
老後資産を洗い出すうえで、意外と知らないのが「家族が加入している生命保険」。命や健康に関するデリケートなことであるがゆえに、タブーというほどではないにしても、なかなか家族で話し合いのきっかけをつかみにくいのが実情かもしれない。だが、しっかり話し合って内容を確認していないと思わぬトラブルのタネになり得る。
家族会議で“保険の見直し”を
不慮のけがや事故、予期せぬ病など、万が一の事態に備え加入する生命保険。ところが、家族間どころか夫婦間であっても、相手がどんな保険に入っているのかを完璧に把握できているケースは少ないのではないだろうか。実際、加入している保険を家族が知らなかったり、保険証券を紛失したせいで、加入者の死後に受給できなくなるなどさまざまなトラブルが起こっている。大手生命保険会社と代理店で勤務経験がある評論家の後田亨さんは、こう指摘する。

「夫や親の契約の存在を知らないことで、給付金の請求ができず、家族が困ってしまうことは珍しくありません。
したがって、どの会社のどのような保険に加入しているのかという情報共有や、保険証券の保管場所の確認などは、家族会議を開いて話し合っておくべきでしょう」
生命保険について思わぬ事態が襲いかかるのは、加入情報の有無だけではない。高齢の両親が時代にそぐわない保障内容の保険に入ったまま毎月多額の保険料を支払い、家計の負担になっていることもある。ある日、娘が保険を見直したところ、保険料が数万円も安くなったという例も少なくない。長引く物価高で家計の負担が膨らんでいるいまこそ、家族会議を開き、“保険の見直し”を考える絶好のタイミングなのだ。
「古い保険」「無駄な保険」を洗い出す
後田さんは、家族会議を行うにあたり、配偶者と子供の両方が揃った場で話し合うことが望ましいと話す。
「生命保険の場合、子供を保険金の受取人に設定しているケースが珍しくないため、加入している当人やその夫や妻だけでなく子供も交えた方がいいでしょう。出席者は親戚まで広げる必要はありませんが、まずは家族間で情報共有し、加入している保険の洗い出しから始めることが大切です」

会議で話し合う内容は家庭の事情によって千差万別だが、まずは保険の内容がそれぞれに見合うものなのか、保険料を払いすぎていないか、といった基本事項の確認から始めたい。そのうえで、年齢や状況に合った保険をパンフレットなどで比較しつつ考えるべきだと指摘するのは、ファイナンシャルプランナーの飯田道子さんだ。
「50代以上の女性の場合、20~30代で加入した保険の見直しをせずに、加入し続けているケースが多く見られます。20年前と比べると、現在では入院日数の平均は短くなり、医療費も高額になっている。医療技術の進歩に伴い、現代の医学と保障内容にずれが生じていることもあります。現代に見合った保障内容かどうか、見直しは必須といえるでしょう。
また、病気や事故を心配しすぎるあまり必要以上に保険に加入していたり、反対に、現在の健康状態に対して保障が不足している場合も見直しが必要といえます」
ただし、加入内容について疑問が生じても、指摘の仕方によっては諍いが生じてしまうこともある。家族会議をスムーズに進める方法はあるのだろうか。飯田さんがこうアドバイスする。
「保険に対する思いや考えには、夫婦でも親子間でも違いがあって当然ですから、相手の考えを否定したり、無理強いすることだけは避けなければなりません。特に、子供が親の保険内容について強く詰問したり、新たな保険加入を強要するのは避けるべきです」
ライフステージに合わせ10年に一度は見直しを
家族会議を開くタイミングは思い立ったときが最適といえるが、基本的には配偶者の定年や再雇用、子供の就学や就職、結婚や出産などは見直しにちょうどいい機会だ。特に手厚い保障内容を「やめる」のは、子供の成長に伴う。ファイナンシャルプランナーの横川由理さんが言う。
「多くの人にとって、見直しのきっかけになるのが子供の成長です。子供が就職するまでには20年ほどかかりますが、その間、配偶者とは10年に一度くらいのタイミングで見直しの機会を設けるべきでしょう。私は、子供が成長するにつれて段階的に死亡保障の額を少しずつ減らしてもいいと思います。そして、子供が就職したら、大きな死亡保障がある生命保険は解約してしまっても問題ありません」
保険の見直しをする際に、素人だけでは判断できかねると、専門家の意見を聞きたいという人もいるだろう。近年では、そうした需要に応えるかのように「保険の見直し」をうたう相談窓口も多い。また、いま加入している保険会社の営業マンに相談する人も少なくない。しかし、そこにも思わぬ落とし穴がある。

