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映画『フロントライン』を観て振り返る5年前のコロナ禍 ガラガラの日比谷線で見た“異常”と地元への帰省で感じた強烈な“距離感”

ヒットしている映画『フロントライン』(公式HPより)
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大ヒットを記録している映画『フロントライン』。5年前に起きた「ダイヤモンド・プリンセス号」での新型コロナウイルスの集団感染を題材にしたものだ。そこから日本はコロナ禍に突入していった。5年前のコロナ禍について今思うことについて、オバ記者ことライターの野原広子(68歳)が綴る。

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「ダイヤモンド・プリンセス号」のニュースに胸騒ぎ

今月13日から全国で上映が始まった途端「観た?」という声があちこちから聞こえきたのが映画『フロントライン』。「いっしょに観ませんか?」と映画通のMさんから声がかかったら、そりぁあ、行くわよ。

5年前、日比谷線の車内はガラガラだった
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「そうかぁ。あれからもう5年が経つのね。日本中が毎朝、ワイドショーで横浜港に浮かぶ豪華客船、ダイヤモンド・プリンセス号を見ていたのよね」と私がいえば、「コロナってあそこから始まったんですよね」とMさん。映画のパンフレットを見るとダイヤモンド・プリンセス号が横浜港に入港したのは2020年2月3日。あの時は“新型コロナウイルス”という名称もなくて謎の感染症という扱い。それでも海上から動く気配がない客船を見ながら「これからどうなっちゃうんだろう」と、今まで経験したことがない胸騒ぎがしたっけ。

その「これからどうなる」は5年でほぼほぼ答え合わせができたけれど、でも「あの時、船内はどうなっていたんだろう」ということは考えたことがない。当時、報道されたことで分かったようなつもりになったまま時が過ぎていったのよね。その答えが映画の中にみんなあるんだから、それはもう衝撃よ。

朝から晩まで手製のマスク作り

で、わが身に引き寄せて振り返ると手製のマスクをつけたのが2020年4月14日。手製ってことは、ダイヤモンド・プリンセス号の報道から2か月の間にマスク不足で日本中が大騒ぎになったのよね。マスクは“命を守るマスク”。私も毎日、朝から晩まで家にこもってミシンに向かってマスク作りをしていたっけ。当時の安倍晋三首相が「ひとり2枚ずつ配布する」としたアベノマスクの配布が始まったのは4月からだ。

オバ記者作のマスク
オバ記者作のマスク
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4月24日、日用品がなんでも安い近所の安売り路面店のワゴンセールに行ったら、ペラペラの紙マスクが1枚100円って、40枚500円前後の今なら考えられないけれど、当時は飛ぶように売れていたのよね。

そのうち小池百合子都知事から「不要不急の外出は控えましょう」というお触れが出て、リモートでの仕事が必須になる。とはいえ、国会はリモートにならず私も必要に応じて議員会館に出勤していた。するといつも満員だった通勤時間帯の地下鉄日比谷線がガラガラ! どれだけ異常事態か、電車の中で背筋が寒くなった。

地元の母ちゃんとリモート通話も

コロナ禍は家の中にも入り込んできた。その前年に父親が亡くなってひとり暮らしをしていた母ちゃんも90歳を超えて病気がちになったの。さぁ、それからよね。コロナ以来、東京に住んでいる私が帰ってきているとご近所にわかると口にこそ出さないけれど微妙な距離を取られてる? と思うことがたびたびあったのよ。

それで「まぁ、しばらくは来ねぇほうがいいな」と言って弟は毎週、実家に帰って私と母ちゃんをリモートで話させてくれるようになった。でも母ちゃんはテレるんだね。「どしたよ?」と聞いても「元気だっぺな」と言ってすましている。「だから何か話せよ」と弟にせかされてもでへへへ笑うばかり。そりゃあ、「おばあさんは川に洗濯に、おじいさんは山に芝刈りに」で育った昭和3年生まれの母ちゃんがリモートを使いこなせるわけがないって。

母ちゃんとリモート
コロナ禍の真っ只中はリモートで母ちゃんと会話したっけ
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この母ちゃんが翌夏、搬送された病院で意識がもうろうとして、いよいよ終末期か? ということになった。コロナ禍の真っ只中、病院としては家族のお見舞いを許すわけにはいかない。「自宅に引き取って介護をするなら今がラストチャンスですよ」と迫られた。私に託されたのは介護と言うより看取りなのは担当医師や看護師の口ぶりでわかる。

私が帰省して布団を並べてシモの世話をする覚悟を決めるしかない。ところが家に帰ってきたら母ちゃん、ゾンビ並みの復活をしてくれて、そうなったら私と命がけの戦いが始まった。その顛末は過去にこの連載で書いているのでぜひ読んでいただきたいが、結果は花丸だったと、これは5年経った今も思っている。

コロナ禍を経て「現役感」に寂しさ

だけどそんなことはほんのひとコマで、コロナが話題にのぼらなくなった今、寂しい思いをすることが多くなった。その最たるものは現役感だよね。コロナ前、つまりアラカンの頃は無理すれば世の中の真ん中の端っこに引っかかっていられるような気持ちでいたけれど、アラコキの今は明らかに立ち位置が違う。こうして人は老いていくんだなと、きっと私と同世代はコロナ前、コロナ後をそんな風に思っているんじゃないかしら。

そうそう、映画の話に戻ると、松坂桃李演じる厚労省のお役人役がいいよ。てか、小栗旬、池松壮亮、窪塚洋介のイケメン陣ってなんでこんなに演技がうまいんだ? なんて余裕かましていると、何気ないセリフひとつで涙腺崩壊するから気をつけて。隣の席のイケオジ気取りのおっさんは途中からずっと鼻水を啜りっぱなしでした。

◆ライター・オバ記者(野原広子)

オバ記者イラスト
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1957年生まれ、茨城県出身。体当たり取材が人気のライター。これまで、さまざまなダイエット企画にチャレンジしたほか、富士登山、AKB48なりきりや、『キングオブコント』に出場したことも。バラエティー番組『人生が変わる1分間の深イイ話』(日本テレビ系)に出演したこともある。昨年10月、自らのダイエット経験について綴った『まんがでもわかる人生ダイエット図鑑 で、やせたの?』を出版。

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