《「高血圧の治療目標」厳しくするのがいまのトレンド》日本では基準値を超えれば例外なく治療対象になり降圧剤処方 成分を代謝する機能が衰えている高齢者には“効きすぎる”リスク

全国で1600万人以上と言われる高血圧で治療を受けている患者のうち、女性は約866万人と半数以上を占める。高齢化とともに男女とも高血圧を発症する人は増え続けていて、潜在患者数は4300万人ともいわれる。放置すると命を脅かされる危険があり、多くの女性を悩ませる「国民病」とどう向き合うべきか。最新事情を追った。【全4回の第2回】
医師が話したがらない基準値の「真実」と知らないと怖い降圧剤のリスク
多くの女性を悩ませる高血圧の定義は時代とともに変化している。
かつては収縮期血圧(上の血圧)160mmHg以上、拡張期血圧(下の血圧)95mmHg以上が高血圧とされたが、1999年に世界保健機関(WHO)と国際高血圧学会が新しいガイドラインを作成し、「140/90mmHg以上」を高血圧であると定めた。
この診断基準の厳格化により、高血圧患者が大幅に増加したとされる。
日本も「140/90mmHg」という診断基準を採用し、140以上は「高血圧」として薬が処方されるが、昨年、ある変化が生じた。6年ぶりに改訂された「高血圧管理・治療ガイドライン」で、“血圧の高い人がどの程度まで下げるかの目標値”を示す「降圧目標」が変更されたのだ。
新たなガイドラインは、これまで高めに設定されていた75才以上の目標値を10引き下げ、年齢や合併症の有無などにかかわらず「130/80mmHg未満」に一本化した。日本の高血圧の基準値は40年で30も厳しくなったとされる。
基準値や降圧目標がどんどん厳格化されることについて、東邦大学名誉教授で循環器専門医の東丸(とまる)貴信さんは「アメリカの『SPRINT試験』の影響があります」と指摘する。
SPRINT試験は、米国国立衛生研究所が主導した平均年齢67.9才の9361人の高血圧患者を対象に行われた大規模臨床試験で、治療目標を「上の血圧140mmHg未満」に管理したグループと、「上の血圧120mmHg未満」に管理したグループを比較した。すると後者の方が心不全や心筋梗塞など心血管イベントのリスクが約25%下がり、全死亡率も27%減った。
「その後に同様の結果を出した中国のSTEP研究も併せて、血圧の治療目標をかなり低く設定した方が健康になるという結果は関係者に衝撃を与え、診断基準の引き下げが国際的な流れになりました」(東丸さん)
実際にアメリカは2017年のガイドライン改訂により高血圧の定義を「140/90mmHg以上」から「130/80mmHg以上」に引き下げた。医療法人社団鉄医会理事長で内科医の谷本哲也さんが指摘する。
「同じくヨーロッパや日本でも高血圧の治療目標を厳しくするのが、いまのトレンドです」
日本でも年齢やほかの病気により、降圧目標がまちまちであったが、2025年のガイドラインで年齢にかかわらず130/80mmHg未満に下げることが目標となった。この傾向に東丸さんは異を唱える。
「最近は欧米や中国での研究結果から、高齢者もほかの世代と同じように血圧を下げた方がいいとの流れになっています。確かに血圧を抑えると全体の死亡率が下がるので降圧は効果的ですが、高齢者や腎臓病のかたに関しては少し緩めた方が安心できます。
特に動脈硬化が進んでいる高齢者は、血圧は一日中一定ではありません。上が140mmHg台の人が、180mmHgまで上がったり、逆に120mmHg以下まで下がることもあります。これで、薬による降圧の目標値を低くすると、血圧が下がりすぎる可能性があります。すると、めまいや転倒、腎機能が悪くなるなど、かえって体を傷めてしまいます。
したがって、高齢の高血圧症のかたの血圧コントロールにおいては、朝、昼、夜の血圧変化や起立性低血圧の有無を把握しておくことが降圧薬の調整に大事です」

それでも日本では、基準値を超えれば例外なく「高血圧」となり、治療対象となる。厚労省の調査によれば、70代以上の女性の過半数が降圧剤をのんでいる。ただし、薬で血圧を下げることにはリスクも伴う。
「高齢者は肝臓や腎臓の機能が落ちて薬の成分を代謝する機能が衰えるため、“薬が効きすぎるリスク”があります。特に多い症状は血圧の急降下によるめまいや脱力感、ふらつきで、気を失って倒れることも少なくありません。『年のせいで体力が衰えた』と感じていた人が降圧剤の量を調整すると、元気になったという事例もあります。
薬が効きすぎて血液の流れが悪くなると、失神や腎臓病などのリスクも高まります」(谷本さん)
医療現場で用いられる降圧剤ごとの副作用リスクにも気をつけたい。
「日本で最も処方されているとされるカルシウム拮抗薬は比較的安全な薬ですが、血管が広げられるので脈が速くなって動悸がしたり、足がむくんだりします。また一部のカルシウム拮抗薬は心臓の機能を落とすため、心不全に注意する必要があります」(東丸さん・以下同)
血圧を上昇させるホルモンの伝達物質を遮断して血圧上昇を防ぐACE阻害薬とARB(アンジオテンシンIIタイプ1受容体拮抗薬)にも落とし穴がある。
「これらも比較的副作用が少ない薬ですが、血圧を下げすぎることで腎臓を悪くするリスクがあります。
ほかにも交感神経に働きかけるα遮断薬は動悸や急激な血圧低下、同じく交感神経に作用するβ遮断薬には脈を遅くしたり心臓の機能を低下させたりするリスクがある。尿から塩分を排出して血圧を下げる利尿薬には脱水や腎機能低下の恐れがあります」
そのほかにも、複数の種類の降圧剤を組み合わせて処方される場合は、「のみ合わせ」が体調の変化を引き起こすことがある。
『薬に頼らず血圧を下げる方法』の著者で薬剤師、医薬研究者の加藤雅俊さんは薬による高血圧の治療そのものに疑義を呈する。
「血圧が上がるのは人間の生存本能で、病気を防いで長生きするため脳と心臓は一生懸命に頑張って体の隅々まで血流を通じて酸素と栄養を与えようとします。その点を考慮することなく、ただ血圧が高いからと毎回降圧剤を処方してのませ続けるのは患者を軽視することにほかならず、病院が儲かるだけで患者の健康は回復しません。降圧剤で血圧を下げた方が脳卒中や認知症が増えるのではないかという意見を持つ医師もいるほどです」(加藤さん)
ただし、現在降圧剤をのんでいる患者の場合は自己判断で薬をやめることは絶対に避けて、主治医と相談しながら最適解を探ることが求められる。
同時に降圧剤のリスクを避けるためにも、高血圧の基準値にこだわりすぎないことが大切になる。
「高血圧は将来的に脳卒中や心疾患になるリスクがあり、数値が高い人はある程度まで下げた方がいいのは確かです。一方で、血圧は年齢を重ねるほど個人差が大きくなることも事実で、私の患者には上が140mmHgでもめまいでフラフラする人がいます。画一的に基準値だけで線引きして降圧剤をのむのではなく、個人のさまざまな背景ごとに個別化し、最適な薬を選ぶことが肝要です」(谷本さん)
個々のケースに応じた判断が医師にも患者にも求められるのだ。
(第3回につづく)
※女性セブン2026年2月5日号