マネー

5年に1度の財政検証で「年金だけで現役世帯の平均収入の50%は維持できる」 年金博士は「充分な金額にはほど遠い」年金受給額が増えても心配だらけの現実

絶対に損しない年金の受け取り方とは(写真/PIXTA)
写真4枚

公的年金が「100年安心」と銘打たれたのは2004年、小泉政権の頃。あれからたったの20年、いまではもはや「足りない」「本当にもらえるのか」と、全国民の不安の種になっている。老後の暮らしを安心できるものにするために、夫婦で「絶対に損しない受け取り方」を知っておきたい。【前後編の前編。後編を読む

5年に1度の“検証”で 発表されたこと

年金の将来は明るい──政府のそんな見通しがいま、注目を浴びている。

7月3日、5年に1度の「財政検証」が開かれた。将来的な年金額を試算し、それに伴う制度改変の必要性などについて論じられる、いわば“年金の健康診断”だ。

あらゆるデータが発表された中でもっとも話題となったのが、「過去30年間と同程度の経済状況が続いた場合、年金だけで現役世帯の平均収入の50%は維持できる」という予測。この結果を受け、2025年から改正されると世間を騒がせてきた国民年金の年金保険料の「納付期間5年延長案」が見送りとなった。

まるで「これから先、物価高や不況が続いたとしても、高齢者の暮らしは年金だけで賄える」「これ以上国民から年金保険料を取らなくても、受給額は減らない」と言っているかのような発表で、事実、2024年度の公的年金の支給額は前年から2.7%増額の月6万8000円となっている。だが、年金は本当に、国民の一生の安心を保証できる制度になったのだろうか?

「受給額」が上がったのに「年金」は減っている

「年金博士」ことブレイン社会保険労務士法人代表の北村庄吾さんは「提示されている『現役世帯の収入の半分』は、高齢者が安心して暮らせる金額とは到底いいがたい」と語る。

「ここでいう『現役世帯』とは、厚生年金に40年間加入し、“平均的な”収入を持つサラリーマン夫と専業主婦の妻の『モデル世帯』のことで、非正規社員も増えているいま、実際にはそれ以下の収入の世帯も少なくない。これをさも国民の平均値であるかのように例示するのは現実的とはいえません」

しかも、この「現役世代の収入の半分の金額」は、かなりつましい暮らしを強いられることになりそうなのだ。

年金だけでは暮らしていくのに充分な金額とはいえない(写真/イメージマート)
写真4枚

「現役世帯の収入の半額の年金収入とは、夫婦2人で18万5000円。ところが、総務省の家計調査によれば、2人暮らしの年金世帯に必要な金額は月26万円ほどなので、充分な金額にはほど遠いのです」(北村さん・以下同)

「マクロ経済スライド制」により年金制度自体は維持されるものの、年金だけでは生きていけないのが現実だと、北村さんは続ける。

「『現役世帯の収入の50%は維持できる』と言い張っているのはつまり、『50%以下にならないように食い止めているので、なんとかがんばってください』という意味だと、私はとらえている。まるで戦時中の大本営発表のようだと感じます」

社会保険労務士の井戸美枝さんも言う。

「そもそも、私たちが注目すべきなのは年金の受給金額そのものではなく、年金でモノを買う力、すなわち『購買力』です。現時点でも、年金の受給額だけでみれば2.7%の引き上げですが、物価上昇を鑑みれば、年金額は7%減っています。“受給額が上がったから心配はいらない”というはずはありません」

やはり年金は「減っている」うえに「足りない」のが真実なのだ。

後編へつづく

受給開始の年齢次第で年金受給額は大きく変わる(井戸さんへの取材をもとに本誌作成)
写真4枚
年金の繰り下げしすぎは受給額の減少につながる
写真4枚

※女性セブン2024年9月26日・10月3日号

関連キーワード