
その日は突然やってくるかもしれない。そうしたら、残された大切な人に別れを告げられずに旅立つことになる。しかし、「生前葬」をすればきちんと感謝を自分の言葉で伝えられると、実際に経験した人たちは言う。「生前葬」を行って何を感じ、これからの生き方についてどう考えるようになったのか、体験談を語ってもらった。
俳優・藤田弓子(79才)の夫で『シャボン玉ホリデー』(日本テレビ系)など名番組の構成作家を務めた河野洋さんが、都内のレストランで生前葬を開いたのは2019年3月。
「そもそもは80才の誕生祝いでしたが、照れ屋の夫は自分が主役になるパーティが苦手なので、生前葬という形で知人にお声がけすることにしました。ただ案内状を準備する際、高齢のかたも多かったので、すでに亡くなっているかたもいらした。だからあのタイミングで開催できてよかったです」(藤田・以下同)
当日は夫婦に縁のある芸能関係者ら100人以上が参列し、華やかなムードに。
「もういつでも逝けるだろうから、霊柩車を呼びましょうか」
こんなブラックジョークも飛び出して、会場は大きな笑いに包まれた。

「夫は照れていましたが、みんなが来てくれたことがすごくうれしかったようで、泣きそうな表情でした。懐かしの人だけでなく若い人も参加して、夫が生きてきた歴史そのものがバックミュージックのように流れるすてきな会でした。
参列者の評判もよく、みなさん“うらやましい。自分もやりたい”とおっしゃっていました」
この集いは会費制で、料理は和洋折衷だった。「生前葬をするなら、費用はなるべくならケチらないで」と藤田は語る。
「知り合いの店で、いいお酒と食べ物をしっかり出してもらいました。生前葬はあまり安くしようとしない方がいいと思います。
大変かもしれないけど、みんなでがんばって一生懸命お金を出してくれたと思えば本人もうれしいでしょうし、もしもそこで安くされたら、あの世に行きにくいと思うかもしれません(苦笑)」
生前葬を終えた河野さんは2年前にこの世を去った。
「本人が望んでいた通りの老衰で、ニコニコ笑ってお休みなさいという感じできれいに旅立ちました。生前葬は皆さんとワイワイ食べたり飲んだりして、すごく楽しかったと思います。
おかげでお世話になった人にも“ぼくは楽しんだよ”というメッセージが伝わったはず。もちろん、私にも彼の思いは伝わりました」
【プロフィール】
藤田弓子(ふじた・ゆみこ)/高校卒業後、文学座に入所し、1968年にNHK連続テレビ小説『あしたこそ』でヒロインデビュー。現在は静岡県伊豆の国市劇団「いず夢」の座長で地域貢献事業にも取り組む。
※女性セブン2025年9月25日・10月2日号