《関節痛の放置は寝たきりや認知症リスクも》名医が教えるひざ・腰・肩・股関節の“痛みが消える人”と“悪化する人”の違い「座り方の最適解」「やってはいけない仕事」

年を重ねるとどうしても出てくるひざや腰、肩、股関節などの関節痛。しかし、同じ年齢なのに痛みがなく元気な人がいるのも事実。果たしてその境界線はどこにあるのか――。誰にでも起こる症状だからこそ、誰でも痛みを消すことはできる。年齢のせいにして放っておいたら悪化するだけ。名医が教える33の新常識を紹介する。
痛みが出やすい人と悪化する人がいる理由は「生活習慣の影響が大きい」
都内在住の主婦・Aさん(66才)はつい先日、変形性膝関節症と診断されたと打ち明ける。
「庭の草むしりをしていたらひざの痛みが悪化して、整形外科でレントゲンを撮って診断されました。通院して、痛みをやわらげながら治療をすることになっています。5年ほど前から何となくひざに痛みや違和感があったものの、自分ではまだ元気で動けると思っていたからショックで…」
広島市立広島市民病院整形外科部長の出家正隆さんは、ひざの痛みは60代から悪化すると話す。
「なかでも変形性膝関節症は女性に多い。加齢や肥満によって関節の軟骨がすり減って変形し、関節の痛みや腫れを引き起こす病気です。軟骨が減ると骨同士がぶつかって小さく損傷する『微小骨折』も起きて、次第に悪化します。負荷のかかる動作で急に痛み出すこともあり、早めに治療を受けることが大事です」

変形性膝関節症に限らず、年齢を重ねるとひざに痛みを感じる人は増えていく。主な原因は、関節の内側と外側に大別されるという。
「加齢で増えるのは関節内の痛みで、じん帯や軟骨、半月板などの損傷が原因です。
一方、ひざのお皿の前あたりや、ひざの内側より下が痛い場合は関節の外側にある腱の部分で炎症が起きていることが多い。使いすぎで起きるもので、動かさないようにすれば痛みはおさまります」(出家さん)
慢性的な痛みと違い、急性の痛みは骨が壊死していることがあると話すのは、あんしんクリニック川西院長の新田真吾さんだ。
「変形性関節症は少しずつ痛みが強くなる慢性痛なのに対して、骨が壊死すると急激な痛みを感じます。動かず安静にしているときにも痛むのが特徴です。
なかでもひざ関節の骨部分の血流が悪くなり、一部が壊死してしまう『大腿骨内顆骨壊死』は60代以降の女性に多い」
こうした痛みを単なる加齢と放置すると、どんなことが起こるのか。帝京大学医学部附属病院整形外科教授の中川匠さんが言う。
「ひざに限らず、腰や肩、股関節など関節の痛みは基本的に老化が原因。高齢になると手指の関節が曲がって痛みが生じることもある。だからといってあきらめると、筋力が落ちて寝たきりのリスクが高まります」

