【年金のもらい方】公的年金、個人年金保険、iDeCo、企業型DC…節税のために重要なのは受け取るタイミングをずらすこと 基本は「一気にたくさん」よりも「少なく長く」

「高年齢者雇用安定法」が4月1日に改正され、定年は実質的に「65才」になる。、生涯現役社会がまた一歩近づいてきた。来年度からも働いて自分で稼ぐか、リタイアして退職金を受け取るか──シニアの働き方が激変する「年度」の境界を前に、いま知っておくべきこと、考えておくべきことが山ほどある。仮に退職を選択し、退職金を受け取った場合、注意すべきことがある。【全3回の第3回。第1回から読む】
金融機関からの勧誘には注意
退職金をもらったときに何より気をつけなければならないのが、銀行など金融機関からの勧誘だ。
退職一時金などまとまったお金が入ると、金融機関の担当者は営業のために電話や手紙でアプローチしてくることが多い。社会保険労務士の井戸美枝さんが言う。

「“ご退職おめでとうございます。退職金を当行で年利3%で運用しませんか?”などと連絡してくることがあります。
大きなお金が手に入ったからといって、ちやほやされて気が大きくなり“お任せします”などと言ってしまう人が後を絶たないのですが、金融機関にとってメリットのある商品をすすめられていることが多い。勧誘を受けたときの鉄則は、すぐに決めないこと。少なくとも半年~1年ほどは普通預金口座などに置いておき、本当に運用に回してもいいかよく考えましょう。
まずは住宅ローンやリフォーム、葬儀費用など、今後絶対に必要になるお金をリストアップし、同時におおよその生活費、年金などの収入を鑑みて、試算してほしい」
退職金を受け取る頃になると、公的年金や個人年金保険の受給も開始する人が多いだろう。iDeCo(個人型確定拠出年金)に加入していたり、勤め先によっては企業型確定拠出年金(企業型DC)を設けているところも少なくない。だがこれらの年金はどれも税金が課せられるため、もらえる年金が多すぎるとその分、税金も上がってしまう。できるだけ節税するには、受け取りのタイミングをずらすことだ。プレ定年専門ファイナンシャルプランナーの三原由紀さんが解説する。
「iDeCoの引き出しは原則60才以降。退職金の受け取りと同年だと、iDeCo(一時金)の退職所得控除に調整が入り減額される可能性があるので、受け取り時期をずらした方がいい場合もあります。
企業型確定拠出年金(一時金)の場合、退職金の受け取りと同様に退職所得控除枠を超えた分は年金形式で受け取るか、翌年度に受け取ることで、課税額を半分にすることができます」(三原さん・以下同)
公的年金の受け取りを後回しにすることも
三原さんは、重要なのは公的年金とのバランスだと話す。
「例えば、60才から70才まで、10年有期で退職金を年金受け取りにする場合、その分、国民年金または厚生年金を繰り下げて、70才から受け取るのがいい。
公的年金は繰り下げるほど受給額を増やせるうえ、公的年金等控除によって税金の負担も減らせるので、充分な退職金や個人年金、企業年金があるなら、公的年金の受け取りはできるだけ遅らせることをおすすめします」

ただし、厚生年金の繰り下げすぎには要注意。繰り下げるほど受給額が増える一方で、“年金の家族手当”が受け取れなくなる可能性がある。「年金博士」ことブレイン社会保険労務士法人代表の北村庄吾さんが言う。
「厚生年金の加入者が65才になったときに65才未満の妻や18才年度末までの子供がいる場合、年間約40万円が『加給年金』として加算されます。ところが、厚生年金を繰り下げている間は受け取れなくなるのです。
厚生年金を75才まで繰り下げて受給額を184%に“最大化”するか、繰り下げずに加給年金を受け取るか、あるいは国民年金だけを繰り下げるか、慎重な判断が必要です」
働き続けながら年金を受け取る場合は「在職老齢年金」にも注意すべき。1月17日、厚生労働省は年金と給与収入の合計が一定額を超えると超過分を厚生年金からカットする在職老齢年金の上限を、現行の「50万円」から「62万円」に引き上げる方針を発表した。2026年4月から実施される見込みだ。
「定年後にもらうお金」はできるだけタイミングが重ならないよう、受け取る時期や方法をずらす計画を。井戸さんは、基本は「一気にたくさん」よりも「少なくても長く」受け取ることだと話す。
「できるだけ自分で稼いで、定年後にもらえるお金は、働けなくなったときのために取っておく意識が大切です。そのためには“何才まで働くか”“何才から公的年金を受け取るか”を決めること。それが決まれば、定年から公的年金受給開始までの空白期間に退職金を使う計画が立てられます」(井戸さん)
退職金、給付金、年金―定年後は「お金の選択」を迫られることが増え、それによって、第二の人生をどれだけ豊かに過ごせるかが決まる。金額の大きさに惑わされずに、冷静に判断したい。正しい知識を身につけるとともに、早め早めにシミュレーションや試算を行うことを心がけよう。


※女性セブン2025年2月6日号