ペット・動物

人気猫種に多い病気・けがを獣医師が解説「スコティッシュ・フォールドが悩まされる“遺伝病”」「アメリカン・ショートヘアーは慢性腎臓病や腎結石に注意」

猫
人気猫種に多い病気・けがは?(写真/イメージマート)
写真4枚

日本の家庭で多く迎えられている猫といえば、純血種ではスコティッシュ・フォールド、アメリカン・ショートヘアー、マンチカン、ノルウェージャン・フォレスト・キャットなどだ。純血種の猫は外見などにもその種の特徴がよく表れて、それが人気の要因になったりもするが、一方で、遺伝子が濃く受け継がれる分だけ、他の猫よりも発症リスクが高い病気がある。獣医師の鳥海早紀さんに話を聞いた。

スコティッシュ・フォールドはその起源から続く遺伝病が

飼っている人が多いという意味での人気猫種は、ペット保険の加入実績ベースで混血猫、スコティッシュ・フォールド、アメリカン・ショートヘアー、マンチカン、ノルウェージャン・フォレスト・キャットの順となっている(2022年4月1日~2023年3月31日にアニコム損保の保険契約を開始した猫。n=244,528)。混血猫が28.3%で圧倒的に多いが、純血種ではスコティッシュ・フォールドが14.1%で飛び抜けて多い。

スコティッシュ・フォールドは1960年代にスコットランドで生まれた突然変異の個体が起源。その猫は生まれつき、耳が前へ折れ曲がって垂れているという特徴を持っていた。その後、計画的に繁殖が行われるようになり、品種として定着した。最も特徴的なのは折れ耳だが、立ち耳の個体もいる。顔や体が丸っこく小柄で、毛並みは柔らかくなめらか。前脚を腹の前へ投げ出して、人間がソファーに座るときのように上半身を起こしぎみに座る「スコ座り」が見られることもあり、見た目やしぐさのかわいらしさで人気に火がついた。

鳥海さんは「スコティッシュ・フォールドはおっとり、まったりした子が多いですね。ただ、それがこの猫種が本来持った“性格”なのかというと、ちょっと本当はどうなのかなというところもあります。もしかしたら、身体に痛みがあって、なるべく動きたくないのかもしれないからです」と話す。

というのも、スコティッシュ・フォールドは遺伝的に、骨軟骨異形成症にかかりやすいことが分かっているからだ。

「骨軟骨異形成症は前脚や後ろ脚の、いわゆる手首や足首の骨に骨瘤(こつりゅう)と呼ばれる軟骨のかたまりができて、骨が変形する病気です。コブが見て分かるほどの大きさになっていなくても、歩き方がおかしかったり、触られるのを嫌がったり、元気がなかったりして、病気が判明することが多いです」(鳥海さん・以下同)

骨軟骨異形成症に関連して、スコティッシュ・フォールドは関節炎で動物病院を受診する確率が、他の猫の3倍にもなるという。原因未定の歩行異常や跛行(はこう)、四肢の痛みで受診するケースも約2倍というデータがある(アニコム ホールディングス発行「アニコム家庭どうぶつ白書2024」、2024年12月)。

「スコティッシュ・フォールドの折れ耳自体が骨軟骨異形成症の軟骨異常で起こるもので、その特徴を引き継ぐようにブリーディングしてきたわけですから、典型的な遺伝子疾患であり、予防できるものではないです。骨の変形自体を治す方法もないので、鎮痛剤や消炎剤を使って、痛くない時間を増やす、痛さの度合いを下げるという考え方になってきます」

遺伝的に高い確率でこの病気を発症することが明らかで、発症すれば絶え間ない痛みを伴う病気と生涯付き合うことになるので、この種の繁殖自体をやめるべきだという意見もある。既にパグやフレンチ・ブルドッグなどの短頭犬種の繁殖を禁止したオランダをはじめ、いくつかの国でスコティッシュ・フォールドの繁殖を禁じる動きがある。

「関節炎の新しい治療薬なども開発されているので、以前よりは治療の選択肢が増えてはいます。法規制が今後どうなるかは分かりませんが、既に一緒に暮らしている猫に対しては、体重の管理や食事の管理を含め、日々のケアが大切です。そして、こまめに健診に連れて行って、発症が分かったらすみやかに痛みを抑える治療をすること。愛猫のQOLを高めてあげてほしいと思います」

アメショーには水をたっぷり、たんぱく質は控えめに

アメリカン・ショートヘアーは17世紀頃に発生した猫種だといわれている。アーモンド形の大きな目や頬の張り、しっかりとしたマズル(鼻先から口の周り)が特徴。身体能力が高く、活発で、寒さにも強いという。

猫
(写真/イメージマート)
写真4枚

「人なつっこい印象がありますね。顔立ちが整っていて、どの子を見てもキュートでアイドルみたいな感じ。猫にしては人懐っこいタイプだと思います」

アメショーに多い病気は多発性嚢胞腎という腎臓疾患だ。ペルシャの罹患リスクが高いことが知られているが、アメショーにも比較的多く見られる病気だという。

「嚢胞という液体を貯留する袋状のものが腎臓にたくさんできてしまう病気です。腎臓を構成するたんぱく質を作る遺伝子の異常で起きる病気だとされています。嚢胞ができたからといって、ただちに重大な健康被害があるわけではないですが、嚢胞がある子は腎臓疾患になるタイミングが他の猫より早い傾向があります。徐々に嚢胞の数が増え、また一つひとつが大きくなることで、正常な腎臓の組織が失われ、腎臓の機能が低下するからです」

