
「“ヤムおんちゃん”や“羽多子さん”など、『アンパンマン』のキャラクターを彷彿とさせる登場人物たちがたくさん出てくるんですよ。原作とのつながりを考察するのもあわせてブームになっています」(芸能関係者)
『アンパンマン』の作者、やなせたかしさん(享年94)と、その妻・暢さんをモデルにしたNHK連続テレビ小説『あんぱん』。放送開始から約2か月を経て、その評判は上々だ。5月12日の週は、今田美桜(28才)が演じるヒロイン・のぶの妹で、河合由実(24才)が演じる蘭子のもとに、婚約者の死を告げる黒い縁取りの電報が届くというシーンが放送された。教師として戦争を美化する姉に、妹が投げかけた悲しみの叫びは、河合の演技力と共に大きな話題となった。
「放送開始直後の視聴率は決して高いとはいえませんでしたが、これはネット配信で朝ドラを楽しむ人が増えたことによる影響。配信サービス『NHKプラス』では、過去作も含む全ドラマで歴代最多の視聴数を記録しています。回を重ねるごとに評価を高めていて、視聴率自体もじわじわと上昇中です」(NHK関係者)
物語の前半、ひときわ存在感を放ったのが、松嶋菜々子(51才)演じる主人公の実母・登美子だった。
「登美子は、北村匠海さん(27才)演じる柳井嵩の母親。圧倒的な美貌と母親役らしからぬ妖艶さで視聴者を釘付けにしました」(テレビ局関係者)
華やかな外見と同時に、登美子の息子に対するあしらいも注目を集めた。
「彼女は、幼くして父を亡くした嵩とともに亡父の兄の元に身を寄せる。しかし、親戚との生活になじめず、息子に『母さんはすぐに迎えに来ますからね』と言い残し姿を消すと、いつのまにか再婚し、別の家庭を築きます。わずかな手がかりをたどって訪ねてきた嵩には、『何しに来たの?』と冷ややかに言い放ち、新しい夫には『親戚の子』と紹介するというスゴい“毒母”っぷりを見せつけたのです」(前出・テレビ局関係者)

さらに松嶋が身にまとう衣装も、視聴者の考察の的になっていたという。
「派手に着飾る登美子の着物の色は、いつも鮮やかな紫や青。これが、アンパンマンの宿敵・ばいきんまんの配色に似ているんです。登美子の“悪役”といえるほどの振る舞いと相まって、彼女を『美しきばいきんまん』と称する声がネットなどで飛び交っているのです」(前出・テレビ局関係者)
幼い息子を翻弄する登美子は、輝かしいキャリアを重ねた松嶋にとっても難しい役どころだったそうだ。

「実生活でも2人の娘を持つ松嶋さんには登美子の心情がすんなり理解できず、戸惑うこともあったようです。最終的にはスタッフたちと何度も話し合いを重ね、撮影に臨んでいました」(前出・NHK関係者)
やなせさんがばいきんまんに込めた思い
視聴者に強烈な印象を残した松嶋。一方、衣装の“モチーフなのでは?”と囁かれているばいきんまんは、作者のやなせさんにとっても思い入れの深いキャラクターだという。
「ばいきんまんのモデルはその名の通り“ばい菌”です。一方、悪さをする菌だけでなく、パンを作るのに必要なイースト菌、納豆菌、乳酸菌など、有用な菌もある。やなせさんはばいきんまんをある種の必要悪として描いているのです。子ども向けの作品に哲学的なテーマを込めるやなせさんならではのキャラクターです」(別のテレビ局関係者)

実際、やなせさんはばいきんまんについて、著書でこう語っている。
《ばい菌が絶滅すると、人間も絶滅する》《必要悪という言葉がありますね。つまり光がなければ影もないし、影がなければ光もない》(『新装版 わたしが正義について語るなら』、2024年・ポプラ社)
天敵であると同時に、なくてはならない存在――愛憎入り混じった母と息子の関係は、アンパンマンとばいきんまんに通じるものがあるかもしれない。