健康・医療

夏の家の中で起きやすい「隠れ脱水症状」の危険なサイン ふらつく、頭痛がする、おしっこの回数が減る、尿の色が濃い…対策を解説

おでこに手を当てる女性
室内でも油断できない「隠れ脱水症状」(写真/Photo AC)
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厳しい暑さが続くなか、熱中症対策で外出を控える人も多いが、冷房の効いた室内にいても油断できないのが「隠れ脱水症状」だ。自覚症状がないまま体内の水分不足で起こるため、誰でもなる可能性があるという。すぐに対策を始めよう。

隠れ脱水は家の中で起きやすい

新百合ヶ丘総合病院救急センター・センター長の伊藤敏孝さんの元には、脱水症状による熱中症患者が次々と運ばれてくるという。

「60才以上のシニア世代が朝、運ばれてくるケースが多いです。話を聞くと、『クーラーは体に悪い』『クーラーの風が苦手』『窓を開けているから大丈夫』といった理由から、ほとんどのかたがクーラーをつけずに寝ているんです。特にシニア世代の女性は『クーラーの風に当たると頭が痛くなるから嫌だ』という人もいます。

しかし、シニア世代は加齢に伴い、体温を調節する機能が衰え、暑さを感じにくくなっています。それに夏の夜が涼しかった昔とは違い、近年は夜でも気温が下がらないので、クーラーをつけないと睡眠中に汗をかき、体内の水分が失われて『隠れ脱水症状』を引き起こします」(伊藤さん・以下同)

隠れ脱水症状は脱水症状の一歩手前の状態のことで、水分不足が続くと年齢や性別にかかわらず誰にでも起こる可能性があるという。

頭に手をやる女性のイラスト
隠れ脱水になると、ふらついたり、頭痛がする(イラスト/早瀬あやき)
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「特に、シニア世代は『夜中にトイレに行くのが面倒』と、就寝前に水分を摂らない人が多くいます。そのため、もともと体内の水分が足りない上に室内の暑さで汗をかき、脱水症状が進行してしまうんです」

さらに、「クーラーをつけていても安心はできない」と言うのは、管理栄養士の宮野友里加さんだ。

「冷房が効いた部屋では喉の渇きを感じにくいため、水分摂取量が減りがちです。特に、高齢者は若い人に比べて喉の渇きを感じにくい傾向にあります。シニア世代こそ、意識してこまめに水分補給をしてほしいですね」

体内の水分不足が症状を引き起こす

知らないうちに体内の水分不足が進行するという「隠れ脱水症状」は、どう見分ければいいのだろうか?

「脱水症状は、軽度、中等度、重度に分けられ、隠れ脱水症状はその軽度の段階です。軽度の段階で起こるサインは、唾液の分泌量が減る、口の中が渇く、口の中がネバつくようになるなどが挙げられます。

喉に手を当てる女性のイラスト
口が渇きやすく、ねばつくのは軽度のサイン(イラスト/早瀬あやき)
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また、体内の水分量が減るため腎臓が水分を保持しようとして、排尿回数が減る、尿が出にくくなるという症状が現れます。尿が出にくくなると体内に老廃物や水分がたまり、足などがむくむ、尿の色が濃くなることもあります」(伊藤さん)

トイレと女性のイラスト
おしっこの回数が減り、尿の色が黄色くなることも(イラスト/早瀬あやき)
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爪の色にも症状は現れる

また、爪の色を見るとわかると、宮野さんは言う。

「親指の爪を逆の手でつまみ、離した後、元の色に戻るまでに3秒以上かかる場合は要注意。体内の水分が減って、脱水症状により血行不良を起こしている可能性があります。熱中症の恐れもあります」(宮野さん)

親指の爪を押しているイラスト
親指の爪を逆の手でつまみ、パッと離して3秒以内に元の色に戻らなければ脱水症状の可能性が(イラスト/早瀬あやき)
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これらのサインが見られたら、すぐに水分補給が必要だ。

症状が進むと本格的な脱水症状に

体内の水分量の減少は血流の悪化につながり、脳に血液が行き渡りにくくなる。

「この段階までくると、明確な自覚症状が出てきます。たとえば、ふらつく、めまいがする、頭痛がする、吐き気がするなどの症状が挙げられます。これらは高齢者に限らず若い人にも起こりやすい。

また、倦怠感や疲労感がある場合も、脱水症状が隠れている可能性が高く、症状が進み重度になると、動けない、起き上がれないという人も出てきます。

実際に朝、おじいちゃんやおばあちゃんが起きてこないと思って家族が様子を見に行くと、ぐったりしていて慌てて救急車を呼んだというケースも少なくありません。

この時点で発見し、対処すれば悪化を防げますが、放置すると、けいれんを起こす、ろれつが回らなくなる、体が熱くなる、呼びかけに反応しないなどの症状が起こり、さらに意識がなくなると、とても危険です。血液中の水分もかなり減っているため、血が固まりやすくなり、心筋梗塞や脳梗塞を起こす可能性が高くなります」(伊藤さん・以下同)

【対処法1】室内で発症したら

「冷房で温度管理された涼しい部屋で水分を充分に摂り、横になること。汗でナトリウムが流れると、低ナトリウム状態になって、めまいやふらつきを引き起こすので、塩あめや梅干しなどで塩分補給を。ナトリウムが入った経口補水液を飲むのも有効です。それでも症状が改善されなければすぐに救急車を呼んで医療機関を受診しましょう」

【対処法2】屋外で症状を自覚したら

散歩中や庭仕事の合間などにサインを感じたら、すぐに涼しい場所に移動を。

「体が熱い場合は、すぐに冷たいものを飲んで体の中から冷やすこと。首の周りを冷やすと効率的に体温を下げることができます。

便利なのがコンビニで売られている袋やカップに入った“かちわり氷”。応急処置として封を開けず袋ごと、またはカップごと首の周りにあてると体を効率よく冷やせます。氷が解けても水は冷えているので、それを飲むのも効果的です。

