
子供1人が大学を卒業するまでには、総額約2000万〜4000万円ほどかかるとされる。平均約100万円かかる出産費用のほか、子供のための生活費や、成長につれて増えていく教育費など、子育てにかかるお金はいくらあっても充分すぎることはない。
この負担を少しでも軽減するため、5月14日、厚労省は「出産費用の原則無償化」に向けた制度設計案を提出した。現在、帝王切開などの一部の出産費用のみが保険適用で、正常分娩の平均値は出産費用一時金の50万円を上回っているのが、実質無料になる見込みだ。
「児童手当」は全世帯に支給開始
近年、子供のために「もらえるお金」「戻ってくるお金」「借りられるお金」が増えている。2025年は、「児童手当」と「産休・育休」に関する改正がもっとも大きな変化だ。ファイナンシャルプランナーの黒田尚子さんが言う。
「児童手当は2024年12月支給分からは所得制限が撤廃され、すべての子育て世帯に対して子供1人あたり月1万円(3才未満は1万5000円、第三子以降は3万円)が支給されることになりました。またこれまでは中学卒業までの支給だったのが、高校卒業までに延長されています。併せて多子世帯への増額も始まっています」(黒田さん)

「パパの育休」「ママの時短勤務」を後押しする給付金がスタート
一方、産休・育休のための制度としては、2025年から新たに「出生後休業支援給付金」と「育児時短給付金」が創設された。
いずれも、早産や人工妊娠中絶も含む出産時に受け取れる1児50万円の「出産育児一時金」、働く女性の産前・産後の収入源をカバーするための「出産手当金」、出生から8週までの「出生時育児休業給付金」、1才までの「育児休業給付金」と併せて受け取ることができる。これらすべてを取得すれば、育休取得後最初の28日間は賃金の100%を受け取れることになる。
この制度は共働き夫婦の出産と育児をサポートするものであると同時に、「男性の育休取得」を後押しするものでもあると語るのは、社会保険労務士の岡佳伸さんだ。
「出生後休業支援給付金は、配偶者が14日以上育休もしくは産休を取った場合に受け取れるお金で、女性の場合は夫が14日以上育休を取ることで受け取れます。つまり、これまでは“夫が育休を取ると収入が減る”などといった理由で男性の育休取得を避ける人も多かったのが、むしろ夫も育休を取らないと損するようになった。2025年からは、妻だけでなく夫も育休を取ることで、給与とほぼ同額の手当を受け取れるようになるのです」(岡さん・以下同)

出生後休業支援給付金の利用には、世帯の続柄つきの住民票が必要。子供が生まれたら、その時点でマイナンバーつきの世帯の住民票を取っておく方がいい。
「出生届を出してからその子の個人番号通知が届くまでには時間がかかるため、それを待っていては子供のマイナンバーカードをつくるのが遅くなり、手続きも遅れてしまいます。
マイナンバーカードをつくるより先に、世帯全員の住民票を取れば、個人番号がわかり、スムーズに手続きができる。夫は、出生届を出すときに忘れずに“個人番号つきの世帯の住民票”を取ってください」
男性育休取得者や時短勤務者への支援は今後さらに充実していく見込みで、現在は就労条件を問わずすべての課程が時間単位で保育園などを利用できるようにする「こども誰でも通園制度(仮称)」の2026年からの実施を目指すなど、育児や保育に関する無償化の拡充が進められている。
高校の授業料は段階的に無償化へ
子供のためにかかるお金は、出産費用や育休中の費用だけではない。むしろ、子供が大きくなってからの「教育費」の方が、金額的にも大きな影響を与える。
ファイナンシャルプランナーの丸山晴美さんは、近年は教育費、特に高校や大学などの高等教育に関する支援制度が充実してきていると話す。
「高校や大学での奨学金や授業料無償化など、さまざまな制度変革が進められている中、2025年度からは、国公立・私立高校を中心に授業料無償化が拡充されました。
『高等学校等就学支援金制度』は、年収910万円未満の世帯など、条件に応じて年額11万8800円~39万6000円の支援金を受け取ることができます。
また、2025年度限りでは、年収910万円以上で所得制限のある世帯の高校生に対しては『高校生等臨時支援金』として、年額11万8800円の支援を受けることができます(※支援額はすべて全日制課程のもの)」(丸山さん)

住宅ローンや生命保険料控除も拡充続く
育児や子供の教育に関するお金は今後も拡充される予定だ。
「育児・介護休業法の改正により、2025年4月、10月と、段階的に施行されていく見込みです。
看護休暇の見直しのほか、残業の免除、育児のためのテレワークに関する制度がますます整備されていきます」(黒田さん)

さらに2026年には、子育て世帯のための生命保険料控除額も増額される予定だ。
「23才未満の扶養家族がいる世帯では、生命保険料控除の上限が現在の4万円から6万円になります。
また、子育て世帯が住宅を購入する際に所得税と住民税が控除される『住宅ローン優遇』は2025年度も継続されます」(丸山さん)
子育てや教育のための費用は、家計の中でももっとも重要な出費の1つ。安心して子供にお金をかけるには、「いつ」「どんな」お金がもらえるのか知っておくことが第一歩だ。