健康・医療

《医師が答える人工股関節置換術のQ&A》入院期間や費用、病院選びのコツは?股関節を長持ちさせるトレーニングも紹介

年間の手術件数は約8万件。この10年で約1.6倍に増えている人工股関節置換術。「変形性股関節症」を発症し、歩行がつらくなってきた人にとって“救い”となる手術だが、「痛い」「怖い」というイメージも。年間260件超の手術を行う人工股関節置換術専門医の狩谷哲さんが、疑問に回答してくれた。体験談やリハビリにも活用されている股関節トレーニングを紹介する。

階段を降りるシニア女性
人工股関節手術に関する疑問に専門医が回答(写真/Photo AC)
写真5枚

人工股関節置換術Q&Aあれこれ

「年齢制限は?」「費用は?」等々、手術にまつわる疑問を狩谷さんに聞きました。
※手術の内容等は各医療機関により異なります。

入院期間は?

一般的には、リハビリを含めて1か月ほどですが、専門のクリニックだと10〜14日と短めになります。その理由は専門知識が豊富で、さまざまな症例にも対応でき、個人に合わせた手術やリハビリプランを効率よく立てることができるからです。

費用は?

すべて保険診療での治療で、片側の手術の場合、入院治療費は3割負担で55万円前後、両側同時で100万円前後です。高額療養費の申請手続きをすると、保険診療適用分に関しては10万〜26万円です。

手術時間は?

施設により異なりますが、私の場合は平均35〜45分。肥満の度合いや股関節の状態でもっとかかることもあります。

手術できる年齢制限はありますか?

患者さんの体力・筋力があれば、年齢制限はありません。たとえば、私が執刀した最高年齢は90才です。

術後何日くらいで歩け、完治しますか?

私のクリニックでは翌日から歩行のリハビリを始め、数日後には杖を使って歩けるようになります。退院後もリハビリを続け、3か月くらいで問題なく日常生活を送れる人が多く、1か月以内に職場復帰される人もいます。

術後の痛みはどのくらい続きますか?

傷の痛みは数日で取れますが、筋肉痛や骨からの内出血による腫れが1か月くらい続きます。この腫れと筋肉痛は危険なものではなく、リハビリを続けるうちになくなるので心配はいりません。

病院を選ぶコツは?

手術件数(目安は100件以上)や、専門クリニックであることは安心材料のひとつになると思います。手術のリスクを説明し、患者さんに応じた指導をきめ細かくしてくれる医療機関がおすすめですが、実際に手術を受けた人に話を聞くことがもっとも有用です。

体験者の声

「人工関節ドットコム」などのホームページでも、人工関節の手術を受けた患者の体験談を読むことができる。

もっと早く手術を決断すればよかった・Sさん(手術時70才)

子供の頃から右側の股関節が不安定で、50才頃に右足が短くなり、60代で杖なしでは歩けなくなりました。

それでも私は「手術はいや」と頑なに病院には行きませんでした。それを見た知人から「私は治療でよくなった」と言われ、69才で治療と手術を決意。あんなに怖かった手術ですが、術後の痛みはまったくありませんでした。

1か月は外出せず筋トレのリハビリを続け、室内移動も杖を使って注意深く過ごしたせいか、調子は良好です。筋力のあるうちに決断していれば回復も早く、できることが増えただろうと思うことも。症状が進むと改善しないので、60代までに治療を終えることをおすすめしたいですね。

リハビリで大きな差が出る・Wさん(手術時36才)

出産後、36才で左右の股関節が壊死する病気を発症。初期段階で保存療法を選択しましたが、痛みは大きくなるばかり。このままでは育児や仕事、家事もできなくなる‥‥と、まずは左足の人工股関節置換術を決心しました。手術前は緊張しましたが麻酔ですぐに意識がなくなり、気がついたら術後のベッドの上でした。

