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冬の寒い日はいつも以上に、お風呂の温かさが身にしみる。体を温めるだけでなく、自律神経を整えるなどの健康効果もさまざまある入浴だが、気づかぬうちにかえって体に負担をかけ、寿命を縮めているかもしれない。
日本人が長寿であるゆえんは毎日のお風呂習慣?
年を重ねるにつれ自覚する老化現象や不調といえば、関節の痛み、睡眠の質の低下、免疫力や気力の低下などがあげられるだろう。それらを改善するための手段として推奨されるのが、「湯船につかる入浴」だ。近年ではさまざまな調査から、認知症予防効果も期待されると話すのは、東京都市大学教授で温泉療法専門医の早坂信哉さんだ。
「日本人が長寿であるゆえんは諸説ありますが、そのひとつにお風呂があることがさまざまな研究でわかってきました。多くの自宅に浴槽があって、毎日お風呂に入る習慣があるのは日本人だけで、体の健康はもちろん心の安定にも寄与していると考えられる。
高齢者約3200人を対象とした6年間の追跡調査で、冬に毎日浴槽入浴している人は、そうでない人に比べて、24%ほどうつの発症率が低いという結果が出たほか、20才以上の約3000人を対象に行った調査では、毎日浴槽につかって入浴する人はそうでない人と比べて幸福度が高いという結果があります。これによって、認知症予防にも効果が期待できるのではないかと研究を進めているところです」


私たちを健康長寿へと導いてくれる入浴だが、間違った方法ではかえって逆効果となる。
お湯の温度は「40℃」かけ湯は「10回」
「この時期は、“低い温度だと体が温まらない”と、お湯の温度を41〜42℃に設定するかたがいますが、それだと、交感神経が優位になってしまい体が興奮して、リラックス効果を得られなくなってしまいます。
お風呂の最大のメリットは血流の流れをよくすることなので、40℃のお湯にトータル10分つかるのが理想です」(早坂さん)
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ナビタスクリニック川崎院長の谷本哲也さんは、ヒートショックリスクの観点から温度への注意を促す。
「急に熱いお風呂に入ると、血圧が急激に上がってヒートショックを起こす危険があります。シニアのかたや高血圧のかたは、熱すぎるお湯は避けましょう」
入浴時に汗をかいて代謝をよくしようと、半身浴や長風呂を習慣にしている人もいるかもしれない。しかし、前述の通り入浴時間はトータルで10分がいい。
「延べ時間なので、5分つかって、1回湯船から出て、髪や体を洗ってまた5分つかってもいい。10分ほどで体温は約0.5~1℃上がり、血液の流れをよくするには充分です。
お風呂には体を温める温熱作用と、血液やリンパの流れをよくする静水圧作用、それから、筋肉を休めてリラックス効果を得る浮力作用があります。半身浴でお湯を半分にしてしまうと、効果も半分になる。長風呂は皮膚の乾燥にもつながりますし、特にこの時期は温まるどころか冷えてしまうこともあります」(早坂さん・以下同)
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早坂さんは、お風呂で汗をかいてもダイエット効果はないと否定する。サウナでかく汗も一緒だ。
「お風呂に長く入るとたしかに汗をかきますが、運動による発汗とは仕組みが異なり、私はこれを“受け身の汗”と呼んでいます。運動では、体を動かして脂肪が燃焼し体温が上がって汗をかく一方、お風呂の場合はお湯の熱で体温が上がるだけで、脂肪が燃焼しているわけではない。同じ汗でも、身体活動の強さは運動の半分以下で、お風呂で汗をかいたからやせるとはいえません」
自宅での入浴では湯船に入る前に、かけ湯をする習慣がない人は多い。体や髪を洗い流してそのまま、かけ湯をしたとしても2~3回では不足している。
「かけ湯をきちんとする人は案外少ないのですが、血圧の急上昇を防ぐ目的もあるので、手足の末端から体の中心まで念入りにかけてほしい。回数だと10回くらいで、多めがいいです」
脱衣所は20℃を保つ
血圧の急上昇、急低下からなるヒートショックを予防するには、浴室や脱衣所の温度にも気を配りたい。脱衣所は暖めても、浴室はお湯が張ってあるから何もしない、というのは危険。
「脱衣所はできれば20℃以上を保つと安心です。浴室は、服を脱ぐ前に温かいシャワーをかけ流したり、湯船の蓋をあけてお湯張りをするなどして暖めることも忘れずに」
お風呂に入るなら、一番風呂が清潔だと感じるかもしれないが、皮膚を荒らしてしまう可能性がある。
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「皮膚が丈夫なかたなら問題ありませんが、かゆみがある、乾燥してかさついているなどという場合には、避けた方がいい。一番風呂には塩素が入っていることがあるので肌を刺激してしまいます。お湯の中にミネラルなどの不純物も入っていないので、皮膚がピリピリすることもある。2番目以降は、前の人が入ったことで分泌物が溶け出し塩素量も減って、お湯がマイルドになります」