健康・医療

《医師が解説》ホラー映画鑑賞や怪談を聴くのが“認知症予防”に効果的「恐怖から起こる感情の動きが理想的な刺激に」脳に効く怖い映画も紹介

ホラー映画を観る女性
実はホラー映画を見たり、怪談を読んだり聴いたりするのは認知症予防にも効果があるのだそう(写真/Getty Images)
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怪談好きのヒロインが活躍する連続テレビ小説『ばけばけ』(NHK)が9月29日からスタートする。時代を反映しているのか、いまは「令和のホラーブーム」。恐怖心をくすぐるホラーやパニック、サスペンス映画が10月以降、続々と公開される予定だ。「ホラー作品なんて若者向けでしょ」とお思いのあなた! 実はホラー映画を見たり、怪談を読んだり聴いたりするのは認知症予防にも効果があるのだそう。その理由とおすすめ作品を紹介する。秋の夜長にぜひ、脳を恐怖で震撼させて!

14の認知症リスクの5リスクを回避できる

恐怖を感じさせる映画を見る、同様の小説を読む、怪談を聴く・話す――。いずれも脳を活性化させると言うのは、認知症に詳しい脳内科医の加藤俊徳さんだ。

「2024年にイギリスの医学誌『ランセット』の専門家委員会が、14の認知症リスク要因を発表しました。報告書によれば、14項目のリスクを取り除くことで、将来の認知症リスクを45%予防できるといいます」(加藤さん・以下同)

認知症を発症する14のリスクには、(1)教育機会の不足(2)難聴(3)高LDLコレステロール(4)糖尿病(5)高血圧(6)うつ病(7)頭部外傷(8)運動不足(9)肥満(10)喫煙(11)過度の飲酒(12)社会的孤立(13)視力障害(14)大気汚染があり、そのうち、「教育機会の不足」「難聴」「うつ病」「社会的孤立」「視力障害」は、読書をして学ぶ、映画を注意深く見たり聴いたりする、さまざまな作品に興味を持つ、といった行動でリスクを抑えられるという。

そのなかでもなぜ、ホラー作品の効果が期待されるのか。

恐怖から起こる感情の動きが理想的な刺激に

「日本人の認知症患者のうち約7割を占めるアルツハイマー型認知症は、においの中枢である『嗅内皮質』周辺が病変をきたすことで進行します。嗅内皮質は、感情の中枢である扁桃体を内側から覆っているので、感情を揺さぶって扁桃体を刺激すると、嗅内皮質周辺も刺激されます」

ホラー映画などを見て強い恐怖を感じると、その視覚情報が扁桃体に伝わり、嗅内皮質周辺の病変をきたす部分も刺激。認知症予防につながるというわけだ。

暗闇の中にいる女性
強い恐怖を感じると、その視覚情報が扁桃体に伝わり、嗅内皮質周辺の病変をきたす部分も刺激。認知症予防につながる(写真/Getty Images)
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「感情を刺激するものとして、ホラーやサスペンス、パニック映画といった恐怖心を刺激する作品がおすすめなのは、次に何が起きるのだろうかという予測がしづらく、ドキドキやワクワクを感じさせるからです。見続けていくうちに先の展開がわかって、『そういうことなのか』と振り返られる。この感情の動きが脳に刺激を与えます。さらに、怖いシーンは頭の中で繰り返し再生されやすいので、刺激が長く続きます」

認知能力とは「確認できる行為」のこと。ホラー作品に接すれば、身の安全を確保しつつ、危険な状態や到底ありえない非現実的な状況を疑似体験して積極的に確認できる。それが理想的な脳の刺激になるわけだ。

「確実に怖いことがわかっているのに、あえてホラー作品を見たり聴いたりするのは、自らスリルに突っ込む行為であり、前向きな気持ちがないとそうはいきません。ホラー作品に興味が持てるうちは、脳も元気といえるでしょう。ただし、長時間見続けるなどして生活のリズムを崩したり、睡眠不足が続いてうつになったりしては本末転倒。ほどほどを心がけて」

先の展開がわからず、ドキドキワクワクさせる加藤さんおすすめの映画作品は下記で紹介するので参考にしてほしい。

小説を読む、怪談を聴く、音読もおすすめ

恐怖心を掻き立てる小説を読むのも、ホラー映画を見るのとはまた違う側面から脳を刺激するという。

「文章を読むというのは、映画などの映像作品を見るよりも想像力が必要となり、より高度な脳の働きが必要となります。認知症は左脳の海馬の異変から発症することが多いのですが、この部分は言語や出来事に関する記憶の情報処理と検索を司ります。言葉を覚えるのは左脳の海馬が関与するため、怖い小説を読んで状況を想像し、覚えることで、左脳を刺激できます」

ただ、文章の読み取りが苦手な人にはハードルが高いかもしれない。

「小説を読むのが苦手なら、短編から挑戦を。怪談は短編が多いのも魅力です。特に、誰もが同じように場面を想像しやすい内容がいいでしょう。私のおすすめは、怪奇・恐怖小説を得意とした作家・江戸川乱歩の短編です」

