過去にないスピードで拡大中の美容医療市場。この10年間で市場規模は5倍にも膨らんでいる。しかし、美容医療を受ける人が増えればトラブルも増える。技術や意識の低い医師が参入し、粗製濫造の施術がはびこる現実もある。美容医療で失敗しないために、押さえるべきポイントとは──。【前後編の後編】
後を絶たない美容医療に関するトラブル
美容医療で生じたトラブルを修正するための費用は、施術を受けたクリニックがミスを認めて再施術をする場合以外は、基本的には自己負担だ。施術の善しあしだけでなく、こうしたお金にまつわるトラブルも後を絶たない。美容医療に関するニュースサイト「ヒフコNEWS」編集長の星良孝さんが言う。
「美容医療でのクーリング・オフは、『施術期間が1か月以上、施術代金が5万円以上』という条件を満たさなければならず、一度のレーザー照射や二重手術などは当てはまらないことが多い。これをいいことに、“どうせクーリング・オフの対象にはならないから”とクリニック側がむりやり契約を迫るなどの問題も増加しています。
国民生活センターに寄せられた美容医療に関するトラブルの相談件数は、昨年だけでも6264件。金銭トラブルについての内容も多く、これは氷山の一角に過ぎません。美容医療ブームの昨今、さらに増えていくでしょう」(星さん)
ただし術後の仕上がりに満足がいかない場合、期間や回数に制限はあるものの再手術や修正を行ったり、保証制度を設けるクリニックも多い。選ぶ際はそうした制度がきちんと整っているかもしっかり確認しよう。美容医療のほとんどは自由診療のため高額なものが多い。だからといって、美容医療を「安さ」だけで選んではいけない。26才から美容医療を続け、41才の現在は輝くようなツヤ肌をキープしている美容愛好家のmimiさんは、こう話す。
「格安で施術を受けられるモニターを募集しているクリニックも見受けられますが、これはある程度実績のある医師が独立開業するための症例としてモニターを探している場合と、まったくの新人医師が経験を積むための、いわば“練習台”にしようとしている場合があり、後者はリスクを伴う可能性も。見極めは難しく、安易にモニターとして施術を受けるのは避けるのが無難です」
極端な割引価格は“ぼったくりクリニック”の可能性も
また、ウェブサイトやSNSに極端な割引価格が表示されている場合は“ぼったくりクリニック”の可能性がある。都内のSさん(34才)が言う。
「美肌レーザーが1回2000円で受けられると書いてあったので来院すると、医師ではなく『コーディネーター』と名乗るスタッフと個室で1対1にされ、レーザーではなく40万円のコースと12万円の糸リフトをすすめられました。
“セットで受けなければきれいになれませんよ““あなたはどんな化粧品を使ってもムダです”“いますぐ契約して施術を受けなければ10%オフになりませんが、よろしいんですね”などとコンプレックスを煽って長時間詰め寄られ、疲れ果てて契約してしまいました。結局効果もよくわからないし、そのクリニックに通うのもいやになって、コースの途中で行かなくなりました」
医師以外のカウンセラー(コーディネーター)などが施術をすすめるのはそもそも法律違反だ。主に美容医療での後遺症治療を行う術後後遺症相談外来を設けているティーズクリニック院長の田牧聡志さんが説明する。
「たとえ押し負けて契約してしまっても、納得できていないなら施術は受けないこと。契約だけなら解約できますが、1回でも施術を受けると費用が発生します。カウンセリングに行く場合は、念のためスマホに消費生活センターか警察署の電話番号を登録しておき、トラブルになったときはその場で専門機関に助けてもらえるようにしておきましょう。許可を取って会話を録音するのも手です」(田牧さん)
チェックすべきはインスタよりX
決して安くないお金とリスクを払って施術を受ける以上、間違いのないクリニックとドクターを選びたい。そのためには、予約を取る前に必ずクリニックのウェブサイトを確認しよう。診療メニューしかなく、院長の顔と名前、経歴が書かれていないクリニックは信頼できない。
「形成外科か皮膚科の専門医や、日本形成外科学会の正会員資格を持つ医師で構成された『JSAPS(日本美容外科学会)』に所属している医師を選びましょう」(田牧さん)
だが悪質なところでは、有名医師が名義だけ貸しているクリニックもある。さらに恐ろしいのは「シャドードクター」だ。
「麻酔だけ有名医師が担当し、患者が眠ったら別の新人医師が執刀。終わるとまた最初の医師が出てきて、あたかも名医が執刀したかのように錯覚させるのです。医師のSNSを見る際は、写真が中心のインスタグラムよりも、文字ベースでの情報発信力が求められるX(旧ツイッター)の方がいい。信頼できる情報を発信しているか、本当にそのクリニックで勤務しているかチェックを」(星さん)
安易に受けると間違った方向に進み、戻れなくなるケースも
mimiさんは「美容医療は“お金を払えば誰でも必ずきれいになれる魔法”ではない」と語る。
「私も、美容医療を受け始めたばかりの頃は手探りでした。できる限りの情報収集をし、初めてのクリニックでは注射や糸リフトといったリスクの高い施術ではなく、光治療やピーリングといったエステの延長線のようなメニューから試し、吟味しながら少しずつ施術を重ねていったんです」(mimiさん)
きちんと吟味せずに美容医療を受け続けると、どんどん間違った方向に進み、戻れなくなってしまう場合もある。埼玉県のUさん(48才)は、韓国の芸能事務所に所属している22才の娘の“美容医療遍歴”に涙する。
「“横顔が理想的ではない”という事務所の命令で、娘はあごの骨を切ってワイヤーで固定するという大がかりな手術を受けました。1か月もの間、夜も眠れないほどの痛みと腫れに苦しんだうえ、その後半年は唇がまひして、食事も会話も満足にできませんでした。
それなのに、ダウンタイムを終えたら、あごは不自然にとがって顔全体のバランスがおかしい。事務所は“鼻を細くすればバランスがよくなる”と、また別の手術をすすめてきたんです。娘はいまもまひが残っていて、夢を諦めるか悩んでいます。もうデビューなんてしなくていいから、元の娘の顔を返してほしい」
美は一日にしてならず。美容医療と私たちの距離は近づいたが、過信は禁物。入念な情報収集と慎重な選択を心がけよう。
(了。前編を読む)
※女性セブン2024年11月21日号