「保険ショップはあくまでも保険会社の代理店ですし、銀行や郵便局の職員も営業担当者と同じだと考えてください。保険は自身や家族にかかわってくる問題ですから、すすめられたものをうのみにするのではなく、自ら調べることが大切です。自力で理解できない契約は見送るか、保険販売にかかわっていない複数の専門家に相談料を払って、判断を仰ぐのが無難でしょう。ファイナンシャルプランナーであっても、代理店を兼務している人などは要注意です」(後田さん)
加入している保険を精査するうえで注意したいのは、あえて見直す必要がない保険も存在することだ。それは、バブル期から2000年頃まで販売されていた運用利率が高い保険である。しばしば“お宝保険”と呼ばれることがある保険の長所を、飯田さんが解説する。
「この時代に販売されていた一部の保険は貯蓄性に優れており、保険料から手数料を引いた予定利率が現在の保険では考えられないほど高いものがあります。バブル期の高金利が満期まで続いているため、現在では0.5%ほどの予定利率が5%を超えるものもある。 お宝保険を簡単に調べる方法は、支払う保険料よりも満期で返ってくる保険金が多いかどうかを見てください。もし、入っている保険がその条件に該当するなら、そのまま持ち続けてもいいでしょう」
なお、保険業者の中には、こういったお宝保険を解約させて、運用利率が低い保険に言葉巧みに乗り換えさせようとする例もあるようだ。くれぐれも、見直しは慎重に進めたい。
老後資産のために貯蓄型保険を検討するなら、ほかの金融商品との比較を
解約だけでなく、見直しでは「新たに加入」する商品を選ぶこともあるだろう。老後資産形成のためや、子供や孫への相続としてなど金融資産として生命保険が候補に挙がることもある。新たに加入する際に、「貯蓄型」と「掛け捨て型」のどちらにすべきか、迷う人は少なくない。

貯蓄型は一生涯にわたって保障が続くうえ、資産形成も両立できるメリットがあるぶん、保険料が高めに設定されていることが多い。しかし、まとまったお金が必要になったときは、解約すれば解約返戻金を手にできる。
対する掛け捨て型は保険料が割安ながら、必要充分な保障が得られるため、家計に優しいのが特徴だ。半面、保障の期間が限られており、解約後に解約返戻金や満期保険金が得られることはほとんどない。
横川さんは、「そもそも何のために保険に入るのかを考えることから始めてほしい」と指摘する。
「中学生や高校生など、何かとお金がかかる子供がいる女性であれば、掛け捨て型の生命保険一択です。死亡保障が1000万~2000万円の保険でも月々数千円の保険料で加入できますので、家計の負担を減らすことが可能です。
子供が学校を卒業し、就職したら解約してしまってもいい。また、解約後に老後の備えとして医療保険に入る人が多いですが、現金を充分に持っていれば心配はいりません。老後資産のためにと、貯蓄型の保険を検討する人もいますが、別の金融商品での資産運用も必ず比較検討してください」
横川さんは、老後は新たに貯蓄型の保険に加入するよりも、新NISAや個人向け国債などの金融商品に投資した方が、大きなリターンが期待できるケースがあると続ける。
「50才の人が500万円の死亡保障がある生命保険に加入した場合、保険料が月に3万5000円くらいかかります。単純計算で年間42万円、10年間で420万円もの保険料を払うことになるのです。仮に、420万円を変動10年の個人向け国債で運用したら、10年後には538万円まで増えています。保険はあくまでも、自分の貯蓄だけでは足りないまとまった資金が必要な機会のために入るもの。お金が充分にある場合は運用を考えてほしいですね」
注目されるリビング・ニーズ特約
子供が独立し、夫婦ふたりきりになった場合や、おひとりさまになったとしたら、月々の出費を抑えるべく保険はミニマライズするのが理想だ。ただし、やみくもに解約するばかりが正解ではない。新たに「特約をつける」という選択肢がある。生命保険の特約の中でも検討すべき4つの特約は以下の通り。
自由診療特約は、厚生労働省の承認を経ていない薬や治療法を使用し、全額自己負担となる自由診療の治療費を保障するというもの。
先進医療特約は、自己負担が大きい先進医療に必要な技術料を、一定額まで保障してもらえる。
保険料払込免除特約は、がん、急性心筋梗塞、脳卒中などのいわゆる三大疾病と診断された際、保険料の支払いが免除される。
リビング・ニーズ特約は、がんなどで余命6か月以内と診断された場合、死亡保険金の全部もしくは一部を受け取れるというものだ。それぞれの特性を踏まえながら、飯田さんがこうアドバイスする。

