
「腸に“カビ”が増殖し、真っ黒に“ゾンビ化”する」という恐ろしいリスクを『女性セブン』11月13日発売号では紹介したが、実は、日本人の腸に迫る危機はそれだけではない。「腸にすき間ができて必要な栄養素が漏れ、同時に有害物質の侵入を許してしまう」というもの。全身の健康を脅かす可能性がある「腸漏れ」についてプロに教えてもらう。
「免疫力低下」「認知症、がんリスクアップ」…腸漏れとは?
健康のかなめである「腸」。体に有用な働きをする腸内細菌の生息場所であるほか、食べたものから栄養を吸収してビタミンやホルモンをつくり出したり、ウイルスや細菌といった有害物質をブロックして体外に排出したりと、その役割は多岐にわたる。


だが実は、多くの日本人が、その機能を著しく低下させる「腸漏れ」に陥っている可能性がある。
「小麦」「乳製品」が腸を漏れさせる
「腸漏れ」という耳慣れない症状について、これまでにのべ10万人の腸を診てきた福岡天神内視鏡クリニック院長の秋山祖久さんが解説する。
「腸漏れは『リーキーガット症候群』とも言われ、本来はぴったりとくっついているはずの腸壁の細胞同士の間にすき間ができている状態です。
そのすき間から、腸で吸収されるはずだった栄養素が漏れ出て、逆にブロックされるべき有害物質が侵入しやすくなる。近年の研究では、日本人の7割は腸漏れを起こしている可能性があると示唆されており、さらにコロナ禍のストレスで腸内環境が悪化して“腸漏れ予備軍”になっている人が増加したと考えられています」
腸漏れの原因の1つは、腸内環境が悪化し、腸内フローラが乱れることにある。腸内で増えすぎた悪玉菌が腸粘膜を傷つけ、そこに“すき間”ができるのだ。そのもっとも大きな要因は食生活。
「グルテン」と「カゼイン」は要注意
特に注意すべきものは小麦製品に含まれる「グルテン」と、乳製品に含まれる「カゼイン」だ。たまプラーザ南口胃腸内科クリニック院長の平島徹朗さんが言う。
「腸漏れの原因の1つは、グルテンとカゼイン。グルテンはパンや麺類の粘りや弾力のもとになります。体への直接の悪影響はありませんが、これは胃で消化後も粘り気が残るため、腸内に長くとどまって腸内環境を悪化させやすい。
カゼインには、胃で消化できないα-カゼインと、消化できるβ-カゼインがあります。乳製品の主成分はα-カゼインで、胃で消化されずにそのまま腸に到達します。それが腸にたまると腸の細胞に炎症を起こし、細胞間のすき間が緩んで腸漏れを招くのです」
グルテン、カゼインのほかに腸漏れの原因になりやすいのが白砂糖、そして人工甘味料。いずれも腸内にいる悪玉菌の大好物で、腸内環境を乱して腸漏れにつながる。
「特にいまのような季節の変わり目に起きやすい」と言うのは秋山さんだ。
「激しい気温差や寒さによるストレスで自律神経が乱れたり、睡眠不足気味になると、腸内環境の悪化、ひいては腸漏れに直結します」(秋山さん)
一度漏れたら止まらない
腸漏れによって起きた不調は、さらに腸漏れを悪化させるという悪循環に陥る。
「腸の細胞間にすき間ができて栄養吸収力が低下すると“細胞の材料”になるはずの栄養素を充分に吸収できなくなる。すると、本来なら小腸では3日、大腸では10日で細胞が入れ替わる『ターンオーバー』の周期が遅れ、いつまでも働きが悪くなった“古い腸”のままになってしまうのです」(平島さん)
細胞の材料の1つであるたんぱく質は体内に入るとまずは胃で分解され、小腸でアミノ酸レベルに分解され、ようやく吸収される。ところが、腸漏れによって小腸が正常に機能していなければ分解と吸収が滞るため、いくらたんぱく質の多い健康的な食事をしても、栄養として吸収することができなくなるのだ。
そうして細胞の機能が低下した腸はさらにすき間が広がり、ウイルスや細菌などの有害物質の侵入を許してしまうことになり、腸から免疫力が低下し、さまざまな不調が起きる。
「アレルゲンなどの有害物質が体内に侵入することで、花粉症やぜんそくなどのアレルギー症状が出やすくなる。また、腸の免疫機能が低下するためかぜや感染症にかかりやすくなり、疲れが抜けにくくなることで腸内環境がますます悪化。肌荒れや抜け毛など、外見にも影響が出ます。
そのうえ、腸からアンモニアや発がん性物質といった毒素が流れ出ると、血液とともに体中をめぐり、うつや認知症、大腸がんなどさまざまな病気のリスクを上げると危惧されています」(秋山さん)
長年の花粉症や慢性的な便秘、寝ても取れない疲れなどは、あなたの体を腸漏れがじわじわと蝕んでいるサインかもしれない。
パンや麺類は避けて主食は米に
腸漏れを悪化させる要因が小麦や乳製品、白砂糖といった食べ物である以上、予防するには食生活を変えるのがもっとも効果的。

