健康・医療

《いつまでも自力で歩ける体の要は“股関節”》1日1分トレーニング&股関節のズレを防ぐ習慣を医師らが解説

人体模型の骨盤
骨折、転倒、関節疾患など、下半身の不調を感じている人は、まず股関節から(写真/PIXTA)
写真14枚

歩く、立つなどの動作に欠かせない股関節。加齢や姿勢の悪さ、間違った生活習慣などで負担がかかると、やがて立てなくなるなど歩行困難に。だからこそ、股関節まわりの筋肉を鍛え、位置を正せば一生歩ける体になれる!

股関節の位置のズレがあらゆる不具合を招く

股関節は体を動かす上で最も重要な関節だが、「それゆえ股関節には負担がかかりやすい」と整形外科医の宇都宮啓さんは言う。

「両足で立っているだけで股関節には体重の30〜40%、普通に歩くだけでも体重の3〜4倍の負担がかかるとされています。

特に肥満の場合は股関節に大きな負担がかかり、猫背など誤った姿勢でいると股関節が正しく機能できません。すると股関節の軟骨がすり減り、体がうまく支えられなくなって痛みが出たり、歩行困難や転倒リスクが増加。起き上がれなくなるなどの症状も現れます。これらを防ぐためには股関節まわりの筋肉にスイッチを入れ、寛骨臼(かんこつきゅう )というくぼみに股関節が正しくはまった状態にして、スムーズに動かせるようにすることが必要です」

股関節まわりの筋肉が鍛えられるとさまざまなメリットが期待できる。整体師の南雅子さんが説明する。

「股関節を正しい位置にキープできるようになると、転びにくくバランスのとれた姿勢になります。さらに、代謝がよくなり、血行不良も改善されます。すると疲れにくくなり、よく眠れて、ダイエット効果もあるのです。運動は、1日1分程度で構いません。毎日続けることで確実に効果が表れます」

ダイエットに加え、ぽっこりお腹の改善効果もあるというから、さっそくトレーニングを始めてみよう!

股関節を鍛えるストレッチ

いくつになっても、股関節まわりの筋肉を鍛えることで、股関節を正しい位置に戻すことができる。その筋肉にアプローチする前に、指先から足首をほぐしておこう。

グーグー・パタパタ体操

足の指、足首、足の裏の筋肉をほぐすことで、股関節まわりの筋肉もほぐれる。一日をこの体操で始めれば、体を動かしやすくなる。

【1】壁を背にして座り、足は股関節の幅に開く。かかとを立て足先を90度になるように上げ、両腕は体に沿って下ろし、手先を床につける。このとき、手の親指は自然に床につける。

壁に背をつけて座る女性
お腹が出ないように。足先は90度に上げる(イラスト/TOKUDOME)
写真14枚

【2】足裏にしわが寄るようなイメージで、左の足指にグーッと力を入れてにぎる。

左足指をにぎっている女性
左の足指に力を入れてにぎる(イラスト/TOKUDOME)
写真14枚

【3】左の足首の力を抜いて前に伸ばす。できるだけ足の甲が平らになるように伸ばそう。

左足の甲を伸ばす女性
左足の甲が平らになるように伸ばす(イラスト/TOKUDOME)
写真14枚

【4】足の位置を元に戻し、かかとが床から1cmくらい浮くようにひざ裏を伸ばす。右足も同様に。【1】~【4】を1日1回、1分を目安に左右交互に行う。

かかとを1cmほど浮かせている
かかとを1cmほど浮かせる(イラスト/TOKUDOME)
写真14枚

バード&ドッグ

「インナーマッスルにスイッチを入れ、股関節を正しい位置に戻す体操です。背中のストレッチにもなるので肩こりや腰痛予防にもなります。寝起きや寝る前にやるのも◎」(宇都宮さん)