袋いりのロックアイス
便利なかち割り氷
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外で作業する場合は、袋に入れた氷をタオルで包んで首に巻く(ネックアイシング)と熱中症予防にも効果があります」

【対処法3】食事からも水分をとる

隠れ脱水症状を防ぐにはとにかくこまめな水分補給が不可欠だ。

「高齢者は口の渇きを感じにくいため、夏場は意識的に1時間おきに水分補給をするくせをつけましょう。カフェインが入った飲み物は利尿作用があり、逆効果になりかねないので、水か麦茶がおすすめです」(宮野さん・以下同)

1日に摂取する水分量は2.5Lを目安にしたい。

「体内で自然に生成される水分は、1日あたり約0.3Lとされています。残りの必要量は、飲料から約1.2L、食事から約1Lを目安に補えると理想的です。

夏場はどうしても食欲が落ち、食事から摂れる水分量が減りがちに。それを防ぐためにも、水分量が多い食品を意識的にとること。パンより白米の方が水分量が多いので、主食はご飯がいいですね。そのほか、きゅうりやなす、トマトなどの夏野菜には水分以外にミネラルも含まれており、夏バテ予防にも効果的です」

食品に含まれる水分量の目安のリスト
食品に含まれる水分量の目安
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【対処法4】室温と湿度を管理する

冷房は躊躇なく使用するのが重要と、伊藤さんはアドバイスする。

「冷房の風が嫌な場合は、エアコンの除湿機能を利用しましょう。仮に、気温がさほど高くなくても湿度が高いと熱中症になりやすいとされています。それは、湿度によって汗が蒸発しにくく、体内に熱がこもってしまうからです。室温は24〜27℃、湿度は50〜60%を目安にしましょう」(伊藤さん・以下同)

【対処法5】適度な運動をする

「運動で代謝を上げることで、よい汗をかくことができます。よい汗とは、ナトリウムを含まない水だけのサラサラとした汗のこと。よい汗をかくことで体温調節がうまくいき、隠れ脱水症状も防げます」

女性のイラスト
汗をかいたら、ウエットティッシュで体を拭くと、皮膚に水分が残るため体温が下がり、隠れ脱水症状の予防にもなる(イラスト/早瀬あやき)
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適切な対策をとり、この猛暑を乗り切ろう。

ネックアイシングのやり方

【1】氷を入れたビニール袋を3つ作り、タオルやハンカチの上に並べて包み、首に巻く。

氷を入れたビニール袋をタオルで包んでいる
氷を入れたビニール袋をタオルで包む(イラスト/早瀬あやき)
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【2】首回りを氷で冷やすのは、体全体を早く冷やすのに効果的。

首回りを氷で冷やす女性のイラスト
首回りを氷で冷やす(イラスト/早瀬あやき)
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【3】コンビニなどが近くにある場合は、氷を購入してカップごとか

カップのまま氷を首に当てる女性のイラスト
カップのまま氷を首に当ててもよい(イラスト/早瀬あやき)
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袋のまま首にあてる。

 

カップ入りのロックアイス
氷の粒は小さい方が首にフィットしやすい
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隠れ脱水症状を防ぐ1日の過ごし方

・朝はコップ1〜2杯の水を飲む

「起き抜けの体は、水分不足でカラカラの状態のため、起きてすぐに300ml程度の水を飲みましょう。暑い日なら冷たい水でも構いません」(伊藤さん)

水を飲む女性のイラスト
朝はコップ1〜2杯の水を飲む(イラスト/早瀬あやき)
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・夜はクーラーをつけっぱなしで温度調整

「節電のためと夜にクーラーを切るのはNG。つけっぱなしで適切な室温をキープし、水分補給も忘れずに行いましょう」(伊藤さん)

クーラーをつけている
夜はクーラーをつけっぱなしで温度調整(イラスト/早瀬あやき)
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・朝食にみそ汁を飲む

「睡眠中の汗で水分と塩分が失われます。みそ汁を飲むことで水分と塩分が効率よく摂れます」(宮野さん)

朝食のイラスト
朝食にみそ汁を飲む(イラスト/早瀬あやき)
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・入浴前後には必ず水を飲む

「入浴時は大量に汗をかくため、充分な水分補給が必要。入浴前後にそれぞれコップ1杯の水を飲みましょう」(伊藤さん)

入浴後に水を飲む女性のイラスト
入浴前後には必ず水を飲む(イラスト/早瀬あやき)
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・家事の合間に水を飲む

「家事の合間に水分補給を。コップ1杯程度を目安に、目盛付きウオーターボトルを使えば、飲んだ量が可視化できて便利」(宮野さん)

家事の合間に水を飲む女性のイラスト
家事の合間に水を飲む(イラスト/早瀬あやき)
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・スクワットなど軽い運動をする

「代謝を高めるために、一駅分歩くなど軽い運動を行いましょう。家でスクワットをするのもOK」(伊藤さん)

スクワットをする女性のイラスト
スクワットなど軽い運動をする(イラスト/早瀬あやき)
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※水分制限をしている場合は、主治医の指示に従おう。

◆教えてくれたのは:宮野友里加さん

医療サービス会社「ドクタートラスト」の管理栄養士。年間100人以上のダイエットサポートなどを行う。

◆教えてくれたのは:伊藤敏孝さん

新百合ヶ丘総合病院救急センター・センター長。テレビや雑誌、新聞などで熱中症や脱水症について解説する。

取材・文/廉屋友美乃

※女性セブン2025年8月14日号