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食生活に気をつけていても発症する「犬の糖尿病」、原因や治療について獣医師が解説「“多飲多尿”“食べても痩せる”は糖尿病のサイン」

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ひとたびかかってしまうと、生涯にわたって付き合っていくことになる病気はいくつかある。糖尿病もそんな病気の一つだ。日本では糖尿病患者と予備群の合計が2000万人にも上るといわれ、病気自体はよく知られている。ただし、犬の糖尿病となると、人間のそれとは違っているところもある。獣医師の鳥海早紀さんに話を聞いた。

重症になると神経障害や昏睡を引き起こし、死に至ることも

糖尿病とは、すい臓から血液中へ分泌されるインスリンというホルモンの働きが悪くなることで起こる病気だ。インスリンは、食べ物として取り込んだ血液中のブドウ糖を分解し、肝臓や筋肉細胞、脂肪細胞に取り込めるようにする機能を持つ。このインスリンの働きが悪くなると、血液中のブドウ糖をエネルギーとして使うことができなくなり、さまざまな症状を引き起こす。

初期には、多飲多尿や、食欲があって実際に食べる量も多いのに体重が減少する症状などがみられる。病気が進行すると血液中にケトン体という有害な物質が増加してケトアシドーシスという状態になり、食欲がなくなったり、元気がなくなったり、嘔吐や下痢をしたりするように。さらに重症になると神経障害や昏睡を引き起こし、死に至ることもある。また、白内障や腎疾患、肝疾患、細菌感染による皮膚疾患などの合併症を発症することもある。

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重症になると神経障害や昏睡を引き起こす(写真/イメージマート)
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鳥海さんは「犬の場合、飼い主さんは、多飲多尿か、食べているのに痩せていく症状のどちらかで気づくことが圧倒的に多いです」と話す。

犬の糖尿病、原因で多いのは自己免疫の異常

注目したいのは、糖尿病では病気になる原因が、人間と犬とで異なることだ。日本人の糖尿病は2型が90%以上。1型が5%以下、そのほかに妊娠糖尿病やほかの病気の影響で発症する糖尿病がある。2型糖尿病は遺伝要因(体質)と高カロリー、高脂肪の食生活などの環境要因の掛け合わせで発症に至ると考えられている。

これに対して、犬の糖尿病は多くが人間でいう1型糖尿病だという。

「犬の糖尿病は自己免疫疾患であることが多いとされています。インスリンを分泌するすい臓のβ細胞を自己免疫システムが誤って攻撃して破壊し、糖尿病を発症します。人間の場合は、肥満が糖尿病につながることが多いですが、犬の場合はそうではないんです。かといって、犬の肥満に問題がないわけではありません。関節炎や脂肪肝など、ほかの病気にかかりやすくなるので、適切な食生活はワンちゃんの健康維持のために大切です」(鳥海さん・以下同)

内分泌疾患、ホルモンバランスの乱れも犬の糖尿病の原因に

犬の糖尿病の原因としては、自己免疫の異常のほかに、内分泌疾患、ホルモンバランスの乱れも挙げられる。

「クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)などの内分泌疾患では、ステロイド系のホルモンが過剰に分泌され、これがインスリンの効果を減弱させてしまって、糖尿病を併発することがあります。ほかの病気の治療でステロイドを含む薬剤を長期にわたって投与したために、やはりインスリンの作用を抑制し、高血糖になることもありますね。医原性といいます」

また、特にメスの場合に、妊娠や発情の際に血糖値が上昇することがあり、このような高血糖の状態が繰り返されて糖尿病に移行することがあるという。

犬の糖尿病は、加齢に伴って罹患リスクが高まる。自己免疫システムも加齢に伴って不調をきたしやすいからだ。また、メスのほうがオスよりリスクが高い。

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トイプードルも先天的にかかりやすい(写真/イメージマート)
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「犬種別には、トイプードル、それから各種テリア犬種で、先天的にかかりやすいことが分かっています」

治療はインスリン注射が中心

人間の1型糖尿病に近い犬の糖尿病では、インスリンの効果を外部から補って血糖値をコントロールするという治療法を取る。

「治療は、インスリンの皮下注射が中心です。量や頻度には個体差があるのですが、多くの場合は飼い主さんが1日2回、ご自宅で注射を行うことになると思います。食事をすると、食べた物から体内に糖分が入ってくるので、それを分解するインスリンが必要なんです」

注射は、基本的には生涯にわたって続けることになる。動物病院でインスリン投与の量や頻度を設定したら、なるべく決まった時間に投与すること、食事量や運動量を一定に保つことで、投与したインスリンの効果が適切に得られる。

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注射は、基本的には生涯にわたって続けることに(写真/イメージマート)
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食後の急激な血糖値の上昇を抑えることでインスリンの投与量を減らすことが可能

なお、食後の急激な血糖値の上昇を抑えることでインスリンの投与量を減らすことが可能という。

「繊維質を多く含み、食事後に急激に血糖値が上昇しないような療法食をかかりつけ医に処方してもらうといいですね」

血糖値のモニタリングには、皮膚表面に貼って皮下間質液のグルコースを測って血糖値を算定するパッチ型の測定器も有効だという。最近は人間向けから派生して犬にも使える便利な商品が増えているようだ。

早期発見のためには定期的な尿検査が有効

自己免疫の異常から起こることが多い犬の糖尿病は、予防が難しい。

「犬の糖尿病は生活習慣病ではないので、予防に努めるというよりは、早期発見に努めて早く治療を開始するのが一番です。飲水量や尿量をチェックする。

あとは定期的な尿検査もいいですね。血液検査となると注射器が苦手な子は大変ですが、尿は飼い主さんでも取りやすいと思います。トイレシートを裏返しておいて表面にたまった尿をスポイトなどで採取するとか、お散歩に採尿用のトレーを持っていくとか。犬の身体に傷をつけずにできる検査なので、おすすめです」

また、避妊手術をすることで、発情による高血糖から糖尿病になるリスクは解消できる。

「逆に糖尿病になった子で、血糖値がなかなかコントロールできないときに避妊手術をすることもあります」

◆教えてくれたのは:獣医師・鳥海早紀さん

鳥海早紀さん
鳥海早紀さん
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獣医師。山口大学卒業(獣医解剖学研究室)。一般診療で経験を積み、院長も経験。現在は獣医麻酔科担当としてアニコムグループの動物病院で手術麻酔を担当している。

取材・文/赤坂麻実

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