健康・医療

がんの名医たちが教える「いい病院」の条件 「手術症例数」「認定施設である」「チーム医療ができる」「患者の意思を尊重する」などチェックすべき7つのポイント

「いい病院、悪い病院」を見極める7つのポイントとは(写真/PIXTA)
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人は生きている限り、「病」から逃れることができない。多くの人が、いつかは病気にかかり、手術や入院が必要となることもある。また、家族が病気にかかれば、本人の代わりに病院を探さなくてはならないことも少なくない。ところが問題は、どの病院でもいい治療を受けられるとは限らないことだ。病院や医者選びを間違えたために治療がうまくいかず、後悔する人もいる。それだけに、慎重に病院や医師を選ぶことが重要だ。そこでがん治療の名医たちに見極めるポイントを教えてもらった。

日本人の2人に1人が、一生のうちに一度はがんにかかるといわれている。がんにかかると大抵の場合、「手術」「抗がん剤」「放射線」を中心とする専門的な治療を受けることになる。それらの治療をどの病院で受けるかによって、その後の経過が大きく変わる可能性もある。だからこそ、がんと診断されても慌てずに、治療を受ける病院や医師を慎重に選ぶことが重要だ。どこを見れば後悔せずに選ぶことができるだろうか。

そこで今回は、そのポイントを一番知っている名医に、「いい病院、悪い病院」の見極め方を教えてもらい「7つのポイント」にまとめた。いざというときに備えて、ぜひ参考にしてほしい。

がん治療を受ける病院を探す際にまず重要なのが、自分が診断されたがんの手術(あるいは治療した症例数)を、その病院が年間にどれくらい行っているかをホームページなどで確認することだ。がんと診断されると、多くの人が切除手術を受けることになる。継続して一定数以上の手術をしなければ、外科医は腕を維持できないといわれる。数をこなすからこそ知識や経験が積み重なり、治療の質も上がるのだ。ジャーナリストの鳥集徹氏と『女性セブン』取材班がレポートする。

【目次】

乳がんは週2回、年間100例以上の手術症例が目安

乳がんの薬物療法を専門とする、福島県立医科大学医学部腫瘍内科学講座主任教授の佐治重衡医師は、外科医と協力して治療に携わる立場からこう話す。

福島県立医科大学医学部腫瘍内科学講座主任教授の佐治重衡医師
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「乳がんの治療施設としては、年間100例くらいは手術をしないと、本当の意味での質の高い治療成績を維持しにくいと思います。週1だと年間50例くらいになりますが、これだとかなり厳しい。乳がん治療に特に取り組む基幹病院なら、年間150~250例の手術症例は期待したいです。医師不足で乳がんの専門医が病院に1人しかいない地域は致し方ありませんが、それでも50例以下だと厳しいと感じます」

手術数が多いのは、紹介患者が多いことも意味する。これは地域の医療機関から信頼されている証でもある。食道がんのようにもともと罹患者数が少ない種類のがんは年間50例でも多いと言えるが、やはりがんの場合は一般的に、100例以上が目安と言えるだろう。

ただし、単純に「手術数が多いほどいい」とは言い切れない事情もある。「ハイブリッドVATS(胸腔鏡下手術)」という傷の小さな肺がん手術のパイオニアであり、肺の切除範囲を最小限に抑えた低侵襲手術「区域切除」の普及にも取り組んでいる、広島大学原爆放射線医科学研究所腫瘍外科教授の岡田守人医師はこう指摘する。

広島大学原爆放射線医科学研究所腫瘍外科教授の岡田守人医師
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「手術数が多い方が経験豊富、手術技術向上につながるのは事実ですが、あまりにも多すぎると流れ作業のようになり、一つひとつを丁寧に行えなくなる可能性があります。

また、最近では『すりガラス陰影』と呼ばれる、淡い影として現れるごく初期の小さな非浸潤がんが急増しています。原則としては経過観察を行い、影が大きくなる、または濃くなってきた場合に手術を検討するべきです。

しかし手術数を増やすためなのか、すぐに手術を行う病院も少なくありません。そのため、単に手術数だけで病院を選ぶのではなく、特に『すりガラス陰影』が見つかった場合は他院の専門医にも相談し(セカンドオピニオン)本当に手術が必要かどうか慎重に判断してください」

医師も施設も「認定」が目安になる

近年、がんの各学会は治療成績の向上や標準化のため、「認定施設」や「指導医・専門医」などの制度を整備してきた。乳がんの場合、症例数が一定以上ある、学会認定の専門医が常勤している、充分な指導教育体制があるなどを条件とする「日本乳癌学会認定施設」がある。全国有数の乳がん専門施設として知られる相良病院(鹿児島市)院長の大野真司医師が話す。

