役はフィクション、役者はリアル──別物にもかかわらず、名演がゆえに役と役者が同一視されることがある。そんな当たり役に恵まれることは役者として幸運なことではあるが、時にそれが足枷になったりすることもある。誰もが知る当たり役を演じた名優が、そんな葛藤を経ていま思うことを明かす──。
それまでの殻を破りたかったのでノリノリで挑んだ
「おとなしい役が多かった私にとって27才のときに演じた『牡丹と薔薇』の香世は、初めてのエキセントリックな役。周りからは“できる?”と心配されましたが、私自身は、それまでの殻を破りたかったので、ノリノリで挑みました」
と笑顔を見せる小沢真珠(47才)は、2004年放送のこのドラマで新境地に挑んだ。
『牡丹と薔薇』(フジテレビ系)は、数奇な運命に翻弄された姉妹の愛と憎しみの物語だ。「役立たずのブタ!」といった過激なせりふや演出が話題を呼び、昼ドラでは異例の最高視聴率13.8%を記録。
しかし、殻を破る苦労は並大抵のものではなかった。
「ドラマの序盤で大号泣する場面があったのですが、気持ちが入っているのになぜか泣けない。監督から“がんばろう”と言われ、情けなくて、二度とこんな思いをしたくないと思いました」(小沢・以下同)
集大成として演じた、不倫夫に牛革財布のステーキを出すシーン
そして、この後の撮影で見事“泣きの演技”を披露。自信に変わったという。
「このドラマの撮影ではとにかく体力が必要でした。せりふが多くて撮影期間中はほとんど眠れませんでしたし、何事にも動じない役だったので、普段からテンションを高く保って、共演者にも積極的に話しかけていました。普段はそんなタイプではないんですけど」
情念の表現に長けた中島丈博さんの脚本はアドリブが禁止なのだが、小沢には特別に許可が出たという。
「監督から“この場面で香世はどう動く?”と言われ、とっさにセットの小道具を投げたり……。演技の幅を引き出していただきました」
不倫した夫に牛革財布のステーキを出す名シーンは、集大成として演じたという。
「憎しみの演技を、これ以上ないくらいやった後のこのシーン。どう表現するか悩んだ末、終始笑顔で演じたところ、逆に怖いと話題にしていただいた。このシーンは現場でも盛り上がっていたので、責任の重大さを感じて緊張しましたね」
小沢が全身全霊を投じて演じた香世というエキセントリックな役柄は、その後の小沢の“代名詞”となった。
「イメージを持ってもらうのはネガティブなことではなく、見た人に“この人ならできる”と期待していただいているということ。ただ、個性的なキャラに求められる要求は上がっていくので、悩むことも。その都度乗り越えては、新たな自分を発見しています」
個性的な役のイメージが彼女の演技の幅を幾重にも広げたようだ。
【プロフィール】
小沢真珠/1977年、東京都生まれ。1993年に『神様の罪滅ぼし』(TBS系)でドラマに、1995年に『ろくでなしBLUES』で映画に初出演。12月13日より出演映画『はたらく細胞』が公開予定。
※女性セブン2025年1月1日号