
三浦春馬さんが亡くなってから間もなく5年が経とうとしている。彼の影響を受けた俳優は数知れず。そのうちのひとりである吉沢亮が映画『国宝』で見せた舞は、足先や指先にまで神経を行き届かせた三浦さんの繊細な演技を思い出させた。
「公開前から関係者の間では“今年の邦画の代表作”との呼び声が高かったのですが、想像以上の大ヒットです。各劇場では満席が続出。パンフレットは完売し、増刷が緊急決定したほどだとか」
大手映画会社関係者が興奮気味に語るのは、吉沢亮(31才)主演の映画『国宝』だ。6月15日までの公開10日間で観客動員数85万人、興行収入11.9億円を突破。口コミで評判が広まり、公開2週目にして、前週比143.4%を記録した。
同作は、吉田修一氏の同名小説を原作に、歌舞伎に人生を捧げる2人の青年の生き様を描く。吉沢演じる喜久雄は、任侠の一門に生まれるも歌舞伎役者・花井半二郎に引き取られて芸の道に入り、才能を開花させる。一方、横浜流星(28才)が扮するのは半二郎の息子・俊介。性格も出自も異なる2人は女形として切磋琢磨する。
この作品は、吉沢にとって“復帰作”でもある。
「昨年末、吉沢さんは泥酔して自宅マンションの隣の他人の部屋に無断で侵入し、住居侵入容疑で書類送検されました。被害者とは示談が成立したものの、騒動の影響で、今年2月に公開されるはずだった主演映画『ババンババンバンバンパイア』の公開が7月に延期になりました」(前出・大手映画会社関係者)
しかし『国宝』は、予定通りに公開にこぎつけることができた。ある映画関係者は「この作品が“お蔵入り”にならなくて本当によかった」と胸を撫で下ろす。
「『国宝』の撮影は昨年3月から6月にかけて行われたのですが、準備期間も含めると約1年半もかかっており、一般的な映画作品と比べてかなり長い。その間、俳優陣は凄まじい緊張感の中、稽古に励んできました。特に吉沢さんは、多忙な中でも週に2〜3日稽古に通い、すべての動きの基礎となる『摺り足』だけで3か月ほど練習したそうです」(芸能関係者)

有名な演目『鷺娘』のクライマックスに行われる海老反りにも挑んだ。
「上半身を限界まで反って、観客に逆さまの顔を見せる演技です。稽古を始めたばかりの頃はまったく反ることができなかったそうですが、1年近くも体幹を鍛えて、このシーンを見事に演じ切りました。演目の撮影中、エキストラの中に吉沢さんの舞を見て涙をこらえきれなかった人がいたんです。その様子が吉沢さんの目に入り、初めて手応えを感じたそうです」(前出・芸能関係者)
役の上でライバルとなる横浜とは、稽古の最中も意識し合っていたようだ。
「吉沢さんの方が3か月早く稽古を始めていたそうですが、横浜さんはすごいスピードで吸収し、さらに女形として動きがどんどん色っぽくなっていった。そこで吉沢さんは“横浜流星に絶対に負けない”という目標を立てたそうです」(前出・芸能関係者)
自他ともに認める負けず嫌いだという吉沢の俳優デビューは2011年だ。若手俳優の登竜門である仮面ライダーシリーズ『仮面ライダーフォーゼ』(テレビ朝日系)に出演すると、その整った顔立ちが話題に。2017年の映画『銀魂』や2018年の映画『キングダム』での演技力が認められ、2019年の朝ドラ『なつぞら』に出演。そして2021年の大河ドラマ『青天を衝け』で主人公・渋沢栄一役に大抜擢された。
「仲間に負けたくないという思いが、モチベーションになっているそうです。吉沢さんは男4人兄弟なので、女性にチヤホヤされるよりも男友達と遊ぶ方が気楽なのだとか。なかでも同世代の神木隆之介さん(32才)や山崎賢人さん(30才)は親友と呼べる間柄で、よく飲みに行ったり、一緒に旅行することもあるそうですよ」(前出・芸能関係者)
「若い宝をお願いします」
一方、彼には芸能界で尊敬してやまない先輩がいた。同じ所属事務所で4つ年上の三浦春馬さん(享年30)だ。
「2人は年齢こそ4つしか違いませんが、キャリアは圧倒的に三浦さんが長く、吉沢さんがデビューした頃、三浦さんはすでに売れっ子になっていました。事務所のイベントなどで共演する機会があったのですが、吉沢さんは人見知りで、あまり自分から先輩に絡んでいくタイプではなかった。でも、そんな吉沢さんに三浦さんは目をかけて、話しかけたり食事に誘ったりして、次第に吉沢さんも三浦さんを慕うようになったのです」(舞台関係者)
吉沢の大河ドラマ主演が決まった際、三浦さんはSNSにこう投稿した。
《本当にすごい事だと思う。お亮、頑張れー!!》
「吉沢さんは一見、順調にキャリアを積んできたように思えますが、演技への向き合い方がわからず、素直に仕事に取り組めない時期がありました。そんなときでも三浦さんは吉沢さんを見守っていたといいます」(テレビ局関係者)

2020年7月、突然世を去った三浦さんは、亡くなる8日前に、剣術の師匠に《うちの事務所の若い宝をお願いします》というメッセージを送っていた。
「この“若い宝”とは吉沢さんのことです。このとき、吉沢さんは大河ドラマの撮影のために三浦さんの師匠である先生から剣術指導を受けていました。三浦さんは、最後の最後まで吉沢さんのことを気にかけていたのです」(前出・テレビ局関係者)
そんな三浦さんはドラマや映画出演でどんなに多忙でも、定期的に舞台に立つことを大切にしていた。
「特にミュージカル『キンキーブーツ』の主人公でドラァグクイーンのローラ役には並々ならぬ思い入れがありました。高いヒール靴を履いて歌い、踊る役なので、家でもヒール靴のまま生活するなど、その努力は尋常ではなかった。三浦さんの姿に、多くの後輩が影響を受けていますが、吉沢さんもそのひとりでしょう。『国宝』の狂気的な演技は、これまで彼が培ってきたものすべてを出した集大成といえるかもしれません」(前出・舞台関係者)
かつて、三浦さんはとある会見で吉沢に「顔の雰囲気から女装が似合いそう」とアドバイスを送ったことがあった。奇しくも今回、『国宝』で吉沢が熱演しているのも女形を極めようとする役だ。吉沢が演じた喜久雄は、美しく、そしてどこか刹那的。その儚い姿に、三浦さんの面影が重なる気がした。
※女性セブン2025年7月3・10日号