
”まるる”がめっちゃいい!
平成生まれの歌舞伎役者、中村莟玉。愛称の「まるる、まるちゃん」は9才のデビュー時に名乗った「中村梅丸」からきている。
「とある先輩がそう呼び始めてブログに書いたら、お客様たちの間で“めっちゃいい!”とあっという間に広まっていました(笑)。歌舞伎ファンのコミュニティは密で、浸透率がすごいんです。愛称は『高砂屋』などに通じる、現代版の屋号だと思っています。近しく感じていただけるし、推し文化として呼び名を大切にしたいなと。莟玉に改名しても、気軽に呼び続けていただきたいです」(以下、莟玉)
幼少期からの歌舞伎好きが高じて一般家庭から入門し、四代目中村梅玉の部屋子として芸を磨いてきた莟玉。部屋子とは、師匠となる歌舞伎俳優の下で子役時代から行儀作法や芸を学ぶ立場のこと。才があれば門戸は開かれているが、その一方で、映画『国宝』では歌舞伎役者の家系に生まれた“御曹司”との格差も描かれていた。
「部屋子の僕らは親に付き添われて電車で歌舞伎座へ通いますが、かっこいい車がバッと入ってきたなと思ったら、自分と同じ歳くらいの“坊っちゃん”がタタタッと出てきて、ランドセルをお弟子さんに渡して入っていく。その光景に“うわぁ、やっぱり御曹司だなぁ”とは思いました。でも、そのくらい。母は『あなたは歌舞伎の家系に生まれたわけではないのだから、贅沢を言ってはいけません』と甘やかさなかったし、『国宝』を観ても、自分は部屋子として本当に恵まれていたと感じました」
そう語り、自分が置かれた環境に感謝した。7才で梅玉と出会って部屋子となり、23才となった2019年には養子に迎えられた。その折に改名した莟玉の名は、昭和の歌舞伎界を代表する名女方の養祖父・六代目中村歌右衛門の自主公演『莟会』より一字、養父の梅玉より一字、もらい受けたもの。養祖父、養父ともに人間国宝の称号を得ている。
「梅玉には男の子の実子がいなかったことで、師が養父となったことがひとつ。そして一門のお弟子さんたちの存在です。兄弟子が下の弟子を手伝う慣例はないのですが、楽屋のしきたりから舞台に出る支度までこまやかに面倒を見てくれて、子役時代は化粧も毎日してくれました。皆さん、自分のお役をやりながら、僕のことを育ててくれたんです。
そうやって“疑似坊っちゃん体験”をさせてもらうことで、舞台上で坊っちゃんたちと並んで芝居をしていても、浮かずに溶け込める。すべて養父が計らっていたのだと思います。ここからは、僕が皆さんにその恩を返していかないと」

人の縁に恵まれたとして、若手の花形が集う『新春浅草歌舞伎』にも触れた。
「出演する役者は世代ごとにブロック分けされるのですが、僕がいちばん年下の回が何年も続いたんです。坊っちゃんたちは皆さん先輩なので、序列についてストレスに感じることはなくて。なにより、先輩たちも“こいつは自分たちと同じラインでやっていくつもりの役者なんだな”と受け入れてくださった。“なんで、部屋子が僕らと同じような役をしているの?”と言われてもおかしくない立場でしたが、とても仲良くしてくれました」
好きを突き詰めて大河ドラマに初出演

11月2日の放送回から、NHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』に登場。大河は初出演となる。役どころは片岡愛之助演じる鱗形屋孫兵衛の息子役。『べらぼう』では、『新春浅草歌舞伎』で共演していた先輩の中村隼人も長谷川平蔵宣以役で活躍している。
「おふたりとは同じ場面がなく現場で会えませんでしたが、蔦重役の横浜流星くんとはメイク室で会えました。隼人さんとの繋がりで、プライベートで一度お会いしていたので“お久しぶりです”とおしゃべりしましたよ。
大河ドラマは歌舞伎役者をテレビで観られる貴重な機会として、今の市川團十郎のお兄さんが新之助のお名前時代に出演された『武蔵MUSASHI』(2003年)も全話観ていました。歌舞伎ファンだった子供時代にかじりついていた大河ドラマに、こうして歌舞伎役者になって出られるなんて……あの時の自分が知ったらびっくりするだろうなぁと、感慨深いです」

“好き”を突き詰めて夢を叶えた莟玉。Xでは最近の“好き”としてTWICEの日本公演に参戦したことを明かしている。ちなみに推しメンは?
「箱推しです! と言いつつ……強いて挙げればサナかな(笑)。僕らと同世代のグループでずっと活躍されている。入れ替わりが激しいイメージのある韓国で10年続けられる要因はなんだろうと、刺激をもらっています」
いま、会ってみたい人を訊いた。
「TWICEさんと会えたらそりゃ嬉しいですが、ぜひともお会いしてお話ししたいのは黒柳徹子さん! なんたって、パンダ協会の会長ですから」
歌舞伎愛に迫るほど、パンダ好きとしても知られる莟玉。
「僕は歌舞伎座の近くにいるよりも上野動物園にいるほうが“身バレ”します(笑)。『莟玉さんですよね』と確信を持って声をかけられることが多いです。最近は中国のファンの方からもパンダグッズをいただくようになって。パンダのコミュニティも浸透率がすごいんですよ」
歌舞伎にパンダ。推しを熱く語る瞳は終始、キラキラしていた。
(全2回の2回)
取材・文/渡部美也