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《お金には“魔力”がある》宗教学者・作家の島田裕巳さんが考える理想の最期のためのお金の使い方「あるときにある分だけ使って人生を充実させていきたい」

宗教学者で作家の島田裕已さん
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 多くの親は「子供に迷惑をかけたくない」との思いから、できるだけたくさんの財産を残そうと考える。でも「そんな必要はない」と指摘するのが、宗教学者で作家の島田裕已さん(71才)だ。

「昔の日本は農家や商家が親の職業や地位などを子に受け継ぐ“家社会”でしたが、戦後の日本はサラリーマン家庭が増えて、相続はたんなる金銭の分捕り合戦になりました。残された子は必死に自分の取り分を多くしようとするので、遺産をめぐって多くのケースで揉めます。

 争いが起きないよう親が終活して遺産の分配法や割合を定めても、それがかえって裏目に出て分捕り合戦になり、それに加わる人たちは血眼になって奪い合う。昔と違って民主的な時代になって、みんながそれぞれの立場で自己主張するから、どうしてもトラブルになりやすい」(島田さん・以下同)

 遺産が少なければ相続争いは起こらないと考えるのも早計だ。2024年の司法統計によると、遺産分割事件7903件のうち遺産額が5000万円以下の事案が全体の8割を占める。

「お金には“魔力”があり、遺産が少ないほどよく揉めます。少額の遺産は子供を幸せにではなく不幸にするので、むしろ財産など1円も残さない方が“子供に迷惑をかけたくない”という親の思いを実現できます」

 世の中には「うちには貯金がなく遺産は自宅だけ」という家庭も多いが、不動産こそ注意を要する。

「相続人が複数いると均等に分けないといけないので不動産は争いの種になる。均等分割のために実家を売却せざるを得ないケースもあるし、古い家だと大規模なリフォームが必要になったり、空き家になったりするリスクもあります」

島田さんの趣味はオーディオ。徐々に集めて全部で1000万円使ったという(提供/島田さん)
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「死ぬまでにお金を使い切ろう」と頭では考えても、誰しも高齢になってお金や不動産などを持っていないと不安に襲われるだろう。だが人生経験を積んだ島田さんは、「執着」を捨てることも大切だと訴える。

「私は子供の頃に父の会社がつぶれて実家を手放さざるを得ず、高校時代は4畳の部屋にひとりで下宿していました。大学の教員になってオウム真理教事件で教団を擁護したと批判されて、大学を辞めざるを得なくなった。そのように家や職を失う経験があるとカネやモノへの執着がなくなり、子世代に何かを残そうという気はあまり起きません。実際に不動産を持っていないけれど、持たなくてよかったなと思っています」

 島田さん自身、これからもお金はあるときにある分だけ使っていくという。

「幸いにして著書がベストセラーになる時期があり、そのときは海外旅行に行ったり趣味のオーディオを少しずつ買い揃えたりしました。仕事柄、蔵書は結構あるけど倉庫に預けてあり、売ってしまうことも多い。

 当たり前ですがお金は生きている間しか使えず、死んだら使えません。だからこそ、これから先も人生を充実させるためにお金を使っていこうと思います」

 自分のために使うことが大切とわかっていても、「できれば子供に財産を残してあげたい」と望む親も多いはずだ。そんな人たちに島田さんはこう助言する。

「自分の財産を子供に残すことより、子供が自立して生きられるよう育てることに重点を置くべきです。子育て中にいろんな経験をさせることに注力し、育児期間が終わったら子供にはお金をかけなくていい。そのうえで老後資金を試算して余りそうなお金があれば、自分や夫婦のためにお金を使って人生を楽しむことが大事ではないでしょうか」

【プロフィール】
島田裕巳(しまだ・ひろみ)/東京大学大学院人文科学研究課博士課程修了。日本女子大学教授などを歴任。主な著書に『創価学会』『日本の10大新宗教』など多数あり、『葬式は、要らない』は30万部のベストセラーに。

女性セブン2025111320日号

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