相良病院院長の大野真司医師
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「乳がん治療を受ける場合には、この認定施設であるかどうかを確認することが最も重要です。日本乳癌学会のホームページにリストが公開されていますので、病院選びの際にはぜひ確認してください。同じく指導医・専門医のリストも公開されています。

また、乳がんは遺伝子診断や、全摘した乳房の再建手術を行うこともあります。それができる施設であるかどうかも、病院や学会のホームページで確認するといいでしょう。遺伝子診断は『日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構』、再建手術は『日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会』に登録しているかどうかでわかります」

近年は肺がん、胃がん、大腸がんをはじめ、いくつものがんで、体の傷が小さく済む「内視鏡外科手術(胸腔鏡手術や腹腔鏡手術)」が普及してきた。実施するには特有の技術が必要で、20年以上前の黎明期は、慣れない外科医による手術で医療事故が起こり、問題となった。これを受けて日本内視鏡外科学会が導入したのが、トレーニングプログラムの受講や手術ビデオの審査など一定の条件をクリアした外科医に与える「技術認定」の制度だ。腹腔鏡手術のパイオニアのひとり、順天堂大学医学部附属順天堂医院食道・胃外科主任教授の福永哲医師が解説する。

順天堂大学医学部附属順天堂医院食道・胃外科主任教授の福永哲医師
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「執刀医が技術認定を取得しているかどうかはひとつの目安になります。近年は執刀医が機械のアームを遠隔操作して行う『ロボット手術』も普及していますが、これについても同学会が2018年度から『ロボット支援手術プロクター』という指導医の認定制度を設けました。

外科医自体が少ないため、認定医が不在の地域があったり、手術が上手なのに認定医を取得しない医師がいたりするので一概には言えませんが、こうした制度があることを知っておくことも大切です」

がん手術の中でも難しい「肝がん」「胆管がん」「膵がん」などの手術も、日本肝胆膵外科学会が「高度技能専門医・指導医」の制度を設け、一定基準をクリアした病院を「高度技能専門医修練施設」に指定している。肝胆膵がんと診断されたときのために、この制度も頭に入れておいてほしい。

標準治療かオーダーメードか

「標準治療」とは、「科学的根拠に基づいた観点で、現在利用できる最良の治療であることが示され、ある状態の一般的な患者さんに行われることが推奨される治療」のことを指す(国立がん研究センター運営公式サイト「がん情報サービス」より)。肝胆膵がん手術の名医として知られる、静岡県立静岡がんセンター総長の上坂克彦医師が言う。

静岡県立静岡がんセンター総長の上坂克彦医師
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「がんの治療はどんどん進歩しており、生存率も右肩上がりです。なぜかというと、臨床研究の積み重ねによってエビデンス(科学的根拠)が積み重なり、それに則って標準治療が組み立てられているから。保険診療で受けられる標準治療より、高額な自費診療の方が優れていると思い込んでいる人が結構いますが、それは間違いです。

日本では有効性と安全性が証明された治療は、迅速に保険適用にする仕組みになっています。ですから、標準治療を重んじる病院を第一に選ぶべきです。そのうえで、保険外の『先進医療』の研究や『臨床研究』を、標準治療ときちんと区別して行っている病院を選んでください」

臨床研究を実施している病院は最先端の治療を行っており、質が高いともいわれている。がんでは「日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)」に参加している病院かどうかも指標のひとつとなるだろう。

標準治療は大事だが、一方ですべての患者がその適用になるわけではない。その根拠となる臨床試験が、80才を超えるような高齢者や基礎疾患のある人を除外して行われることが多いからだ。条件から外れた患者は、手術や抗がん剤を受けられないことも多い。だが、それで諦めてしまう病院もよくないという。

「標準治療ができることが前提ですが、さまざまなオプションを用意し、患者の年齢や体力など一人ひとりに合ったきめ細かい『オーダーメード治療』ができるかどうかも重要です。

近年、がん患者は高齢化していて、さまざまな併存疾患を持っています。体の状態が悪いままだと、負担の大きな手術に耐えられないので、併存疾患を治療してから、がんの治療に入る必要があります。

しかし、病院によってはほかの病気の専門医が少ないため併存疾患を治療できず、手術を受けられないことがある。高齢の人や併存疾患のある人は、がん以外の専門医もたくさんいる大学病院や基幹病院を選んだ方がいいでしょう」(福永医師)

抗がん剤治療を受ける場合も、年齢や体力に応じて、薬の加減を細かく調整しなければならないことがある。そうした場合には、抗がん剤治療を専門とする腫瘍内科医がいた方がいい。さまざまなニーズに対応できる人材がそろっているかどうかも、病院選びのひとつの指標と言える。

