
歌舞伎の世界を赤裸々に描いた映画『国宝』が大ヒット中だ。そこで注目されるのが、人間国宝という存在。知られざる人間国宝の人生とはどのようなものなのか。【全3回の第1回】
任侠の一門に生まれた喜久雄(吉沢亮)が歌舞伎役者の名門の家に引き取られ、愛憎入り交じる芸の道を突き進む。一方、歌舞伎の名門の御曹司・俊介(横浜流星)は、喜久雄という“ライバル”の存在により壮絶な道を歩んでいくことに──そんな一代記を描いた映画『国宝』が大ヒット中だ。
映画のなかで喜久雄は、世襲や血筋といった歌舞伎の習わしに苦しみながら、至高の「わざ」を極めて人間国宝に駆けあがった。厳しくも実りある人生はスクリーン上のものだけではない。現在、日本には100人を超える人間国宝が存在する。いまを生きる彼ら、彼女らはどのような人生を歩んでいるのか。
人間国宝の人数は最大116人
日本の文化財は、1950年に制定された「文化財保護法」に基づいて保存や活用が図られている。その対象となる文化財は、建物や絵画といった「有形文化財」だけでなく、「演劇、音楽、工芸技術その他の無形の文化的所産で我が国にとって歴史上または芸術上価値の高いもの」である「無形文化財」を含む。
そうした無形文化財は、人間の「わざ」そのものであり、その「わざ」を体現・体得した個人または団体によって表現される。そして、無形文化財のなかでも重要な「重要無形文化財」を個人で保持する「各個認定保持者」が、「人間国宝」と通称されている。
人間国宝の認定は、文化審議会の調査検討などを経て文部科学大臣によって行われる。これまで認定された人間国宝の延べ人数は、制定以来75年間で395人(実人員392人)で、現在の人数は105人。これまで逝去以外で認定が解除されたことはない。認定されると年額200万円の特別助成金が交付され、現在の予算上は116人の認定が可能となっている。人間国宝は伝統文化を次世代に継承するため、日本が独自に設けた制度だ。

「いわゆる人間国宝の制度は、芸術家の顕彰を目的とするものではなく、あくまでも重要無形文化財の保護制度の一部であり、支援もその観点から行われます。このように無形の文化財を国による保護制度の対象として位置づけたのは、日本が最初ともいわれています」(文化庁担当者)
その影響は世界にも与えている。フランスには人間国宝にヒントを得て創設された「メートル・ダール」という制度がある。フランス在住のジャーナリスト・羽生のり子さんが語る。
「家具と装飾、建築と庭園などさまざまな分野の伝統工芸の匠に与えられる称号です。メートル・ダールは職人の養成機関がほとんどないマニアックな分野も対象に技術の継承を目指しています。授与された職人は3年間にわたって自分の技術を伝授する弟子を育成することが義務付けられ、そのための支援金が国から支給されます」
(第2回へ続く)
※女性セブン2025年7月24日号