健康・医療

《心血管疾患と脳血管疾患》名医が教える“いい病院の見極め方”心臓の手術なら「手術症例数」が大きな指標、脳卒中なら「一時脳卒中センターコア施設」をチェック

心疾患と脳血管疾患は早く適切な処置を受けられるかどうかで運命が変わる場合もある(写真/PIXTA)
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がんに次ぐ日本人の死因の2位は「心疾患」。そして3位が「老衰」、4位が「脳血管疾患」だ。心疾患と脳血管疾患は突然の発症が多く、早く適切な処置を受けられるかどうかで運命が変わる場合もある。加齢とともにリスクが高まる二大疾患があなたや家族を襲ったとき、命を守り、日常生活を取り戻してくれる病院はどう探せばいいのか。ジャーナリストの鳥集徹氏と女性セブン取材班がレポートする。

予兆や前触れもなく、心臓と脳を襲う血管の病。とりわけ、血圧が急変動することが多いこの季節は発症リスクが高いとされる。しかし、適切な治療、そしてしかるべきリハビリを受けられれば社会復帰も可能だ。そこで本連載の2回目は、がんに続き「心血管疾患」と「脳血管疾患」の名医6人に、「いい病院、悪い病院」の見極め方をたずねた。万が一発症したとしても、いい病院にたどり着きベストの結果を得るには、どんなポイントを押さえておくべきなのか。

心筋梗塞の予兆は胸の痛みだけではない

成人で手術の対象になる心血管疾患には、主に「心筋梗塞(虚血性心疾患)」、「心臓弁膜症(大動脈弁、僧帽弁など)」、「大動脈疾患(大動脈瘤、大動脈解離など)」がある。このうちもっとも多いのが、心筋に酸素と栄養を送る「冠動脈」が動脈硬化などで詰まり、心筋の一部が壊死してしまう心筋梗塞だ。胸の圧迫感や強い痛み、吐き気、めまいなどが主な症状だが、肩や首、腕、そして歯の異常な痛みが、実は心筋梗塞だったということもある。一見、心臓や血管とは無関係な症状に思えても、こうした特徴的な症状があった場合には心筋梗塞を疑って、早めに心血管疾患に強い病院を受診してほしい。

では、手術を受けることになった場合には、どんな病院を選ぶべきか。昭和大学江東豊洲病院循環器センター心臓血管外科教授の山口裕己医師が話す。

昭和大学江東豊洲病院循環器センター心臓血管外科教授の山口裕己医師
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「心臓は手術症例数が大きな指標のひとつとなります。手術はスポーツみたいなもので、毎日練習する人と週1回しか練習しない人では、どちらがより安定した技量を維持できるか。答えは明らかです。年間200例以上が理想ですが、それだけの手術症例数のある病院は全国でも限られるので、最低でも100例以上ある病院を選ぶべきです」

心血管疾患では、内科と外科がバランスよく治療していることも重要だ。心筋梗塞の治療には、詰まった血管の迂回路を作る「冠動脈バイパス手術」だけでなく、足の付け根などから血管に細い管を入れて心臓に到達させ、詰まった血管を拡張あるいは貫通させたり、金属の筒(ステント)を留置したりする「カテーテル治療(経皮的冠動脈形成術=PCI)」がある。

また、心臓弁膜症の手術には、傷んだ弁を人工物に取り換える「人工弁置換術」などがあるが、近年ではカテーテルで人工弁を取り付ける治療法も普及した。こうしたカテーテル治療は循環器内科医が手がけていることが多い。どちらにするか、患者の体の状況や希望に応じて使い分けている施設が「いい病院」だと山口医師は続ける。

「内科が強いとカテーテル治療、外科が強いと手術に偏りがちです。しかし、患者さんに最適な方法を選ぶには、外科医と内科医が話し合うことが重要。両者の連携ができている『ハートチーム』が存在しているかどうかも、いい病院の条件のひとつです。

それを見極めるのにも症例数が指標となります。カテーテル治療を内科が年間1500例もやっているのに、手術が50例だと内科が強すぎる。内科がそれくらいしているなら、手術も200例前後あってもよい。それだと連携がとれて、両方ともいいレベルを保っていると言えるでしょう」

昭和大学横浜市北部病院循環器センター教授の南淵明宏医師も、循環器内科の重要性を説く。

昭和大学横浜市北部病院循環器センター教授の南淵明宏医師
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「そもそも、心臓外科医に回ってくるのは、循環器内科医が『手術が必要だ』と判断した患者さんです。自分の判断だけで手術をすすめてくる心臓外科医を信用してはいけません。

残念ながら、内科と外科の仲が悪い病院もあります。でも、そのような場合は、内科が他院の心臓外科と連携をとればいい。実際『心臓血管外科があるけれど、手術は別の病院で受けた方がいい』と内科医に言われ、地方から当院へ来た患者さんもいます。ネット情報や口コミ、セカンドオピニオンなどを利用して信頼できる医師を自分で選ぶ。いまは、そういう時代です」

カテーテル治療にもデメリットはある

カテーテル治療が普及したおかげで、外科手術を受けずに、冠動脈をはじめとする心疾患の治療を受けられる人も増えた。ただ、やみくもに治療すればいいというものでもない。星総合病院循環器内科部長の越田亮司医師が話す。

星総合病院循環器内科部長の越田亮司医師
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「世界初の冠動脈のカテーテル治療から45年を数えます。『これでよくなる』と、どんどん治療された時代もありましたが、20~30年も経つと治療後に長期経過したデータが蓄積され、それで万事解決というわけではないことがわかってきました。新たな病変の出現だけでなく、ステントを入れた部分にもステント内に動脈硬化を起こしてくる場合があるのです。

急性心筋梗塞のように、その場を凌ぐために急いで治療する必要があるときは別ですが、そうでない場合にはカテーテル治療のデメリットをメリットが上回ると言える病状かどうか、そして長期にわたる展望がどうなのかをしっかり説明し、今後の検査や治療のプランを提案してくれることが理想で、これら両者を兼ね備えた施設がいい病院だと言えるでしょう」

カテーテル治療は外科手術に比べて体への負担が小さいとはいえ、リスクがゼロというわけではない。それを考えると、「手術やカテーテル治療以前に、行うべきことがある」と越田医師は強調する。

「カテーテル治療は冠動脈の詰まりを解消する『局所』だけの治療ですが、詰まりが起こった根本の原因は危険因子といわれる高血圧、高血糖、高コレステロールなどによる動脈硬化の進行です。まずは体全体の状態を見て、これ以上動脈硬化を進行させない治療をするのが、いまの大きな流れとなっています。

心筋梗塞を起こした人は危険因子が基準値を超えないようにコントロールし、喫煙者は禁煙して術後の再発を予防する。また、現在、治療に至らない軽度~中等度の病変を指摘された場合も将来的にカテーテル治療や手術に至らないよう、動脈硬化の進展を抑えるために危険因子のコントロールをしっかり行うことが、現在の診療ガイドラインでも求められていることです」