「なんらかの生命保険に加入しているなら、リビング・ニーズ特約は必須と考えてください。また、現役世代の女性が万が一病気などで働けなくなるリスクを踏まえると、保険料払込免除特約をつけておけばより安心感が得られると思います」
横川さんもリビング・ニーズ特約をおすすめする。
「リビング・ニーズ特約は、いわば死亡保険金を前払いでもらえるシステムです。まとまったお金をもらえることで治療の幅が広がったり、せっかくだから旅行でもしようかとポジティブな生き方も考えられます。
お金をもらって安心感を得られたのか、余命宣告後に健康状態が改善し、数年以上も長生きした人を何人も見ています」
新たに加入すべき保険とは
前述のとおり、魅力的な金融商品が次々に登場している新NISAなどの制度が整ってきたいま、新たに加入を検討すべき保険にはどのようなものがあるのか。
「自営業のかたであれば、就業不能保険をおすすめします。医療保険は、入院しなければ1円ももらえませんが、就業不能保険なら自宅療養であっても、医師の診断を受ければ毎月いくらかの保険金を受け取れます。当面の生活費の足しにできるのではないでしょうか」(横川さん)

飯田さんは、加入方法について進言する。
「家計に余裕があるなら個人年金保険に入ってもいいと思いますが、iDeCoの方が税制上のメリットがありますし、リターンも大きいでしょう。学資保険は、妻にも夫と同等の収入があり、子供が複数いる場合は夫と妻で分散して加入するのがいいと思います。
また、生命保険に特約をつけている場合、解約してしまうと医療保障もなくなってしまいます。その場合は、新たに医療保険に加入した方がいいとすすめています」(飯田さん・以下同)
なお、加入済みの保険を解約せず、別の保険に乗り換える方法もある。具体的には、予定利率の高い保険を下取りに出し、予定利率こそ低いものの、現在の自分に合った保険に変更する。払済保険のように、保険料の払い込みを中止し、その時点で得られる解約返戻金をもとに負担の小さい保険に変更するケースも考えられる。
「乗り換えることで保険料を安くできる点は大きなメリットですが、最近の保険は利率に違いがそれほどありませんので、充分な比較検討が必要です。
予定利率の高い保険であれば解約せずに、別途、掛け捨て型の定期保険に加入した方がいいでしょう。保険会社のすすめる通りではなく、自身でしっかり調べてから決断してください」
社会情勢や医療技術は、日進月歩で変化している。それに伴い、生命保険が強みを持つ分野も刻々と変化しつつある。家族会議では、現代の医療事情と家庭環境に合わせて保険を見直し、大きな安心を手にしたいものである。
※女性セブン2025年2月6日号