
入浴には疲労回復や免疫機能の向上などさまざまな効果があるが、「入るのが面倒…」という日もあるだろう。簡単なのに入浴と同じ効果が期待できる「手浴」や、寒い日に効率よく体を温め、全身のデトックスも叶う究極の入浴法を始めよう。
風邪のときは40℃に20分浴+10分の保温
入浴は、就寝1時間前までに、40℃前後の湯船に15分程度浸かるのが理想などといわれる。だが、眠りとお風呂の専門家の小林麻利子さんは、「50代以上の女性には不充分」と言う。
「基礎代謝が高い20代前半の男性にはいいのですが、若い頃に比べて代謝が落ちている50代以上の女性は、もう少し長い時間、湯船に浸かる必要があります。私が行った調査では、40℃のお湯に18〜20分程度浸かることで深部体温が上がることがわかりました。特に冬は血管が細くなっていて、温まるまでに時間がかかるので、肩までお湯に浸かる全身浴で18〜20分くらいは必要です」(小林さん・以下同)
さらに、体を冷やさないためには、入浴後から就寝までの時間を短くしたい。
「入浴後は1時間以内に布団に入ること。人間は深部体温が下がることで眠気が訪れます。理想は汗がひいて、手足がポカポカの状態。お風呂で温まった後、布団の中で急激に体温が下がれば、そのまま入眠できます」
体調がすぐれないときには「少し熱めの41℃のお湯に15分、 または40℃のお湯に20分浸かり、入浴後は暖かい部屋でパジャマを着て10分ほど熱が逃げないようにすると、深部体温が上がって症状が早く回復することもあります」と小林さんは言う。
シャワーや短時間湯船に浸かったときはすぐに布団に入る
また、毎日浸かるのが理想だが、疲れすぎなどで浴槽にお湯を張る気力すらないときは、シャワーの活用がおすすめだ。
「体が冷えているとうまく放熱されないため深部体温が低下しにくく、眠れなくなります。そんなときはシャワーを10分ほど浴びて、サッと体を温めること。浴びた直後から体温が下がり始めて眠くなりますが、脱衣所が寒いと、血管が収縮する可能性があります。脱衣所は暖めてから入りましょう」
すぐに布団に入れず、時間が経つと眠気が飛んでしまうので注意したい。
「体が冷えてしまったら、再度、手や足を温める『部分浴』を行えば効率よく体を温められます。特に『手浴』は熱があるときなど、入浴できないときに活用するのもおすすめです」
短時間でも健康効果が高く、日中も行える手浴と足浴の方法から見ていこう。
手浴&足浴のやり方
手足が冷たいと交感神経が刺激され、末端部分の血管が収縮し、血圧の上昇や睡眠の質の低下を引き起こす。冷えを感じたら、手浴や足浴でリラックスしよう。
【手浴】就寝前に行えば快眠効果が

小林さんは手浴を、「入浴の中で、もっとも手軽にできる方法」とすすめる。
「体の熱は手足から放熱するため、手足が冷えると血管が収縮し、全身の血流が悪くなります。また、手足が冷たいと交感神経が優位になるため体の緊張状態が続き、肩こりなどの原因に。手が冷たい場合は手浴で副交感神経を刺激しましょう」(小林さん・以下同)
やり方は、洗面器や洗面台の流しに40〜41℃のお湯を張り、手首まで浸けるだけ。アロマをプラスするとさらに効果を高められる。
・適温40℃に10〜15分程度浸けるのが目安
・洗面器で簡単にできる
・アロマを加える
「香りのいいバスオイルなどを入れるのも◎。脳に香りがダイレクトに伝わり、リラックス効果が倍増します。好みの香りで構いません。ラベンダーには自律神経を整え、血圧を低下させる作用が期待できます」
【足浴】入浴時間を短縮できる

