不調改善

「脳」を専門とする医師10人が明かす“認知症リスク低下を目指すルーティン” 運動、食事、心の持ちよう…最期まで“健康な脳”を保つために

健康な脳を保つためには認知症リスク低下を目指すルーティンが必要(写真/PIXTA)
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今年5月、厚生労働省が発表した調査によると、認知症の患者数は2025年には約471万人となり、2040年には約584万人にのぼる見込みだ。これは高齢者の15%にあたるという。難しいのは脳内は目に見えず、予防のための有力な手だてがわかりづらいこと。では専門家たちはどう予防しているのか。脳の名医たちに取材した。

1日7000歩のウオーキング、毎朝のラジオ体操

まず、多くの医師が実践しているのは「運動」だ。鳥取大学医学部教授で認知症予防の第一人者である浦上克哉さんは、その重要性をこう説明する。

鳥取大学医学部教授の浦上克哉さん
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「脳に最もよくないことのひとつは、筋肉の衰えです。筋力が低下すると転倒や骨折のリスクが上がり、床にふせる時間が増えて認知機能が下がります。ウオーキングなどの有酸素運動や筋トレを適度に行って、体力維持を心がけるといいでしょう。ウオーキングは1日7000歩が目安です。

私が住む鳥取は車中心の生活になるので、買い物のときにあえて駐車場の入り口から遠いところに車を止めるなど、歩数を増やす工夫をしています。筋トレもジムで行い、自宅ではスクワットを1日に10分ほど行っています」

おくむらメモリークリニック理事長で脳神経外科医の奥村歩さんは週1回、クリニックまでの5kmを歩く。

おくむらメモリークリニック理事長の奥村歩さん
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「日頃から運動習慣のある人は脳の神経が活性化しやすく、認知症になりにくい。推奨したいのは、四季の移り変わりを感じながら散歩する『五感刺激散歩法』です。道端で見かける季節の草花や生き物などに五感で反応することが、脳にいい刺激になります」

藤田医科大学ばんたね病院の脳神経外科教授で、未破裂脳動脈瘤の出血を防ぐ「クリッピング術」の世界的名医である加藤庸子さんは、毎朝の「ラジオ体操」を欠かさない。

藤田医科大学ばんたね病院の脳神経外科教授の加藤庸子さん
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「体がほぐれ、何より脳の血流が上がってやる気が出ます。長生きして90才くらいになると、人によっては脳の血流が急激に低下し、そのせいで一日中眠っているようなケースも珍しくないです。体を動かして脳の血流を上げることは、認知症予防にも有効です」

家事を積極的にやる、家族や友人とのグルーミングも

運動に加えて睡眠も大事な役割を果たすと話すのは、加藤プラチナクリニック院長で認知症が専門の加藤俊徳さんだ。

加藤プラチナクリニック院長の加藤俊徳さん
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「認知症予防には、発症因子といわれる『アミロイドβ』などの老廃物を脳にためないことがポイント。老廃物は日中よりも、睡眠中により多く排出されるので、睡眠の質が悪いと認知症のリスクが高くなる。睡眠時間は最低でも8時間は確保しましょう。

私は睡眠をしっかりとるために22時半には寝て、7時に起きる生活を続けています。忙しくて寝る時間が遅くなることもありますが、生活リズムを決めているので“昨日はあまり休めていないから、今日はいつもより早く寝よう”などと調整しやすいです」

1日に体が消費するエネルギーのうち、脳が消費する割合は約20%と多い。金町駅前脳神経内科院長の内野勝行さんは、「脳は“燃費が悪い”ので、オンとオフを意識して切り替えている」と話す。

金町駅前脳神経内科院長の内野勝行さん
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「脳が疲れすぎて『脳疲労』になると、趣味や仕事での集中力が落ちるだけでなく、うつや認知症のリスクが高くなる。“今日のランチは何にしよう”と考えるだけでも脳はエネルギーを使うもの。私自身は食事にあまり興味がないのでランチは毎日同じメニューを食べ、脳を休ませる時間を作ります。逆に趣味は多いので、疲れない程度に脳を活性化させるため複数のことを並行して行い、本も2冊を同時に読み進めています」(内野さん)

奥村さんは、不要な情報は脳に入れない「ニュースダイエット」を心がける。

「用事がないときはスマホを見ないですし、ネガティブなニュースや人の悪口など必要のない情報は脳に入れないようにしています。

残念ながら日本は、OECD加盟国の中で認知症患者の割合が最も高い。その理由は、スマホの見すぎで情報過多になり、脳が疲弊しているからだと考えられます。現代の日本人が1日で脳の中に入れる情報は、江戸時代の1年分に相当するといわれるほど。食べすぎると健康を害するのと同じで、情報を脳に入れすぎないことが重要です」

つまり、脳のエネルギーを使いすぎて脳を酷使することを避け、適度に活性化させることが肝要なのだ。

「そのためには家事を積極的にやるのがいちばん。認知症予防には、自分で考え、記憶し、判断するような知的活動が効果的です。例えば運動やゲーム、パズルのほか、順序立ててやる家事も立派な知的活動です。特に料理は順番や段取りを考えるので、脳の活性化にいいです」(加藤庸子さん)