【1】両ひざを床につけ、四つん這いになり、背中を丸める。呼吸は自然に。

四つん這いで背中を丸める女性
背中を丸める(イラスト/TOKUDOME)
写真14枚

【2】顔を上げ、みぞおちを床に近づけるようなイメージで首を前に伸ばして背中をそらす。

四つん這いで背中をそらす女性
背中をそらす(イラスト/TOKUDOME)
写真14枚

【3】右手で床を押しながら、左手を前にまっすぐ伸ばして手のひらを上に向ける。

四つん這いで左腕を前に出す女性
目線は前を見て、手で床を押す(イラスト/TOKUDOME)
写真14枚

【4】右足を上げ、つま先を伸ばす。左足のつま先もまっすぐ伸ばす。この姿勢をキープしたまま、3秒鼻から息を吸い、5秒かけて口から吐く。この呼吸を8回行う。反対も同様に【1】〜【4】を行う。1日1〜2回を目安に。

四つん這いで左腕を前に出し、右足を上げる女性
顔は正面を向き、背中を伸ばす(イラスト/TOKUDOME)
写真14枚

股関節と骨盤まわりの筋肉をほぐし、骨盤を正しい位置にする。フラフープのイメージでゆっくり回すと効果的。ウエストのくびれも期待できる。

股関節まわし

【1】両足は肩幅より少し広く開き、お腹は引っ込め、足のつけ根を前に出すイメージで立つ。両手は股関節の上(足のつけ根)に置き、目線はまっすぐにする。

顔は正面を向き、肩は水平、手を足のつけ根において半円を描くように腰を回す(イラスト/TOKUDOME)
写真14枚

【2】【1】の状態のまま右に半円を描くように、股関節からゆっくり10回回す。

【3】同様に左に10回回す。【2】と【3】を1分程度繰り返す。

座って行うかかと落とし

椅子に座ってかかとを上下に小刻みに動かす「貧乏ゆすり」は、股関節にもいい影響をもたらすという。宇都宮さんが説明する。

「貧乏ゆすりをすると股関節の動きが滑らかになります。家でテレビを見ているときなどに行うといいでしょう。

ただ、貧乏ゆすりは周りの人の迷惑になることもあるので、椅子に座りながらかかとを上げ下げする『かかと落とし』をするのもおすすめです。左右交互に10回、両足同時に10回を1日何回でも、気づいたときに行うといいですね」

いすに座る女性
かかと落としのやり方(イラスト/TOKUDOME)
写真14枚

かかと落としは両足同時に行ったあと、左右交互に床につけるように行う。ともに10回程度行う。

肩甲骨ストレッチ

胸腰椎(胸の背骨)をしっかり曲げて伸ばすと猫背を改善できる。立ったままでも椅子に座って行ってもいい。家事の合間や気がついたときにやると効果的だ。

【1】手のひらを上にして両前腕を広げ、脇をしめながらぐっとひじを引き、胸を張る。

肩甲骨を閉じたり開いたりする女性
背中を開き、肩甲骨を寄せて、脇を締める(イラスト/TOKUDOME)
写真14枚

【2】手のひらを下にして背中をできるだけ丸めて肩甲骨を開く。【1】と【2】をリズミカルに10回繰り返す。1日1〜3回を目安に行う。

肩甲骨を開く女性
腕の開閉を繰り返す(イラスト/TOKUDOME)
写真14枚

股関節に負担をかけない座り方

正しい座り方をすることで、長時間座っていても疲れない。

いすに座る女性
椅子に深く腰かけ、体重が左右均等になるように座る(イラスト/TOKUDOME)
写真14枚

「正しい座り方は骨盤を立てることが基本。椅子に深く腰かけ、体重が左右均等になるように座れば骨盤は立ち、股関節にも負担をかけません」(宇都宮さん)

朝の運動から習慣を見直そう

上記で紹介している体操をするのに加え、股関節のズレを防ぐ習慣も重要だ。

「効果を上げるために、注意したいのは以下の4つのポイントです」(南さん・以下同)

【1】布団から起き上がる前に手や足を動かす

「足は第二の心臓、手は第三の心臓と呼ばれますが、手足がこり固まると血液やリンパの流れが滞り、股関節へも悪影響を及ぼします。目覚めたら、まずは手足の指をしっかりとほぐすことが大切です。

手の甲をなでるように軽くマッサージや、上のグーグー・パタパタ体操をしてみてください。体操をしてから起き上がると、体がよく動くようになり、一日がスムーズに過ごせますよ」