術後の痛みはがまんできる程度でしたが、リハビリが始まると初めは歩くとグラグラして、足が想像以上に重く感じられました。

しかし地道にリハビリを続けるうちに歩行も安定。3か月後には右足の股関節も手術を行い、半年後には職場復帰を果たして家族と自由に出かけられるように。

リハビリを頑張ったので、手術したことを気づかれないほど自然な歩き方に戻れました。リハビリをきちんとやるかどうかで、大きな差が出る気がします。

やりたいことをがまんしない、それが手術の決め手に・Sさん(手術時67才)

60代で変形性股関節症を発症。趣味の登山とスキーを続けたかったのですが、軟骨は自然再生することがないと聞き、保存療法をあきらめて手術を決意。筋力が落ちる前だったので、リハビリも順調でした。

術後1か月から、股関節への負担が少ない水泳を始め、術後1年で里山歩きを開始。本格的な登山はまだ控えていますが、スキーは再開しています。やりたいことをがまんしない性格が、手術を決断したカギだと思います。

術前・術後のリハビリにも活用される「股関節まわりの筋力トレーニング」

股関節を長持ちさせるには、股関節まわりの筋肉を維持することがいちばんの近道。手術経験者も行った狩谷さんがすすめるトレーニングで予防しよう。

【1】股関節伸筋群トレーニング

股関節の曲げ伸ばしにかかわる大臀筋(お尻の筋肉)や、太もも裏の筋肉群を鍛える。

仰向けで腰をあげている女性のイラスト
股関節伸筋群トレーニングのやり方(イラスト/うつみちはる)
写真5枚

マットやベッドなどの上に仰向けに寝て両ひざを立てる。お尻に力を入れたまま、お尻を上げて5秒キープし、ゆっくりと元の位置に戻る。これを10〜15回繰り返す。

「呼吸を止めないこと。お尻を上げるときは腰を反らさないようにしましょう」(狩谷さん・以下同)

【2】股関節外転筋群トレーニング

足を開いたり、骨盤を安定させる際に働く中臀筋(お尻外側の筋肉)を鍛える。

横向きに寝そべり、片足を上げる女性のイラスト
股関節外転筋群トレーニングのやり方(イラスト/うつみちはる)
写真5枚

マットやベッドの上に横向きに寝て、上側の足を上げる。少しだけ後ろに反らすイメージで5秒キープし、ゆっくりと元の位置に戻る。これを10〜15回繰り返し、反対側の足も同様に行う。

「下側のひざを少し曲げると体勢が安定します」

【3】ひざ関節屈筋群トレーニング

ひざの曲げ伸ばしにかかわる太もも裏の筋肉群を鍛える。

うつ伏せに寝そべり、片足を上げる女性のイラスト
ひざ関節屈筋群トレーニングのやり方(イラスト/うつみちはる)
写真5枚

足を肩幅より少し広げて立ち、手は腰に置く。背中・腰・ひざをまっすぐに伸ばした状態で、腰だけを左右に動かす。骨盤から太ももの外側に張りを感じたら、その方向で5秒キープ。10〜15回繰り返し、反対側の腰も同様に行う。

「反動をつけて腰を振らないよう、ゆっくりと行いましょう」

【4】股関節&骨盤ストレッチ

硬くなった股関節と骨盤まわりの筋肉群をほぐす。

腰に手を当て、腰を左右に動かす女性のイラスト
股関節&骨盤ストレッチのやり方(イラスト/うつみちはる)
写真5枚

マットやベッドの上にうつぶせに寝て、頭は両腕に乗せる。片方のひざをゆっくりと曲げ伸ばしする。これを10〜15回繰り返し、反対側の足も同様に行う。

「うつぶせで腰痛がひどくなるときは、行わないようにしましょう」

◆教えてくれたのは:人工股関節置換術専門医・狩谷 哲さん

東京ヒップジョイントクリニック院長。全国から患者が訪れ、これまで執刀した手術件数は約3000件。著書に『1時間で股関節痛が嘘のように消える 人生が変わる股関節手術』(幻冬舎)がある。https://www.tokyo-hip-joint.clinic/

取材・文/佐藤有栄

※女性セブン2025年12月25日・2026年1月1日号