社会活動や人間関係を維持するのも重要だ。赤坂山王メディカルセンター脳神経内科部長の内山真一郎さんが言う。

赤坂山王メディカルセンター脳神経内科部長の内山真一郎さん
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「人とのコミュニケーションは脳を活性化させるので、いくつになっても社会とつながることが必要です。おすすめはどんな仕事でもいいので働くこと。私も働ける限りは働くつもりです」

東邦大学名誉教授の有田秀穂さんは、「グルーミング」を心がけていると話す。

東邦大学名誉教授の有田秀穂さん
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「ペットの毛づくろいを想像するかもしれませんが、脳科学の世界では『心温まるふれあい』のことを指し、認知症予防に効果的だとされています。家族と顔を合わせて食事をしたり、リラックスして友達とおしゃべりするだけでいい。必ずしも会話を交わす必要はなく、ペットやぬいぐるみとのふれあいでも効果があります」

人とつながり続けるためには、年を重ねても相手の言葉をキャッチアップする必要がある。菅原脳神経外科クリニック院長の菅原道仁さんが言う。

菅原脳神経外科クリニック院長の菅原道仁さん
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「難聴の人は認知症になりやすいというデータがある。大きな音にさらされる時間が増えるほど難聴になりやすいので私はヘッドホンを使わないですし、大きな音で音楽を聴かないなど気をつけています」

サーモン、バナナ、週1カレー、シークワーサージュース

脳も体の一部である以上、食べたものの影響も受ける。多くの医師に共通したのは栄養バランスを考え、体に悪いものを避けるという回答だ。加藤俊徳さんが言う。

「積極的に食べているのはサーモンです。老化を防ぐ抗酸化物質が豊富で、良質なたんぱく質と脂質が摂れます。不足するビタミンなどはサプリメントで補い、不摂生したときは翌日の食事の内容を調整して、バランスを取っています」

有田さんは「1本のバナナ」が日課だ。

「“睡眠ホルモン”といわれるメラトニンの分泌量を上げることで、アルツハイマー型認知症を含めた脳の老化が予防できる。メラトニンを増やすにはその原料である“幸せホルモン”のセロトニンを増やす必要がある。セロトニンは必須アミノ酸のトリプトファンや炭水化物、ビタミンB6から生成され、それらの成分はバナナにバランスよく含まれています」

いのくちファミリークリニック院長の遠藤英俊さんの習慣は週1回のカレーと、シークワーサーをジュースにして飲むこと。

「カレーに使われるスパイスのターメリック(ウコン)には、ポリフェノールの一種『クルクミン』が含まれており、これは脳のアミロイドβの沈着を半減させるといわれています。またシークワーサーは、脳の神経細胞を保護して炎症を抑える作用がある『ノビレチン』を多く含有します」

認知症予防を専門に行うひろかわクリニック院長の広川慶裕さんは、「腸活」に重きを置く。

ひろかわクリニック院長の広川慶裕さん
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「セロトニンなど脳内ホルモンの原料はほとんどが腸内細菌で作られるので、腸の調子に左右される。そのため、腸にいい食物繊維と乳酸菌、ビフィズス菌などを取り込むように心がけています。食物繊維は1日20g以上は摂ってほしい」

脳の老化を防ぐためには控えるべき食品もある。加藤庸子さんは動脈硬化を防ぐために、揚げ物やファストフードなどは避けている。

「野菜や魚、赤身肉中心の生活で、脂肪分が多いバターも口にしません。認知症は老化現象ではなく、脳の病気のひとつ。食事を含めた生活習慣が乱れている人ほどなりやすく、脳梗塞など脳の血管の病気も認知症発症リスクを上げます」

内野さんは、なるべく白砂糖は食べないように気をつけていると明かす。

「認知症は脳の細胞が炎症を起こすことで発症する病気なので、体内に炎症を引き起こす物質を取り入れないことが予防になる。砂糖を摂りすぎると、体の中で糖が体内のたんぱく質などと結びついて、細胞などを劣化させ、慢性炎症を引き起こします」

人間関係に悩まず、好きなことをする

ただし、こだわりすぎるのは逆効果だと内野さんは続ける。

「“これが体にいい”と聞くとやりすぎる人もいますが、いかに健康的であっても無理して過度なストレスを感じるようでは脳によくありません。逆に好きなことをしているときは幸せホルモンのドーパミンが出るので、気の合わない人と食べるヘルシーな料理より、気のおけない人と楽しく食べるカップラーメンの方が脳にはいいといえます」

奥村さんはどんな対策にも勝るのが、人生を豊かにすることだと話す。

「実際に患者さんを診ていると家族や友人に恵まれ、好奇心旺盛な人ほど認知症になりにくい。つまり、人間関係に悩みすぎず、好きなことをして楽しく生きることが、認知症予防になるのです」

そのために浦上さんは「高齢者になるほど、生きがいを持って」とアドバイスする。

「生きる気力がなくなれば、食事も生活習慣もどうでもよくなってしまう。生きがいがあるからこそ、脳も体も健康になるので、知的好奇心を持って、いくつになっても新しいことにチャレンジしましょう」

高齢者の6人に1人が認知症になる時代、いつ予防を始めても遅すぎることはない。さっそく今日から取り組もう。

脳の名医が本当にやっている「ボケない究極習慣」
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※女性セブン2024年9月5日号

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