実際に、アメショーは慢性腎臓病や腎結石、その他の泌尿器疾患で動物病院を受診する確率が、他の猫より高い。

「腎臓に負担をかけないことが大切なので、過剰なたんぱく質の摂取は避けたいですね。ただ、子猫の間は、たんぱく質は成長に欠かせない大切な栄養素なので、身体がしっかりして成猫になってから、良質なたんぱく質を少な目に摂取できる食事へ、切り替えましょう。そして、水分補給をしっかりと。猫が興味を持つように、湧き出たり流れたりするタイプの給水機を使ったりするのもオススメです」

マンチカンはミネラル摂り過ぎや肥満に注意

マンチカンは、遺伝子の突然変異で生まれた非常に短い足の猫種。1940年代から記録があり、正式な品種として公認されたのは1991年だという。名前の由来は小説「オズの魔法使い」に登場するオズ国の民族の一つで小柄な「マンチキン族」に由来する。性格は温厚でかつ好奇心が強いのだとか。

「マンチカンもわりと人慣れしやすくて、飼い主さんのあとをちょこちょこついて歩いたりします」

短足は遺伝子の突然変異によるものなので、やはり、骨軟骨異形成症や変形性関節症、椎間板ヘルニア、前弯症、漏斗胸などのリスクが高いとされ、海外では品種として登録しない判断をした血統登録団体もある。また、膀胱結石や膀胱炎、尿石症といった泌尿器疾患に他の猫よりもかかりやすいというデータがある。

猫
(写真/イメージマート)
写真4枚

「石ができるのを防ぐには、やはり日頃から水分を十分に摂ることと、ミネラル成分を摂り過ぎないことが大切です(関連記事 https://j7p.jp/133501)。あとは、脚が短いので、太るとお腹を地面にすってしまう子がいます。そもそも短い脚で体重を支えるのは負担が大きいので、飼い主さんは体重をしっかり管理してあげてください」

余談として、鳥海さんは現場の獣医師の間で語られるこんなマンチカン評を教えてくれた。

「脚が短いと、点滴を入れる際の血管確保が難しいよねという話にはなります。血管が斜めに走っていたり、浮き上がってこなかったりで。もともと、猫の皮膚は犬より少し硬いので、かなり難度が上がります。飼い主さんも、何かあったときに点滴を始められるタイミングが遅れる可能性があるという意識は、頭の片隅にでも置いておいていいかもしれません。健康診断を欠かさないで、なるべく緊急事態が起きないように努めましょう」

ノルウェージャンは太らせないこと

ノルウェージャン・フォレスト・キャットはその名の通り、ノルウェー原産の長毛種。被毛は撥水性のある上毛と、保温に役立つ羊毛質の下毛があるダブルコートで、寒さにとても強い。体は大きく、体重は4~9kg程度。祖先にさかのぼれば10世紀頃にはバイキングの船に乗っていたという説もあり、歴史の長い猫種である(※品種として正式に認められたのは1970年代)。

「性格は優しいといわれますが、私は“ザ・猫”だなと感じます。『人間とは適度な距離を保ちます』『高みから皆さんを見下ろします』というタイプ。気高くて、自分からベタベタしない。ノルウェージャンで“甘えたさん”は見たことがないです」

ノルウェージャンに多い病気は、泌尿器疾患。尿道閉塞、膀胱結石、膀胱炎、尿石症など、軒並み、他の猫種より病院受診率が高い。加えて、糖尿病も猫全体に比べてリスクは3倍にもなる。

「泌尿器疾患は、まず水をしっかり飲んでもらうことが大切。体が重いと歩き回るのも面倒になるので、猫のいる場所の近くに水飲み場をいくつか作ってあげてください。猫の糖尿病は肥満が原因のことも多いので、体重管理も重要です(関連記事 https://j7p.jp/129956)。おやつはあげすぎないで。高いところに上るのが好きな種だといわれているので、キャットタワーやキャットステップを設置して上下運動を促すのは有効だと思います。飲水量、尿量、体重、しっかり確認していきましょう」

◆教えてくれたのは:獣医師・鳥海早紀さん

鳥海早紀さん
鳥海早紀さん
写真4枚

獣医師。山口大学卒業(獣医解剖学研究室)。一般診療で経験を積み、院長も経験。現在は獣医麻酔科担当としてアニコムグループの動物病院で手術麻酔を担当している。

取材・文/赤坂麻実

●《犬・猫の熱中症予防策》夏バテを防ぐポイントを獣医師が解説「エアコンは人間の適温+1℃に設定」「室温を一定に保つ」

●《犬や猫の“へそ”はどこに?》普段は見えにくいが“でべそ”になると腸閉塞などのリスクも

関連キーワード