安全面や衛生面、廃棄食品を減らす観点から“回らない回転寿司”が増えるなか、「リアルに流す回転寿司」を追求し続ける回転寿司チェ-ン「くら寿司」では、回転レーンを活用した新サービスが登場した。その名も「プレゼントシステム」。季節のフルーツケーキやプリンアラモード、特撰ばらちらしが、ピカピカときらめく装飾と「おめでとう」などのメッセージとともに、なんとも楽しげな音楽にのせて回転レーンを流れてくるのだ。
大手で唯一「回転」を続けられる理由
実はいま、大手寿司チェーンの「回転離れ」が進んでいる。かっぱ寿司は2022年3月に回転レーンでの商品提供の中止を発表、スシローは2023年1月に発生した迷惑動画の投稿をきっかけに寿司レーンで回すことを中止し、いまなお復活していない。しかしそんななか、くら寿司は「回転寿司の本来の魅力は、さまざまなお寿司やメニューが目の前を流れる回転レーンにこそある」と、「回る寿司」にこだわりを見せている。
というのも、くら寿司には他のチェーン店にない武器がある。
「当社が474人に実施したアンケート調査によると、52.7%が『ベルトにお寿司が流れている回転寿司の店』を利用したいと回答しています。コロナ禍や不適切動画の投稿など、企業側にとって逆風の中でも、2011年に開発した『抗菌寿司カバー鮮度くん』によって寿司を安全に、おいしさをキープしてお客様にお届けすることができます」(『くら寿司』取締役広報宣伝・IR本部長の岡本浩之さん)
『抗菌寿司カバー鮮度くん』は、令和6年度の「地方発明表彰」で「発明奨励賞」を受賞した。
ウイルスや飛沫、ホコリなどからお寿司を守り、カバーに蝕れずに皿を取り出すことができる画期的なこのシステムは衛生管理の面以上の利点がある。アメリカの検査会社EMSL Analytical, Incは「抗菌寿司カバー鮮度くん」により、細菌の繁殖を約1/7、カビの繁殖を約1/8に抑える効果があることを証明。全米で最も規制の厳しいカリフォルニア州での出店を実現させている。
AIカメラで進化
利用者に安心して回転寿司を楽しんでもらうための工夫は、「抗菌寿司カバー鮮度くん」だけではない。寿司を流す回転レーンの上に注文レーンを設置し、回転レーンを分離することで、温かいものは温かいまま、冷めたいものは冷めたいまま届けることが可能になっている。
さらに、回転レーンを流れる「抗菌寿司カバー」の不審な開閉を検知できるAIカメラシステムを導入。不審な開閉を検知すると、異常が検知された寿司皿を速やかに撤去。利用者の不安解消につながっている。
回転寿司の魅力は、回転レーンにこそある
「回転寿司がここまで日本国内に広く浸透したのは、お寿司が目の前を回っているという“楽しさの提供”が大きな要素だったと考えます。昨年から続いている物価上昇に伴い、全国で約50%の方が節約を意識し、そのうち77.3%の方が外食の回数を減らす『外食控え』が顕著な状況になっていますが、回転寿司の楽しさの源泉である回転レーンを活用することで、外食でしか味わえない・体験できない店内エンターテインメント“店タメ”を充実させることで、外食にでかけるきっかけになれば」(岡本さん・以下同)
同社は、ハレの日のお祝いで外食したいメニューの第1位が寿司で69.3%を占めること(ぐるなびリサーチ部「ハレの日外食に関する調査」による)や、約50%が季節に1回以上、ハレの日外食として寿司を食べていることに着目。「ハレの日用新サービス」として、このたびの「プレゼントシステム」を開発したのだ。
キラキラパレードは、回転レーンの新活用
テーブルに置かれたタッチパネルかスマホでオーダーすると、回転レーンからポップな音楽に乗って、まるでパレードのように光る機関車やメリーゴーラウンドが続く。テーブルに近づくと、タッチパネルに「おめでとう」や「ありがとう」のメッセージが映し出され、中が見えない特注仕様の抗菌寿司カバーがパカッと開いてケーキやばら寿司が姿を現す。
プレゼントメニューは以下の3種だ。
「季節のフルーツケーキ」(1000円)は、 ミルクのコクと甘みが特徴の北海道産加糖練乳入りホイップクリームをたっぷり使用し、スポンジは2段重ね。いちごにオレンジ、キウイ、シロップ漬けマンゴーなどのフルーツをふんだんに盛り付けている。小さめのホールサイズなので、1人で食べても、数人でシェアして楽しむのもいい。
「季節のフルーツ プリンアラモード」(800円) は、卵黄のみを使用し、店内で手作りした濃厚な味わいのプリンをベースに、こちらもいちごやキウイなどのフルーツをぜいたくに使用。丸みのある透明なカップの盛り付けも華やかだ。
スイーツだけではない。「特撰ばらちらし」(1000円) は、シャリにかに身をちりばめ、まぐろ、生サーモン、車えび、うに、いくらなどの海鮮がたっぷり。彩り豊かで豪華な、見た目にもこだわった本格的なちらし寿司だ。
「誕生日や記念日などの幅広いハレの日や普段のちょっとした感謝の気持ちを、サプライズをもって伝えることができるこのサービスのいちばんの特徴は、どこか懐かしい、アナログなパレードという仕掛け。注文したテーブルだけでなく、周囲のお客さまも楽しめる装飾になっています」あえてアナログな仕掛けにすることで、デジタルネイティブのZ世代には斬新さを感じてもらうのも狙いだという。
「(注文後)いつプレゼントが届くかわからないドキドキ感、どんなメニューなのかギリギリまでわからないといった、サプライズのドキドキとワクワクなリアル体験をお届けいたします。『推し活』として、推しの誕生日のお祝いなどにもご活用いただくのもいい」
11月16日より、東京・大阪計10店舗でスタート
原宿、浅草、渋谷駅前、西新宿、池袋東口、アトレ大森、高田馬場の東京で7店舗、道頓堀、なんばパークスサウス、なんば日本橋の大阪で3店舗、土日限定メニューとしてスタートし、来春には全国のくら寿司で展開予定。
大阪万博では世界の料理がレーンを流れる
1970 年に開催されたさきの大阪万博で注目を集め、日本国内に広がったといわれている回転寿司。あれから55年、2025年の大阪・関西万博では、くら寿司史上最大の店舗が出店する。ここでは定番寿司をはじめ、万博に参加する国や地域の代表的なメニューを取りそろえて回転ベルトに流す予定という。来場する世界中の人と驚嘆させることができたら、国内の「回転回帰」が沸き起こるかもしれない。
取材・文/山下和恵