読書をしているイメージ写真
小説を読むのが苦手なら、短編から挑戦を。怪談は短編が多いのも魅力(Ph/Photo AC)
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読むこと自体が難しい場合は、人に朗読してもらってそれを聴くのでもいいという。怪談イベントに参加したり、怪談を話すYouTube動画やラジオを聴いたりしてもいい。注意深く内容を聴き、場面を想像すれば、脳に刺激を与えられる。

「文章を声に出して読む『音読』も脳活になります。音読は、口を動かし声に出すことで脳の運動を司る部分(運動系)を刺激するだけでなく、文章の内容について考え、理解し、共感したり(思考系・理解系、感情系への刺激)、自分の声を耳で聞いたり(聴覚系への刺激)、目で文字を追ったり(視覚系への刺激)と、脳のさまざまな部分を一度に活性化します。特に、いちばん怖いと思ったシーンだけを何度も繰り返し音読することが大切。記憶を司る部分(記憶系)が刺激されるからです。可能なら人に聞かせるのもおすすめ。脳の伝達系が活性化します」

音読はできるだけゆっくり、感情を入れて読むといいという。試してみよう。

脳内科医・加藤さんおすすめ!脳に効く怖~い映画

『サイコ』シリーズ(1960年〜)

“サスペンスの巨匠”アルフレッド・ヒッチコック監督の代表作。金銭問題を抱える恋人との関係に悩んでいた主人公が会社の金を盗み…。

『鳥』(1963年)

突然、鳥の大群が人を襲い…。幸せな日常生活が急変する恐怖を描くパニック・サスペンス。

『エクソシスト』シリーズ(1973年~)

少女に憑依した悪魔と神父の戦いを描く。少女が悪魔に変貌していく姿は圧巻。

『ジョーズ』シリーズ(1975年~)

海水浴場に突如出現した巨大な“人喰いザメ”に立ち向う人々の戦いを描く。

『オーメン』シリーズ(1976年~)

6月6日午前6時に死んだわが子の代わりに同日同時刻に生まれた男の子を養子にして育てるが、不可解な事件が起こり始める。

『犬神家の一族』(1976年)

犬神家の一族に残された巨額の財産を巡った凄惨な殺人事件の謎を、名探偵・金田一耕助が解く。

『エイリアン』シリーズ(1979年~)

逃げ場のない宇宙船のなかで襲い来る未知の生命体(エイリアン)と死闘を繰り広げるSFホラー。

『13日の金曜日』シリーズ(1980年~)

若い男女が惨殺されて以来、呪われた場所とされたキャンプ場で、凄惨な事件が次々と起こる。

『シャイニング』(1980年)

冬は閉鎖されるホテルの管理人を任された主人公は、妻と不思議な能力“シャイニング”を持つ息子と共にホテルに住み始めるが…。

『羊たちの沈黙』(1991年)

女性を殺害し皮を剝ぐ猟奇事件が続発。FBIは、元精神科医の殺人鬼ハンニバル・レクター博士の助言を得ようと訓練生クラリスを派遣する。

『バイオハザード』シリーズ(2002年~)

人をゾンビ化させるウイルスを開発した企業とウイルスが効かない主人公との死闘を描く。

『呪怨』シリーズ(劇場版は2003年~)

強い怨念を残したまま死んだ佐伯伽椰子が、その呪いを人々に伝播させていくオムニバスドラマ。

『サイレントヒル』シリーズ(2006年〜)

謎の言葉を残して消えた娘を捜すため、母親はサイレントヒルという街へ足を踏み入れる。

『マザー!』(2017年)

ある夫婦の家に不審な訪問者が次々と訪れる。夫は受け入れるが、妻は困惑する。そんななか事件が…。

『ミッドサマー』(2019年)

家族を失った主人公は、恋人や友達とスウェーデンの奥地で開かれる90年に1度の祝祭に参加する。しかし、儀式が進むにつれ不穏な空気が漂い始める。

※上記作品は動画配信サイト「Netflix」「Amazon Prime Video」「Disney+」「U-NEXT」「Hulu」「Apple TV+」「Google Play ムービー&TV」などで見られるので作品ごとに確認を。

脳内科医・加藤さんおすすめ!脳に効く怖~い映画
脳内科医・加藤さんおすすめ!脳に効く怖~い映画
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《ホラー映画で脳活》ホラー映画愛好家が“最恐作品”を厳選して紹介「ボケないためのばけばけ映画5選」

前出の加藤さんが認知症予防におすすめの怖い映画を紹介してくれたが、さらに通好みの傑作を、見どころとともに、ホラー映画愛好家のちぶ〜さんに紹介してもらった。

「東海道四谷怪談」(1959年)

(C)国際放映

監督は『怪談かさねが渕』(1957年)などを手がけ、“怪談映画の名手”と呼ばれた故・中川信夫さん。お岩の醜く腫れ上がった顔や戸板返し(※)の描写は一見の価値あり。

「悲惨な死を遂げたお岩の怨念が、天井や池など、四方から襲ってくる演出は、『女の恨みは底なし沼』ということを実感させてくれます」(ちぶ〜さん・以下同)。

※戸板の表裏にお岩と小平の死体をそれぞれつけ、戸板を返すことで2役を演じ分ける早替わりの手法。

【あらすじ】

夫・民谷伊右衛門の裏切りによって非業の死を遂げた妻・お岩が、幽霊となって復讐を果たす。鶴屋南北の同名歌舞伎を原作に、中川監督が“人間の業の深さ”を描いた。

「ローズマリーの赤ちゃん」(1968年)

Copyright(c)1968 Paramount Pictures Corporation and William Castle Enterprises,Inc. All Rights Reserved.(c)2023 Paramount Pictures.

