
0歳の幼犬や幼猫を飼い始めたとき、飼い主が注意すべき病気にはどんなものがあるだろうか。成犬や成猫に比べてかかりやすい病気と、混合ワクチンによる予防について、獣医師の鳥海早紀さんに教えてもらった。
0歳齢はウイルスや寄生虫による消化器疾患に注意
犬や猫の病気は、多くが加齢とともにかかりやすくなるが、中には0歳のときに発症する例が飛び抜けて多いものもある。
おおまかに傾向をみると、犬も猫も、消化器疾患で動物病院を受診する割合が最も高いのが0歳のときだ。消化器疾患で動物病院にかかる割合は、0歳の犬で4割以上、0歳の猫で3割以上にもなるという。免疫力が弱いので感染症にかかりやすかったり、経験不足から異物を飲み込んでしまったり、人間の食べる物を誤って食べてしまったりするためだ。犬の呼吸器疾患や、猫の耳の疾患も幼若期に多い。鳥海さんは以下のように具体的な病名を挙げる。
「0歳の子はワクチン接種前に、ワクチンで予防できる病気にかかってしまうことがあります。消化器疾患では、犬も猫も幼若期にパルボウイルス感染症やコクシジウム症にかかりやすいですし、呼吸器疾患では、人間でいう風邪のような病気が、成犬、成猫に比べてリスクが高いです。犬ならケンネルコフ、猫なら猫ウイルス性鼻気管炎や猫カリシウイルス感染症などですね」(鳥海さん・以下同)
さらに、犬の皮膚疥癬症や猫の耳疥癬、外耳炎、結膜炎、角膜炎なども1歳以降に比べて罹患率が高いことが分かっている。
パルボウイルス感染症は0歳齢では命取りになることも
0歳でかかりやすい犬猫の病気のうち、代表的なものを把握しておこう。

「犬パルボウイルス感染症は、感染している犬の糞便などを口にしてしまうことで感染する病気です。ウイルスが小腸の粘膜などを破壊し、下痢や血便、嘔吐などの症状がみられます。激しい消化器症状から脱水になったり、食事が取れなくなったりして、死に至ることもあります」
猫汎白血球減少症(猫パルボウイルスFPLV感染症)も同様に、感染している猫の糞便などを口にしてしまうことによって感染する。感染すると、数日の潜伏期間の後、白血球が急激に減少し、発熱や食欲不振、下痢、嘔吐、脱水などを起こす。重篤になると命を落とす場合もある。
「コクシジウム症は、コクシジウムという原虫が小腸の細胞に寄生し、増殖することによって起こります。これも、感染した犬猫の糞便が主な感染ルートです。大人なら感染しても無症状のことが多いのですが、子どもの場合には下痢の症状が出やすいです。重篤化すると血便や脱水、貧血、栄養失調、体重低下などの症状も引き起こします」
ケンネルコフは“犬の風邪”のように捉えられている
犬のケンネルコフは、菌やウイルスなどいくつかある病原体のうちの一つ、あるいは複数に感染することで発症する。比較的軽微な呼吸器症状が中心なので“犬の風邪”のように捉えられている(関連記事)。
「ケンケンと乾いた咳をする子が多いですね。その様子が吐き気をこらえているように見えることがあるので、飼い主さんから動物病院へ相談があった場合には、こちらで判別できるように、動画を撮影して見せてもらったりします」
猫ウイルス性鼻気管炎や猫カリシウイルス感染症は「猫風邪」とも呼ばれる(関連記事)。どちらも、ウイルスに感染している猫との接触や空気感染により、2~10日程度の潜伏期を経て発症する。
「主な症状は鼻水やくしゃみ、目やにです。犬の風邪と違って、咳はしませんね。飼い主さんが『目が腫れている』『涙があふれている』といった目の症状に気づいて受診に至るケースが結構多いです」
子犬・子猫の間にコアワクチンを複数回
0歳犬、0歳猫でリスクが高い感染症は、ワクチンで予防できるものが多い。

「ワクチンは、狂犬病のほかに義務化されているものはありませんが、かかりつけの動物病院に相談して、適切に接種すべきだと思います」
WSAVA(World Small Animal Veterinary Association:世界小動物獣医師会)は、犬用ではジステンパーウイルス、犬アデノウイルス1型、犬パルボウイルス2型、猫用では猫パルボウイルス、猫カリシウイルス、猫ヘルペスウイルスの混合ワクチンを、全ての犬や猫が受けるべき“コアワクチン”と定義した。また、犬のレプトスピラ症や猫白血病ウイルスのワクチンも、コアワクチンに次ぐ位置づけで接種を推奨している。さらに、犬猫のライフスタイル(屋外飼育、多頭飼育など)によっては他のノンコアワクチンも検討すべきという。
ワクチン接種のタイミングと頻度は、母体由来抗体(MDA)が消失する頃から2~4週間おきに複数回接種し、最後の接種は16週齢以降にするのが望ましいという。MDAの下がり方には個体差があり、一概に言えないが、多くの場合は生後16週までになくなるとされている。このため、費用の問題などで複数回の接種が難しい場合には、16週を過ぎた辺りで1回接種することをWSAVAは推奨している。
「ワクチン接種と合わせて検便もしておくといいですね。最後のワクチン接種が済むまでは、犬も屋外の地面を歩かせないようにしてください。社会化のために抱っこした状態で外の空気を吸う程度にとどめましょう」
WSAVAのガイドラインには、コアワクチンの免疫持続期間は数年に及ぶことが多いため、成犬、成猫になってからは必要以上の頻度で接種すべきではないとの記載もある。
ワクチン接種は、顔面の腫脹や皮膚のかゆみ、じんましん、嘔吐、下痢、発熱、元気消失、呼吸困難、虚脱といった副反応を伴う可能性があり、ごくまれには、血圧低下や意識障害を引き起こすアナフィラキシーショックが起こることもある。不必要なワクチン接種は避けたいところだ。
「ただ、ノンコアワクチンの多くは免疫持続期間が1年になっていると思います。ワクチン接種相談を含め、少なくとも年に1回、理想をいえばそれ以上の頻度で、動物病院で健康診断を受けるのが安心だと思います」
◆教えてくれたのは:獣医師・鳥海早紀さん

獣医師。山口大学卒業(獣医解剖学研究室)。一般診療で経験を積み、院長も経験。現在は獣医麻酔科担当としてアニコムグループの動物病院で手術麻酔を担当している。
取材・文/赤坂麻実
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