脳血管疾患は急性期のリハビリが回復を左右
心血管疾患と同じく突然襲いかかることの多いのが、脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血など)をはじめとする「脳血管疾患」だ。
顔の片側がゆがむ、片側の手足の感覚や力がなくなる、呂律(ろれつ)が回らないといった症状の場合には脳卒中を疑って、躊躇なく救急車を呼んでほしい。梅田脳・脊髄・神経クリニック院長の中川原(なかがわら)譲二医師もこう話す。
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「脳卒中は時間との闘いです。治療開始が早いほど、脳の壊死する範囲が小さく、後遺症も軽くて済みます。血管に血の塊が詰まる『脳梗塞』の場合、血栓溶解薬のほかに、カテーテルで血栓を回収する治療法も広まっています。また脳出血やくも膜下出血では、開頭手術が必要な場合もあります。
それらの治療や手術を急いで受けるには、脳外科医や脳血管内科医が24時間365日常勤している病院に行かなくてはいけません。ホームページなどで、専門医の数や治療症例数などを調べておいてください」
日本脳卒中学会では2019年から、「一次脳卒中センター(PSC)」の施設認定を始めた。脳卒中患者の受け入れが24時間365日可能、急性期脳卒中診療担当医師が速やかに血栓溶解療法を開始できるなどが条件となっている。中でも、常勤の専門医が3名以上で、血栓回収治療実績が12例以上などの条件を満たした病院を「一次脳卒中センターコア施設」に認定している。万が一に備えて、近隣でどこにPSCがあるかを調べておくといいだろう。
脳卒中の場合には、残った体の機能をできるだけ回復・維持させるためにも、いいリハビリテーションを受けることが極めて重要だ。熊本機能病院副院長で総合リハビリテーションセンター長の渡邊進医師が言う。
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「ベッドで1週間も体を動かさないと筋肉がやせ、関節が硬くなる『廃用症候群』に陥ってしまいます。さらに、心臓やほかの臓器が寝たきりに慣れてしまって、血圧も不安定になる。ですから脳卒中の診療をしっかり行っている急性期の病院は、当日もしくは翌日からリハビリを開始します。
そして病状が安定したら、2、3週間から1か月で回復期の病院へ移します。急性期にリハビリをしっかり行ってもらえると、次に受け入れる我々もスムーズな対応ができるのです」
渡邊医師によると、リハビリ病院を見極めるポイントは3つあるという。
1つ目が「ハード面」だ。筋力回復や歩く練習などを行う「機能回復訓練室」だけでなく、家庭生活に戻れるよう和室、台所、お風呂など「日常生活動作(ADL)」の訓練を行える設備があるか。また、リハビリ専門医、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などのスタッフが充実しているか。
2つ目が「実績面」だ。高いレベルの診療報酬を算定している病院は、「リハビリテーション実績指数」をホームページなどで公表する必要がある。入院期間に患者がどれだけ日常生活を回復できたかを数値化したもので、40点以上がひとつの目安になる。
そして3つ目が「プロセス面」だ。渡邊医師が続ける。
「リハビリにかかわる多職種の人たちが、生活だけでなく社会復帰までを目標としたレベルの高いチーム医療を実践しているかどうか。これは外からはわかりにくいのですが、『日本医療機能評価機構』がリハビリ病院に対しても病院機能評価を行っています。同機構の認定を受けているかどうかも、チェックポイントのひとつとなります」
脳血管疾患では、脳ドックなどで「未破裂脳動脈瘤」が見つかる場合がある。これが破裂すると「くも膜下出血」を起こして、死亡するか、命が助かっても重い後遺症を残すことが多い。それを防ぐために、瘤の根元をクリップで挟む開頭手術、あるいはカテーテルを使って瘤にコイルを詰めたりステントを留置したりする血管内治療が行われている。ただ、これにも注意が必要だ。東京慈恵会医科大学附属病院脳神経外科主任教授の村山雄一医師が話す。
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「開頭手術と血管内治療のどちらにするか。まずは患者さんの体の状態や病状を踏まえたうえで、安全を第一に考えます。それから、根治性(病気を完全に治すこと)の高さや患者さんの希望も考慮して決定します。
開頭手術ばかり行っている病院もありますが、どちらも高いレベルで行えないと、それぞれのメリット、デメリットがわかりません。もし未破裂脳動脈瘤の予防治療を受けるなら、開頭手術と血管内治療をバランスよく行っている病院をおすすめします」
年間の脳動脈瘤の破裂率は1%程度
心臓手術と同様に、ある程度以上の症例数のある病院が安心だが、多ければ多いほどいいとも言えないという。村山医師が続ける。
「私たちの病院には未破裂脳動脈瘤の患者さんが年間600人ほど紹介されますが、そのうち治療を受けるのは200人程度で、3分の2にあたる約400人は経過観察です。瘤の大きさが2~3㎜で、破裂のリスクが極めて小さい人が多いのですが、“見つかるとすぐ治療をすすめる施設”も残念ながら存在します。
ざっくり言うと、年間の破裂率は1%程度です。瘤の大きさや形状によって、将来破裂するかどうか、AI(人工知能)で予測も可能になってきました。小さな瘤でもお餅のように一部が膨れてきたら要注意ですが、それ以外は慌てない方がいい。瘤が見つかると、患者さんは時限爆弾を抱えているような気持ちになるのですが、治療をすすめられたら本当に必要かどうか、専門医のセカンドオピニオンを受けてください」
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いい医師かどうかを見極めるには、「外来で患者さんの訴えをよく聞いてくれるか」も大切だ。
「脳や血管の病気では血圧や薬のことなど聞くべきことがたくさんありますが、それを問診票だけ見て判断している医師はよくありません。仕事や睡眠時間、生活上のストレスなど、問診票に書いていないことも繰り返し聞いてくれる医師こそ名医だと言えます。
またいい医師は、検査結果をわかりやすく説明してくれるはずです。高齢者の場合は異常があったとしても、加齢に伴う『生理的な変化』と捉えるべき場合がある。そのリスクがどれくらいかを示すからこそ、患者さんも安心してくれる。
そして最後に、安全性も考慮すべきです。外科手術に限らず、高齢者は多くの診療科にかかり、たくさん薬をのんでいることが少なくありません。治療するばかりでなく、『こんなに薬をのんでいたらダメだ』と言うくらいでないといけない」(中川原医師)
南淵医師も、コミュニケーションや患者を安心させることの大切さを説く。
「患者さんと医師が楽しく話せることが大事です。それができるからこそ、患者さんも『こんな症状がありました』と、自分から話してくれる。『胸が痛かった?』『それは何時?』『どのくらいの間?』『あとは何がありました?』といった聞き方だと、検察官の尋問みたいですよね。
患者さんはただでさえ不安なのに、病院へ行くと余計に不安が増幅する。医師の立場上、はっきりしたことを言えない場合もありますが、患者さんも手術が『100%安全』でないことはわかっているはず。それでも『大丈夫ですよ』というのが、人間のコミュニケーションです。ですから、人間的な会話をする医師を選んでください」
いい病院には、いい医師もいるはずだ。患者側も医師の「人間力」を見極める力を持つ必要があるだろう。
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※女性セブン2025年3月6日号