「腸漏れを招くものはいずれもいわゆる欧米型の食事。それらが日本人の食卓にのぼるようになったのは戦後からです。もともと日本人の体質に合っていないものを食べ続けては、腸内環境が乱れるのは当然のことです」(平島さん・以下同)
まずは、腸漏れの要因の1つである小麦を食卓から遠ざけるのが第一歩。
「まずは5日間、食べないようにしてみてください。以前より寝つきがよくなったり、疲れにくくなったりと体調に変化を感じたら少しずつ期間を延ばし、3週間ほど“小麦断ち”ができれば、腸が変わるはずです」
パンや麺類は避けて、主食は米に。米を食べるポイントは、過食を避けることと、一度冷やすことだ。
「どんなものでも、食べすぎれば胃腸に負担をかける。米は1日あたり最大でも茶碗2杯以下で充分です。
そして、腸にとってもっとも理想的なのは、炊きたてご飯よりも、一度冷ましたご飯。炭水化物は4℃前後まで冷やすと『レジスタントスターチ』という物質が増えることがわかっており、これは糖質でありながら血糖値を上げにくく、大腸では善玉菌のえさになりながら便のかさ増しをして便通を整える効果がある。
一度冷やした後に、再度温めてもレジスタントスターチが減ることはありません」(秋山さん)
乳製品を大量に摂るのは逆効果?
カゼインを含む牛乳やチーズなどの乳製品も、腸漏れ対策のためには、大量に摂るのは避けるべき。「腸内環境を整えるにはヨーグルトがいい」といわれるが、実は腸漏れを改善する効果は低く、食べすぎはむしろ逆効果だ。

「確かに、ヨーグルトに含まれる乳酸菌は腸内環境を整えますが、1日に摂取したい理想の乳酸菌の量が1兆個なのに対し、ヨーグルト1個(200ml)で摂れる乳酸菌は多くても20億個で、ヨーグルトだけで摂るのは無理がある。さらに日本人の9割は乳製品をうまく消化できない『乳糖不耐症』といわれており、消化できないままのカゼインが腸に届くデメリットのほか、市販品には砂糖や人工甘味料が含まれるものが多いことから鑑みても、ヨーグルトを食べ続けるのはデメリットの方が大きいと考えます」(平島さん)
近年、「1個でたんぱく質が10g摂れる」などと高機能をうたうヨーグルトが販売されているが、それらも腸漏れを改善する効果には疑問があるという。
「そうした機能性ヨーグルトにも糖類や人工甘味料などの添加物が多く含まれるものもあり、乳製品である以上、腸に負担をかけるのは変わらないでしょう。
乳酸菌を摂るならサプリメントのほか、みそや納豆、ぬか漬けなどの、昔ながらの発酵食品がおすすめ。またこれらを食物繊維と一緒に摂ればなおいいでしょう」(秋山さん)
キーワードは「たまごわやさしげ」
腸の細胞を修復するためには、良質なたんぱく質を積極的に摂ってほしい。
「たんぱく質は一度に吸収できる量には限りがあり“食べ貯め”ができないので、1日3食に分けて充分な量のたんぱく質を食べましょう。
特に朝は一日のうちでもっともたんぱく質が枯渇しているので、朝食は欠かさないでほしい。朝食を抜いている人や『16時間断食』をしている人などは、ほぼ確実に腸内環境が悪化しています」(平島さん)
1食につき女性なら25~30g、男性なら30~40gのたんぱく質が必要だ。
肉類や魚類は100gあたり20g前後のたんぱく質が含まれる。だが、どうしても1食で理想の摂取量に届かない場合は、プロテインドリンクなどを活用してもいい。ただし、できるだけ糖質が含まれていないものを選ぼう。
加えて、忘れてはいけない栄養素が「ビタミンD」。細胞を修復し、細胞間のすき間を埋める働きをする。
「コロナ禍で“免疫力を強化する”として注目を浴びたビタミンDは、2019年の慈恵医科大学病院の調査で“東京都民の98%が不足、または欠乏”と明らかになったほど、日本人に不足しがちな栄養素です。
日光を浴びることで体内でも生成できますが、紫外線の悪影響を考えると、日光を浴びすぎるのも考えもの。そこでビタミンDが多く含まれる卵やさば、鮭などを積極的に食卓に並べるといいですね。
私自身、以前は花粉症やぜんそくといったアレルギー症状に悩まされていたのが、ビタミンDを意識して摂るようになったことで、ピタリと症状が出なくなりました」(秋山さん)
たんぱく質とビタミンDを効率よく摂取できる食材は、卵、豆類、ごぼう、わかめ、野菜、魚、しいたけ、玄米など。「たまごわやさしげ」と覚えてほしい。
「漏れない腸」が、あなたの「健康」も守ってくれる。
※女性セブン2024年11月28日号