「社会的な圧力と夫の欲望に翻弄され、妊娠とともに孤立し、精神不安定に陥るローズマリー。人間が人間を産むということの神秘と不安が交錯し、得も言われぬ恐怖を与えてくれます」。

ラストにローズマリーが見たものは何だったのか、想像力を掻き立てられるエンディングは、脳の活性化にもピッタリ!

【あらすじ】

売れない役者と結婚し、マンハッタンの古いアパートに越してきた主人公ローズマリー。そのアパートは以前から不吉な噂が囁かれていた。ほどなく妊娠した彼女は次第に情緒不安定になり…。

『ローズマリーの赤ちゃん』
『ローズマリーの赤ちゃん』4K Ultra HD+ブルーレイ6589円、Blu-ray2075円、DVD1572円/発売・販売元:ハピネット・メディアマーケティング
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「CURE」(1997年)

イラスト/ちぶ〜
イラスト/ちぶ〜
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幽霊や怪物、異常な殺人鬼は出てこない、ワッと驚くような派手な展開もない。それでも全編通して漂う不穏な雰囲気が「とにかく怖い」と話題となったのが本作だ。

「猟奇殺人事件の捜査を担当した刑事役の役所広司さんが静かに狂気へとのみ込まれていく過程を見ていると、理性の鍵を外すと、誰でも悪魔になれる気がしてきて、何度見ても恐怖を感じます。洗濯機の音が耳から離れなくなるトラウマ級恐怖を植え付けられた作品です」

【あらすじ】

複数の犯人が別々に、無意識のうちに同じ異常な手口を使って殺人に至るという怪事件が続発。捜査を担当する刑事は、元医大生が催眠術を使って一連の事件を引き起こしたことに気づくが…。

「ノロイ」(2005年)

「まるで実際に起こったドキュメンタリーのような撮影技法を使うことで、映画(虚構)と現実の境界を曖昧にし、リアルな恐怖を感じさせてくれます。思わず笑ってしまうような胡散臭いキャラクターがたくさん出てくるのですが、その不気味さ、気持ち悪さがまた、怖さを引き立ててくれます」

【あらすじ】

怪奇実話作家の小林が「呪い」をテーマにしたドキュメンタリーを完成させた直後に失踪。『ノロイ』と題されたその作品には、小林が取材した奇怪な事件や心霊現象などが収められており…。

『ノロイ』DVD 1222円/発売・販売元:ハピネット・メディアマーケティング
『ノロイ』DVD 1222円/発売・販売元:ハピネット・メディアマーケティング
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「輪廻」(2005年)

輪廻転生がテーマ。予想できない展開と緊迫感、驚愕のラストが、脳活にふさわしい。

「映画の中で映画撮影をする"劇中劇"の構成によって、過去と現実が交錯します。死ぬまでどころか、死んでも続く呪い…。現世だけでなく前世の罪まで背負わされる状況が絶望的で、見終えてもまだ終わっていない気がしてなりません。『私の前世は大丈夫か?』と、思わず疑ってしまうような恐怖にまで襲われます」。

【あらすじ】

35年前に起きた無差別殺人事件を題材にした映画作品の製作中、ヒロイン役の女優・杉浦渚は、不思議な少女の幻覚を見るなどの不可解な出来事に悩まされ…。監督は『呪怨』シリーズの清水崇。

『輪廻』 DVD1222円/発売・販売元:ハピネット・メディアマーケティング
『輪廻』 DVD1222円/発売・販売元:ハピネット・メディアマーケティング
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※上記作品は、販売中の各種ソフトや宅配DVDレンタル「TSUTAYA DISCAS」、動画配信サイト「Amazon Prime Video」「U-NEXT」などで見られる。作品ごとに確認を。

◆教えてくれたのはこの人:加藤プラチナクリニック院長・加藤俊徳さん

医師・医学博士。「脳の学校」代表。昭和医科大学客員教授。MRI脳画像診断、脳科学、発達障害、認知症の専門家。著書に『1日1文読むだけで記憶力が上がる!おとなの音読』(きずな出版)、『脳がみるみる元気になる 早口ことば 遅口ことば』(宝島社)など多数。

◆教えてくれたのはこの人:ホラー映画愛好家・ちぶ~さん

年間300本以上映画を鑑賞するホラーライフクリエイター。ブログ「ホラー映画さえあれば!ちぶ~のイラスト付きレビュー」(https://chiboo-horror.com)。Instagram:@chiboo_sun

取材協力/土田由佳

※女性セブン2025年10月9日号

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