
ダイエットはもちろん、血糖値の上昇を抑えられると、食事の最初に野菜を食べる“ベジファースト”が2010年頃から話題になり、定着した。ところが昨年10月に公表された『日本人の食事摂取基準(2025年版)』には、それまでに記載があったベジファーストの項目が削除された。これは一体どういうことなのか? 削除の真相を探るとともに、最新の研究で判明した“本当に正しい食べる順番”を専門家に大調査。食べる順番のシン常識をアップデートしよう!
ベジファーストだけでやせるわけではない
『日本人の食事摂取基準』は、健康に必要なエネルギーおよび各栄養素の摂取量の基準を示すもので、厚生労働省が5年ごとに改定し公表している。
「2020年版には、『食物繊維が豊富な野菜から食べ始めることで、食後の血糖値の上昇を抑えて血液中の糖分の指標であるヘモグロビンA1cを低下させ、糖尿病の予防や管理に役立つ』と書かれていました」
とは、管理栄養士の野口知恵さんだ。それが2025年版では削除されている。
「ベジファーストが無意味だから削除されたわけではありません。本来のベジファーストは血糖値コントロールのために有効だというものでしたが、ダイエット効果があると拡大解釈されて広がったため削除されたのではと考えられます」(野口さん・以下同)
とはいえ、最近の研究では単に野菜を先に食べれば健康にいいわけではないとわかってきたという。2人の専門家に聞いたシン常識を詳述する。
たんぱく質ファースト
「自分の体に合わせてベジファーストを。60才以降は肉や魚を先に食べる“たんぱく質ファースト”に切り替えよう!」
野菜を食べたら10分後に次の食事を
ベジファーストで大事なのは、「野菜を食べた10分後に次の食事をとること」だと野口さんは言う。
「“10分間隔をあける”のがポイント。野菜に含まれる水溶性食物繊維は粘性があり、腸に膜をはるため、あとに食べる食材の糖質や脂質の吸収を緩やかにしてくれる効果があります」
その結果、血液に送られる糖の量が減るので、食後の血糖値の急上昇を防げるというわけだ。
60才以降は食べる順番を見直して!
一方で、ベジファーストには向き・不向きがある。

「健康に問題のない人や、普段あまり野菜を食べない人にとってベジファーストは、野菜を食べるきっかけになるのでおすすめですが、60才以降になると筋肉量が減ります。野菜でお腹が膨れる前に、筋肉の材料となる肉や魚などのたんぱく質を食べる“たんぱく質ファースト”に変更した方がいいでしょう」
たんぱく質を最初に摂っても、食後の血糖値上昇は抑制される。野菜に含まれる水溶性食物繊維は、カルシウムや鉄分の吸収を阻害してしまうため、貧血気味の人はカルシウムや鉄分を補給してから、野菜を食べよう。
シニアの食事法:食べる順番以外で気をつけたいこと
特定の食品ばかりを食べないようにする
「決まったものばかり食べていると栄養が偏ります。国の調査でも多様な食材を摂っている人ほど、認知症の発症リスクが低いという報告もあるので、好物ばかり食べないことが大切」
朝にたんぱく質をたっぷり摂る
「朝にたんぱく質を食べた方が、筋肉になりやすいことが判明しています。納豆、ゆで卵、魚肉ソーセージなどからも手軽にたんぱく質が摂れるので意識して食べましょう」
健康な骨の維持にはビタミンDが不可欠
「ビタミンDは、まいたけやしいたけに豊富です。しいたけは15分ぐらい日光浴をさせる(日干しする)と、ビタミンDの量が増え、旨みもアップするのでおすすめです」
ミートファースト
「60才からは肉→糖質→野菜の順に食べるのが正解」(和田さん)
シニアは肉を優先して食べるべき
「デンマークでの調査では80才以上の半数がたんぱく質不足。日本はもっとひどい状況だと推定されます」
とは、精神科医の和田秀樹さんだ。たんぱく質や脂質が不足すると、老け込みやすくなるという。
「年をとるほど“足らない害”が深刻化します。たくさん食べられずに食事量が減る中で、優先して食べるべきは“肉”。肉にはセロトニンの材料となるトリプトファンというアミノ酸が豊富で、これが筋力を維持し意欲を向上させてくれるからです」(和田さん・以下同)
次に大切なのが糖質だ。
「野菜が不要というわけではありませんが、高齢者にとっては糖質の方が大事。糖質が足りないと、脳がエネルギー不足になります」
高齢者に必要な栄養素を優先順位で考えると、最後が野菜になるというわけだ。
シニアの食事法:食事量が落ちてきた際の上手な食事の取り方3
甘い物を食べるなら午後3~4時に
「一日の中でも午後3~4時頃は、食後の血糖値の上昇が緩やかだといわれています。和菓子などの甘い物を食べるなら、この時間帯がおすすめ」
体調管理におすすめの食事日記をつける
「加齢とともに胃の機能は低下し、消化に時間がかかるのでお腹がすきづらくなります。普段から何を食べると調子がいいか、逆に悪いのか、食事日記をつけると体調管理がしやすくなります」
脂質を必要以上に嫌がらない
「脂質を摂ると太ると思っている人が多いですが、脂身の多い肉を食べたからといって脂肪がたまることはありません。逆に脂質不足は老け込みを招くので、適度に摂って」
◆教えてくれたのは:管理栄養士・野口知恵さん

野菜ソムリエ上級プロ。「おいしい!」の感動を多くの人と感じることをモットーに、野菜・果物×健康についての講演やレシピ開発など多方面で活躍。
◆教えてくれたのは:精神科医・和田秀樹さん

和田秀樹こころと体のクリニック院長。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたり高齢者医療に携わる。本誌にて『逆説の健康相談室』好評連載中。
取材・文/鳥居優美
※女性セブン2025年5月22日号