がんを治療するのは外科医だけではない

がんの治療は手術だけでは済まないことがほとんどで、薬物療法や放射線治療などを組み合わせた「集学的治療」が必要だ。それだけに、「病院の総合力が求められる」と上坂医師は言う。

「たとえば、膵がんの疑いのある患者さんが紹介されてきたら、本当にがんかどうかを確かめるための大切な検査のひとつに造影CT検査がありますが、造影剤の入れ方、タイミング、スピード、撮影角度など、さまざまな技術を駆使しなくては、膵がんをうまく診断できません。それには放射線診断医や放射線技師の力がとても大切になります。

そして最終的に膵がんの診断を確定させるために超音波内視鏡検査を行い、十二指腸や胃から針をさして生検してもらいます。それには腕のいい内視鏡科医師や消化器内科医が必要です。もちろん、術前に抗がん剤治療や放射線治療を行うこともある。このように、外科医が手術をするためには、ほかの診療科の医師の力が不可欠なのです」

がんの治療をするには、ほかの診療科の医師の力が必要になる(写真/PIXTA)
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もちろん、看護師や薬剤師、ソーシャルワーカーなど、ほかの医療職の力も必要だ。多職種の人たちが連携してひとりの患者を支える体制を作ることを「チーム医療」と言う。その重要性を佐治医師が解説する。

「同じがん治療をめぐっても、重要だと思うポイントが、患者さんと医師とでずれていることがあります。そんなときに看護師さんが患者さんの視点や生活面からバランスを取ってくれるのは、医師として本当にありがたい。

しっかりした乳腺外科外来には、ベテランの看護師さんがいて患者さんのさまざまな疑問や不安に答えてくれています。特に日本看護協会の専門資格である『乳がん看護認定看護師』がいると大変助かります。患者さんが治療を決めるときに助けてくれるので、いた方が圧倒的にいい。医師と同じレベルで相談できる人がいるのは患者さんにとっても大きいと思います」

診断に疑問がある場合や、ほかの治療を受けられるかどうかを知りたいときなどに有効なのが「セカンドオピニオン」だ。主治医に「ほかの医師の意見を聞きたい」と切り出すのは勇気がいるが、診断や治療に自信のある医師ほど、自分の患者がセカンドオピニオンを受けることを推奨する。

「セカンドオピニオンはとても有効な方法なので、もっと活用すべきです。私はセカンドオピニオンの担当医も『チーム医療』の一員だと考えています。医師も、通常の外来は多くの人を待たせているためストレスを感じています。5分、10分しか時間がなくて、どうしても『これでいいですよね』と、説明を急いでしまう。

その点、セカンドオピニオンは費用がかかりますが、医師の時間を買うものだと言えます。外来に比べ長く時間がとれるので、多くの悩みが解決するでしょう。ただし、30分、60分と時間が決まっているので重要度の高い内容から順番に質問してください」(大野医師)

患者の意思決定を待ってくれるか

最後に、実際に受診してみて、医師がどれだけ患者と真摯に向き合ってくれているかも見極めた方がいい。

患者の意思を尊重し、真摯に向き合ってくれる医師であるかが重要になる(写真/PIXTA)
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「私は初診の患者さんが来たら、5分か10分で心をつかむように努力します。併存疾患などがある難しい患者さんが来ると、多くの医師がトラブルになりたくないので、『こんな合併症が起こりうる』と、ネガティブな話ばかりしてしまう。

しかし、それでは患者さんを不安にするばかりです。本当に自信のある医師は、そんなことはあまり言いません。神様ではないので100%の保証はできませんが、たとえ合併症が起こったとしても、最大限努力するので任せてくださいと言うはずです」(岡田医師)

患者の中には、つらい治療は受けたくないという人もいる。中には標準治療を拒否して、医薬品ではない抗がんサプリメントや民間療法に頼る人もいるが、そのときの対応で医師の人間性もわかるという。

「『なんでそんなことをするんだ』と頭ごなしに否定する医師がいます。でも、否定すると話が進まなくなる。私の患者さんにも『抗がん剤は受けたくない』と言う人がいますが、その場では無理に受けるように言いません。多くの患者さんが、『やっぱり治療を受けたい』と戻ってくるからです。『標準治療をしないなら、他所へ行った方がいい』という医師もいるけれど、患者さんを信じて待ってくれる。そんな医師がいいと思います」(佐治医師)

同じがんと言っても、人によって受け止め方や価値観は異なる。そうした個々人の意思を尊重してくれる病院や医師であるかどうかも重要だと言えるだろう。 ここにあげた「7つのポイント」を頭に入れて、ぜひあなたが納得できる「いい病院」を選んでほしい。

病院を選ぶ際のポイント7選
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※女性セブン2025年2月20・27日号