日本人の死因1位のがん。早期発見、早期治療が呼びかけられるが、そのためのがん検診も漫然と受けてはいけない。
胸部・胃部X線検査は“時代遅れ”
医療経済ジャーナリストの室井一辰さんはこう語る。
「デメリットが多く無駄といえるのが卵巣がん検診です。超音波や血液検査、MRIでも発見は難しく、偽陽性になることも少なくない。アメリカの予防医学専門委員会でさまざまながん検診の意味を評価していますが、遺伝子異常がない多くの女性には“いかなる方法でも不要”とされています。陽性となって精密検査になると手術により感染症を起こしたり、出血でお腹に血だまりができてしまう可能性があります。
乳がん検診についても、いまは超音波よりマンモグラフィが推奨されます。2024年3月には医学紙で、40~79才の間に年1回のマンモを受けた人は乳がんによる死亡リスクが40%下がるという論文が掲載されました。“マンモは過剰医療”というのはいまや昔。毎年受ける必要はありませんが、2年に1回のペースで受けるといいでしょう」(室井さん)
肺がんや胃がん検査では、胸部X線検査や胃部X線検査が行われるが、新潟大学名誉教授の岡田正彦さんは“時代遅れ”だという。
「圧倒的にデメリットが多いのが、胸部X線検査、いわゆるレントゲン検査です。もともとは結核を調べるための検査で、現代ではほとんど意味をなさないどころか放射線被ばくによって発がんリスクが高まります。また、胃部X線検査(バリウム検査)は、さらにその何十倍、何百倍の放射線を浴びます。一方で、精度への疑問も指摘されている。受けるなら胃カメラによる検査がいいでしょう」
さらに、胸部X線検査の代わりに行われるCT検査にも疑問があると岡田さんは言う。
「低線量だとしても被ばく量は胸部X線の数十倍です。精密で見落としを防げる利点がある一方、治療する必要のない小さながんを見つけ、過剰医療につながるケースがあります」
PET/CT検査、腫瘍マーカー検査への疑問
がん検診では、次々と新しい検査方法が生まれているが、それらにも効果が疑わしいものが少なくない。ナビタスクリニック理事長で内科医の谷本哲也さんはこう警鐘を鳴らす。
「たとえばPET/CT検査は、“全身のがんをすみずみまで調べられる”と謳っていますが、これは本来はがんを見つけるためのものではありません。すでにがんに罹患している人が治療効果や再発・転移の有無を調べるための検査。また、がんではないのに異常値が出ることも多く、放射性物質を体内に入れるというデメリットもあります。同様に腫瘍マーカー検査もすでにがんだとわかっている人向けで、早期発見にはつながりません」(谷本さん)
「とりあえず手術」は過去の話
いまや2人に1人ががんになる時代、罹患した場合の治療法についても知っておきたい。
「手術を第一選択とする時代ではありません。子宮頸がんには放射線治療も手術と同じくらいの効果が見込めますし、卵巣がんは2018年に分子標的薬『PARP阻害薬』が登場し、がん細胞に効果的に作用することが期待されています。
新薬の開発も進み、2024年1月には難治性の『トリプルネガティブ』タイプの乳がんに効果があるという新薬『トロデルビ』の承認申請が厚労省に出され、11月に販売開始となりました。ただし、新薬だからといって無条件に信用するわけにはいきません。2020年に承認されたHER2陽性タイプの乳がんに有効な『エンハーツ』は、進行乳がんの患者に対しては費用対効果が少ないとイギリスでは推奨されていません」(室井さん)
がん治療薬の中でも、昔もいまも根強く使われる化学療法剤、いわゆる抗がん剤に疑問を呈するのは岡田さんだ。
「がんになった細胞を破壊する強い作用を持った薬ですが、がん細胞だけを狙い撃ちするという性能が弱く、健康な細胞まで破壊してしまいます。そのため、強烈な副作用があるばかりか、寿命を延ばす効果がないことが複数の論文を分析した結果から明らかになっています」
※女性セブン2025年1月16・23日号