新田さんが続ける。
「寝たきりになると、糖尿病や心臓病などの持病が悪化する可能性も高くなります。心肺機能が低下して、人工関節手術を受けたくても受けることができなくなった人もいます」
出家さんは、認知症のリスクも高まると言う。
「痛みで歩けなくなれば、外出機会が減るので気分が落ち込みやすく、精神的ダメージを受けやすい。外部の刺激が減って認知機能が低下しやすくなると考えられます。変形性膝関節症の治療では、痛みで1日10分以上散歩できなくなれば、手術が検討されます」
年を重ねればある程度の不調は仕方がないとはいえ、痛みが出やすい人と悪化する人がいる。その理由を中川さんは「生活習慣の影響が大きい」と指摘する。
「診察時にレントゲンで関節の状態を調べますが、同じように病状が進んでいても積極的に体を動かしている人ほど痛みが少ないことが多い。関節は定期的に使い続けるほど状態がよくなるので、痛みがとれやすいと考えられます」
日常生活のちょっとした動作を変えるだけで、痛みが消えたり、悪化するという。それでは、どこに境界線があるのか見ていこう。
《生活習慣・仕事》生活スタイルは和式よりも洋式
日常生活で上手に関節を動かすには、歩くことが何より重要。大事なのはエスカレーターやエレベーターをできるだけ使わないこと。
「1~2階程度なら階段を使い、ちょっとした距離なら電車や車を使わずに歩く習慣をつけた方がいいでしょう」(中川さん)
歩幅も“痛みの境界線”になると出家さんは言う。
「年をとると歩幅が狭くなりがちですが、大股で歩くとひざがしっかり曲がって伸びるので痛みがとれやすい。50cm幅くらいの横断歩道の白線を、踏まずに歩くイメージで歩くといいでしょう」
靴選びでも変わる。
「足に合った靴を選ばないと足腰に悪影響がある。ひざにやさしいのは、クッション性のある靴です。かかとから着地して、つま先から蹴り上げやすい靴を選んでください」(中川さん)
生活スタイルは和式よりも洋式の方がいい。
「ちゃぶ台で食事をして布団で寝る床中心の生活よりも、椅子とテーブル、ベッドの生活の方がひざへの負担は軽減されます。あぐらや正座はひざに負担が大きい座り方ですし、ひざ立ちするとひざに体重がダイレクトにかかってしまう。床の拭き掃除などでひざ立ちするときは、サポーターをつけて衝撃をやわらげてください」(出家さん)
アスリートゴリラ鍼灸接骨院院長で柔道整復師の高林孝光さんも言う。
「正座やあぐらはもちろん、女の子座りなどは脚の形が曲がってO脚になりやすい。O脚になると骨盤が後傾してひざや腰の痛みにもつながります。床に座るときは、脚を伸ばした長座がベストです」
シャワー派かお風呂派かでいえば、痛みがとれやすいのは後者だ。
「血行をよくする習慣はポイントが高い。血流が改善されると、炎症を引き起こすサイトカインが流れていきやすく、体の修復を促して炎症作用を抑える物質も運ばれる。逆に血の巡りが悪いと痛くなりやすい。
浮力がかかる湯船の中では、関節の曲げ伸ばしや正座を行ってほしい。正座が悪いのはひざを曲げることではなく、上に体重がかかって負荷が大きいからです」(出家さん)
逆に「痛みが悪化する人」の特徴は、体を動かさないことだ。
「仕事の行き帰りしか体を動かさず、休日は家でじっとしているような人は関節の痛みが出るリスクが高くなります」(中川さん)
座りっぱなしやデスクワークの人にも同じことが言える。高林さんが言う。
「座る時間が長いと大殿筋やハムストリングス(太ももの裏側)が衰えて、ひざが伸びにくくなります。立ち仕事の人は姿勢保持筋が疲れやすく、骨盤が後傾して椎間関節がぶつかり、腰痛の原因になります」

かといって、動かしすぎると痛みのリスクが増えることもある。
「林業や農業従事者、プロのスポーツ選手などは若い頃から関節に負荷をかけているので、中高年になると痛みが出てくる傾向があります」(出家さん)
洗濯中にぎっくり腰になったと話すのは、千葉県在住の会社員・Bさん(55才)だ。
「洗濯ものを入れたかごをベランダまで運んで、ちょっと右を向いて足元に置いた瞬間、電流のような痛みが走って動けなくなったんです。夫と子供にはバカにされるし、せっかくのお盆休みなのに外出できずに散々でした」
高林さんは、Bさんのように横を向くときに腰だけひねるのは避けるべきだと指摘する。
「洗濯かごや買い物かごのように重いものを持って、足を動かさずに腰だけひねって横を向く人は、椎間関節を痛めやすい。足元から体を動かして横を向くようにしましょう」
重い荷物があるときは、トートバッグよりもリュックがいい。
「直接痛みに影響するわけではありませんが、片側だけに荷重がかかると体が傾いて歩行時のバランスが崩れ、ひざや腰に負荷がかかる。片側だけで持つのは避けましょう」(出家さん)