味わいながらじっくり登ると、豊かな気持ちになります」(市毛さん・以下同)
市毛良枝さんの初めての山歩き5つのポイント
「初心者向き」と言われている山でも油断は禁物! 安全の基本や最低限のルールなど、山歩きをはじめる前に知っておくべきことを聞いた。
【1】経験者と一緒に行く
「安全のためはもちろんですが、歩く速さなどのポイントや景色の見所を経験者に教えてもらうと、山歩きがグンと楽しくなります。私が山に目覚めたのも、初めて山に連れて行ってくれた人が楽しさを教えてくれたおかげです。周りに経験者がいない場合は、プロのガイドさんを頼むという方法も」
【2】疲れを感じる前に休憩をとる
「疲れを感じていなくても、例えば1時間に5分程度の休憩を。腰を下ろしてしっかり休んでしまうと、山歩きに慣れてきた体がリセットされて再度歩き出す時にかえって疲れてしまうので、何かにもたれかかるなど立ったまま休むといいですよ」
【3】お腹が空く前に糖分や水分を補給する
「山ではお腹が空いてエネルギー不足になることを“シャリバテ”と言います。私も登山をはじめた頃、お腹が空きすぎて歩けなくなってしまい、大福を食べたら元気になったという経験があります。
水と、手軽に食べられてエネルギーに変わりやすいチョコレートや飴などを行動食として持っていき、空腹を感じる前に少しずつ食べましょう。糖分と水分の補給はとても大切です」
【4】服は化繊を。雨具とヘッドランプはマスト
「『初心者向けの低山だから』とジーンズで登る人がいますが、ジーンズは汗や雨で濡れると締まって脚が動かしにくくなるので要注意。歩くと汗をかくため、登山専用の服がなければジャージでもいいので速乾性のある化繊の服を。
汗は体を冷やすので、替えのシャツもあるとベストです。また、山は天候が変わりやすいので雨具も必須。昼に下山予定でも、道に迷ってしまうなどの危険に備えてヘッドランプも持っていきましょう」
【5】低山こそルートから外れないよう気をつける
「低山なら安全だと思っている人が多いのですが、侮ってはいけません! 低山は登山道が整っておらずルートが多いため、標識を見落としたり、登山道と間違えて獣道を進んでしまったりすると戻れなくなることも。六甲山に散歩に行った人が、20日以上も帰れなかったということもあったんですよ。公式のガイドブックや地図で下調べをしておくなど、ルートから外れないように気をつけましょう」
茨城・筑波山の歩き方
日本百名山の中でも、標高が低く初心者でもチャレンジしやすい筑波山。見所とおすすめのルートを紹介する。
【茨城・筑波山】
・標高:877m
・紅葉の見頃:11月上旬
・おすすめルート:ロープウェイつつじヶ丘駅→弁慶茶屋跡→女体山山頂→御幸ヶ原→自然研究路(男体山)→ロープウェイ女体山駅 歩行時間は約3時間15分
・アクセス:【電車】つくばエクスプレスつくば駅から筑波山シャトルバスでつつじヶ丘駅へ。【車】常磐自動車道土浦北ICから約20km。北関東自動車道桜川筑西ICから約20km。
※紅葉の見頃は例年を参考にした予想。
■つくば市経済部観光推進課 https://www.city.tsukuba.lg.jp/tourism/tsukubasan/index.html
奇岩や自然散策など見所が多く飽き
首都圏からもアクセスしやすく、豊かな自然の魅力を堪能できる筑波山。
「石の下をくぐる『弁慶七戻り』などの奇岩が多いコースは、少しハードですが見所が多く飽きません。
山は早出・早着が基本。道に迷ったり、ケガをしたりと想定外のことに備え、15時までに下山するように計画を立てましょう」(日本トレッキング協会・以下同)
・奇岩の数々を楽しむ
弁慶茶屋跡から女体山山頂までの間は、弁慶七戻りや北斗岩などの巨岩や奇岩が次々に出現し、まるでロールプレイングゲームの世界!
・自然の中を散策できる
御幸ヶ原近くの推定樹齢800年の紫峰杉。
男体山山頂付近をぐるりと一周する自然研究路では、ブナ林など筑波の自然を観察できる。
・帰りはロープウェイを利用する
つつじヶ丘駅と女体山駅の間を約6分で結ぶロープウェイは初心者の強い味方。「ロープウェイで下山すれば、山の中での時間を確保でき、体力に自信がない初心者でも安心して楽しめます」。
アドバイス【1】登山アプリを活用して遭難防止
「登山アプリを使って事前に地図をダウンロードしておくのがおすすめ。自分の現在位置を表示したり、ルートから外れると警告音が鳴ったりする便利機能があるので安心です」
【YAMAP】460万ダウンロード突破の登山地図GPSアプリ。
【ヤマレコ】GPSで歩いた軌跡(GPSログ)を残すことができる。
アドバイス【2】足裏全体で着地!転びにくい歩き方をする
山で転倒すると思わぬケガをすることもあるので要注意。「足裏全体で着地するように、小さな歩幅でゆっくり歩きましょう。整備されたルートならスニーカーでもよいですが、岩場ではトレッキングシューズの方が滑りにくく、歩きやすい」。
◆俳優・市毛良枝さん
40才ではじめた登山を趣味とし、キリマンジャロやヒマラヤなどの登山経験もある。日本トレッキング協会理事。著書に『73歳、ひとり楽しむ山歩き』(KADOKAWA)などがある。
取材・文/青山貴子
※女性セブン2024年11月14日号