【2】歯をしっかり磨く

食事の前に口の中を清潔にしておこう。

「口腔内にある菌が体内に入るとさまざまな病気を引き起こします。食事前に口を軽くゆすぎ、食事後はブラシを使ってしっかり磨く。歯を大事にすると、しっかりと噛むことができるので栄養が全身に行き届き、股関節も丈夫になるのです」

【3】太陽の光を浴びる

天気のよい日はできるだけ外出を心がける。

「骨の形成に不可欠なカルシウムの吸収をよくするのにはビタミンDが必要です。ビタミンDは日光を浴びると皮膚で生成されるので、日焼け対策をしながら1日15分は太陽の光を浴びましょう」

【4】おしゃれをして外出を

スーパーに出かける際に化粧をしたり、好きな服を着て出かけると心が弾み、股関節にもいい影響がある。

「股関節に負担をかけないためにも、体重管理は必要です。おしゃれをすることで体形を意識するようになり、出かけることで運動にもなるのでダイエット効果が上がります」

いくつになっても、股関節まわりの筋肉を鍛えることで、股関節を正しい位置に戻すことができる。その筋肉にアプローチする前に、指先から足首をほぐしておこう。

和式から洋式の生活に変える

家のつくりや生活スタイルが股関節に負担になることもある。「和式の生活は股関節に大きな負担をかけやすい」と宇都宮さん。

「床から立ち上がったり座ったりするのは股関節を酷使する動作です。できればベッドを利用し、食事のときは椅子に腰かけて食べるスタイルに変えるのがベスト。和室にもすぐに座れるように椅子を置いておくといいですね。家事の際は、以下の4点に注意しましょう」(宇都宮さん・以下同)

【1】床に座らない

床のぞうきんがけや、床に座って洗濯物をたたんだり、アイロンをかけるなど、地べたに座って行う動作は避けたいところ。

「床に座る動作は股関節を深く曲げるため股関節への負担が大きい。床の掃除はモップがけに。アイロンはアイロン台をテーブルの上に置いたり椅子に座って行う。同様に、洗濯物をたたむときも椅子に座って行うといいですね」

【2】就寝時は抱き枕を使う

寝るときには足元にも枕があると、股関節への負担が軽減される。

「仰向けで寝る場合は、ひざの下に枕を置いて寝る。横向きで寝る場合は、両ひざの間に抱き枕をはさむと楽に眠れます」

【3】股関節にいい運動、悪い運動を知る

トレーニングのつもりが、実は股関節に大きな負担をかけている場合もある。

「ジムにあるランニングマシンは、一定のスピードで走ることが求められるため、股関節に悪影響を与える可能性があります。

深く腰を落とすスクワットは、股関節まわりの筋肉が衰えていると逆効果になることも。痛みが出た場合は中止し、整形外科医に相談してください」

股関節への負担が少ない運動としてはヨガ、ピラティス、ストレッチがおすすめだ。

「いずれも体がほぐれてリラックスできる運動です。ただし、これらの運動も無理をせず、痛みが出たら、すぐに中止しましょう」

【4】野菜でカルシウムをとる

小松菜などの緑の野菜にはカルシウム、ミネラルが含まれているという。

「蒸し野菜にすると効率よくとれます」(南さん)

痛みがあるときは病院へ

「痛みがあっても、股関節の損傷には気づきにくいため、何年もかけてゆっくり進行していることがあります。長期間、腰や股関節まわりに痛みがあり、日常生活にも支障がある場合は整形外科を受診してください。

股関節の損傷はレントゲンだけでは気づきにくいため、受診時にMRIを撮ってもらえるか相談を。初期の治療は、炎症を抑える内服薬の処方や注射がありますが、進行していると人工股関節置換術などをすることもあります」(宇都宮さん)

◆教えてくれたのは:整形外科医・医学博士 宇都宮啓さん

YouTubeチャンネル「股関節博士 Dr.Jimmy」では股関節に関する情報を発信。著書に『股関節の痛みと悩みが消える本』(日東書院)。

◆教えてくれたのは:整体師 南雅子さん

整体エステ「ガイア」主宰。45年以上股関節を研究。著書に『死ぬまで歩くには1日1分股関節を鍛えなさい』(SBクリエイティブ)ほか。

取材・文/廉屋友美乃 イラスト/TOKUDOME 写真/PIXTA

※女性セブン2025年9月18日号

関連キーワード