心臓から遠い足は冷えやすいため、眠る前に特に温めておきたい部位だ。
「お風呂に入れないときでも、足を温めれば眠りの質を保てます。41℃のやや熱めのお湯に10〜15分程度足を浸けるだけで体全体が温まり、湯船に浸かる時間を短縮することができます」
・足浴をしながら洗髪
・座ったまま洗面器に足を浸ける
・目安は41℃のお湯に10〜15分程度
さらに足浴にはこんな裏ワザもあるという。
「お湯をためるのが面倒な日でも、洗面器などにお湯をはり、シャワーをしなが、足を浸ければ体を温めながら全身がリラックスできます。ただ、シャワーの水が体などに跳ね返って、洗面器内の水温が低下しやすくなるため、熱めのお湯に入りましょう」
足湯の際は、洗面器などにくるぶしまで足を浸ければOK。眠る前のほか、冷えを感じたときに行おう。
全身浴のやり方
体の調子を整えるためには全身浴がベスト。冬場は暖房を入れるなど浴室の環境を整え、効果の高い入浴剤を選び、入る順番を考慮すれば、さらに効果がアップする。
寒い時期は、浴室が寒いと、室温との寒暖差でヒートショックを起こしやすく、最悪は死に至ることもある。
「入浴前に浴室温度を20℃以上に保てるように暖房をつけたり、熱めのシャワーで浴室内をミストサウナ状態にするなど、暖めておきましょう」(小林さん・以下同)
体を効率的に温めるために、次の順序で入浴するのもおすすめだ。
「まず血流をよくするためにコップ1杯の水を飲んでから、浴室に入ります。湯船に入る前に、洗髪をすることで頭皮の血管が広がり、体全体の血流がよくなって温め効果も高まります。
その後に湯船に浸かれば、血圧の急変動が起こりづらくなります。血圧が安定していれば、リラックスしやすくなります。
次に、湯船には18〜20分ほど浸かります。
お湯に浸かるだけで汚れの半分程度は落ちるといわれているので、全身をゴシゴシ洗わなくてもOK。洗いすぎると美肌に必要な皮脂や常在菌まで洗い流してしまいます。お湯から出てよく泡立てた石けんで背中、脇、デコルテ、足裏をささっと洗ったら、体を拭いて保湿を。お風呂上がりにはコップ1杯の常温の水を飲んで水分を補給しましょう」
入浴後は、体が冷え切らないうちに、布団に入るのがベストだ。
乾いたタオルを首の後ろに当てる

頭部が安定するのでお湯の浮力が利用しやすくなり、首や肩の筋肉の緊張が和らぐ。
音楽を活用してリラックス

入浴中に波の音や川のせせらぎなどヒーリング音楽を聴くとストレスが軽減。
「あ〜」と声を出す

湯船に浸かりながら声を出すと副交感神経が刺激され、血圧の上昇を抑える。
入浴後に体を洗う
石けんなどで洗うのは、脇、デコルテ、背中、足裏の4か所。デリケートゾーンはお湯で流す程度に。
入浴剤の選び方
入浴剤の効果を小林さんが説明する。
「お風呂に入浴剤を入れると、肌あたりのやわらかいお湯になります。パッケージに書かれている使用量を守るのも大切です。追いだきをする場合、給湯器を傷める原因となることがあるので、ふだんから配管はよく掃除しておきましょう」。
炭酸ガス系:末梢神経を拡張させ、血液循環を促進させる。保温効果も高い。
酵素系:パパインなどの酵素が皮膚表面の角質の汚れを除去する。
スキンケア系:ホホバオイルやスクワラン、セラミドが配合され、肌に潤いを与える。
無機塩類系:塩には保温効果がある。バス専用のソルトのほか、精製されていない塩やミネラル分が豊富な岩塩がおすすめ。
重曹:重曹=炭酸水素ナトリウムは、入浴剤に多く使われている。浴槽の掃除にも使える。
◆教えてくれたのは:眠りとお風呂の専門家・小林麻利子さん
睡眠個人指導の第一人者。著書に『「わたし」と向き合う1日10分のお風呂習慣 小林式 マインドフルネス入浴法』(エムディエヌコーポレーション)ほか多数。
取材・文/廉屋友美乃
※女性セブン2025年12月18日号