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医療の進歩により、がんの情報は日々更新される。その結果、以前は正しかった検診・予防・治療に関する認識が、間違ったものに変わることもある。果たして何が正しいのか──。大腸がんについての知っておくべき情報を専門家たちに教えてもらった。【前後編の前編】
20~30代にも増えている大腸がん
昨年11月、国立がん研究センターは大腸がんの検診ガイドラインを19年ぶりに改訂した。自治体や職場が負担して行う「対策型検診」では、便潜血検査を前回同様、「推奨」とした。しかし、その内容に変化が見られる。
現在、便潜血検査は40才以上を対象とし、「1年間隔」、「採便回数は2回法を行う」ことが厚生労働省により推奨されているが、新ガイドラインでは「2年間隔での検診も可能」「採便回数は1回法も認められる」となった。獨協医科大学下部消化管外科教授の中村隆俊さんが言う。
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「便潜血検査は簡単に受けられる検査なので、ガイドライン通りに毎年か2年に一度、受けておくといいでしょう。検査で陽性の結果が出たときは、必ず大腸内視鏡検査を受けてください。“痔で出血しているだけだから”と自己診断して、発見が遅れる人も珍しくありません。“まだ若いから大丈夫”と考えるのも危険です。中高年以降のイメージが強いかもしれませんが、世界的に大腸がんは若年齢化しており、20~30代の若い人にも増えています」
新ガイドラインは対策型検診での「大腸内視鏡検査を推奨しない」としたが、実際は人間ドックで受けた方がよさそうだ。松生クリニック院長の松生恒夫さんが指摘する。
「便潜血検査の精度は約70%で、30%は見逃される。実際に腸内をカメラでチェックできる内視鏡検査は精度が高いので、40才を過ぎたら一度は受けてみて、ポリープなどがなければ3年に1回のスパンで受けるといいでしょう。ただし、両親や祖父母、近親者に大腸がんが複数名いるようながん家系の人は医師と相談しつつ、もう少しこまめに観察してください」
便秘の陰に大腸がんが隠れているケース
都内在住の会社員・Hさん(54才/女性)は昨年、長引く便秘に悩んでいたので病院で受診した。すると、大腸がんが見つかった。
「念のために大腸内視鏡検査を行ったらステージ3の大腸がんだとわかりました。がんは手術で無事に切除できて、いまは再発予防のために抗がん剤治療を受けています」
松生さんは、便秘の陰に大腸がんが隠れているケースは珍しくないと話す。
「便秘や下痢、頻繁な腹痛、便が細くなったときは大腸がんの可能性があります。女性は便秘に悩む人が多く、数日に1回しか出ていなくても“便秘がちだからしかたない”と放っておく人がいます。しかし、大腸がんだけではなく虚血性大腸炎や過敏性腸症候群など別の病気の可能性もあるので、異変を感じたら病院に行くことです」
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医療経済ジャーナリストの室井一辰さんも、便秘の人は大腸がんになる可能性が高いと指摘する。
「昨年、名古屋市立大学が発表した研究では、女性で排便が6日以上に1回の人は2~3日に1回の人に比べて、大腸がん、結腸がんのリスクが2.5倍高くなると報告されています」
室井さんは、閉経や出産が遅い人もリスクが高いと続ける。
「閉経や出産が影響する理由は、女性ホルモンだと推測されています。エストロゲンには細胞増殖作用があり、がんの発生原因になるため、エストロゲンが高い状態が長い人ほどがんになりやすい」
ピルをのんでいる人はリスクが下がるというデータもある。
「ピルはエストロゲンの分泌を抑えるため、のんでいない人に比べて大腸がんの発症リスクが低下するという報告があります」(室井さん)
早期発見できればほとんどの人が治る
女性のがんの部位別死亡者数で最も多いのは大腸がんだが、男性では肺がんに次ぐ2位。そのため、女性は男性に比べて大腸がんになりやすいというイメージがあるが、実際は異なる。中村さんが説明する。
「女性の大腸は男性に比べて平均して少し長いため、面積的にがんになる部分が多いかもしれませんが、女性だからなりやすいということはありません。がんの部位別罹患者数は、男女ともに大腸がんが2位です」
女性のがんの部位別死亡者数で大腸がんが1位だとしても、定期的に検診を受けていれば早期で発見しやすく、必要以上に恐れることはない。
「大腸がん全体の5年生存率は71.4%と高い。10年生存率を見るとステージ1なら80.4%、ステージ2でも69.8%。早期発見できれば、ほとんどの人が治る病気です」(松生さん)
(後編に続く)
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※女性セブン2025年2月13日号