寿命を左右する血管のメカニズム「高血圧で動脈硬化が進行」「糖尿病で血管の細胞が傷つく」「プラークと呼ばれる脂肪の塊も危険」…冷たいものを飲んで胸が痛む場合は注意

生まれたときから24時間365日、ずっと働いている血管。寝ている間も休むことはない。だからこそ、酷使された血管が異常をきたすと、すぐ死に直結する。生死を分け、寿命を左右する「長持ち血管」と「早死に血管」のメカニズムの違いを徹底取材した。【前後編の前編】
「つい先日、夫と外出中に、急に頭がぼーっとして、ろれつが回らなくなったんです。暑い日だったので熱中症だと思って病院に行ったところ、脳梗塞だと診断されました。幸いにもすぐ治療を受けられたので大事には至りませんでしたが、夫が一緒にいなかったらどうなっていたのか……。いまになって考えると、怖くなります」
そう振り返るのは、都内在住の会社員Yさん(47才、女性)だ。夏本番のような厳しい暑さが続くと、Yさんのように脳梗塞や心筋梗塞を発症する患者が増える。日本歯科大学病院内科臨床教授で高血圧専門医の渡辺尚彦さんが言う。
「脳梗塞や心筋梗塞は血圧が上昇しやすい冬に多いといわれますが、夏に発症する人も意外と多い。主な原因は、脱水症状による血流の悪化です。もともと動脈硬化が進んでいて血管が狭くなっている人は、脱水状態がひどくなると狭くなった血管に血栓が詰まりやすい。血管が衰えれば、死に直結します」
私たちの体に張り巡らされた血管は、絶えず全身の細胞に酸素と栄養を運び、二酸化炭素や不要物を回収している。生命維持に必須の役割を担っているからこそ、「早死にする血管」か「100年長持ちする血管」かによって寿命が変わってくるのだ。
プラークができると血管が詰まる
「早死にする血管」とは、どのような状態なのか。いちばんの特徴は、動脈硬化が進んでいることだと渡辺さんは指摘する。
「誰しも加齢に伴って起きる現象ですが、個人差があります。動脈硬化を招く大きな要因は高血圧で、血圧が高い人は血管が強い圧力を受けて、硬くなりやすい。糖尿病も要因の1つで、高血糖の状態が続くと、血管の細胞が傷ついて柔軟性が失われます。内皮細胞には血管をしなやかに伸縮させる働きがあるので、この機能が失われると血管が硬くなります」
山形県立保健医療大学学長で高血圧専門医の上月正博さんは「女性は50代頃から動脈硬化が進みやすいので注意すべき」と話す。
「女性ホルモンのエストロゲンには動脈硬化を抑制する働きがあるので、若い頃は男性に比べて血管の老化が進みにくい。しかし、閉経によってエストロゲンの分泌が急激に低下すると、動脈硬化が進行しやすくなります」(上月さん)
血管自体が弱いのも特徴のひとつだ。東邦大学名誉教授で循環器専門医の東丸貴信さんが説明する。
「膠原病など自己免疫異常の病気では、血管で炎症が起きやすくなります。壁が厚くなり血栓ができて、皮膚や目、脳などの細い血管が詰まることがあります。また、治療に用いられるステロイド薬を長期的に使用すると毛細血管がもろく、破れやすくなることがあります」

東京医科大学名誉教授で循環器専門医の高沢謙二さんは、血管の壁に「プラーク」と呼ばれる脂肪の塊がたまると危険だという。
「プラークができると血管が狭くなり、さらにプラークが破裂すると血栓ができて、血管が詰まることがあります。これが心臓の冠動脈で発症すると狭心症や心筋梗塞となり、脳なら脳出血や脳梗塞を起こし、突然死を招きます。心疾患と脳血管疾患は、がんや老衰と並んで日本人の死因のトップ5に入っていて、働き盛りの40〜50代でも突然死することがあります」
プラークがたまりやすいのは、血液中に悪玉コレステロール(LDLコレステロール)が多い人だという。
「喫煙者も突然死のリスクが高い。喫煙すると血管が収縮してけいれんを起こしているような状態になるので、プラークが破裂しやすくなります」(高沢さん)
生活習慣病などで動脈硬化が進み、プラークができて下肢の血管が狭くなると、歩いたときに太ももやふくらはぎが痛くなる「間欠性跛行」を生じる。東丸さんによれば、最悪の場合は足を切断することもあるという。
「足の血管が詰まると、その先に血液も酸素も届かないので細胞が壊死します。糖尿病で足が壊死して切断するケースがあるのも、同じく血管が細くなることが原因です」
うだるような暑さが続く日は冷えた飲み物がおいしい。そのとき、違和感があったら病気の可能性がある。
「冷たいものを飲んで頭がキーンと痛くなるだけなら問題ありませんが、胸が痛む場合は狭心症の可能性があります。食道は心臓の裏側にあるので、冷たいものが流れると心臓も冷えるため、心臓を養う血管も縮んで胸が痛みます。したがって、ちょっとした違和感が大きな病気の兆候ということもあるので、気になる症状があれば病院を受診してください」(渡辺さん)
いい血管には基準となる数値がある
健康長寿を望むなら「100年長持ちする血管」は必須の条件だ。
「私の母親は今年満100才になりました。高血圧の持病はありますが、降圧剤をのみながら元気に暮らしています。年を重ねれば誰でも動脈硬化は進みますが、対処すれば血管を100年長持ちさせることは可能です」(上月さん)
実際、「長寿のまち」で知られる京都府京丹後市の高齢者の血管年齢を見てみると、全国の平均値と比べて約10才も若い。高沢さんは、「100年長持ちする血管」を育てたいなら、まずは健康状態を把握してほしいと訴える。
「血管を老化させる主な要因は高血圧、糖尿病、高コレステロール、喫煙の4つです。これらに当てはまらない人はいい血管を持っているといえる。1つでも当てはまる人は、心筋梗塞や脳梗塞になる確率が3倍高い。現状を知るために年1回は健康診断を受けて、数値を確認しましょう。
基準となる数値があり、血圧の収縮期(上の血圧)は140mmHg以下、血糖値はHbA1cの値が6.5%未満、悪玉コレステロールといわれるLDLコレステロール値は140mg/dL未満です」

渡辺さんは、「血圧・血糖・コレステロールは、数値が異常に高ければ薬を使ってでも管理すべき」だと話す。だが高齢になると“血圧を下げるのが怖い”という人もいる。降圧剤をのみ始めてから母親の元気がなくなり、転倒しかけたと話すのは千葉県在住の会社員Iさん(32才、女性)だ。
「元気でしょっちゅう友達と遊びに出かけていた61才の母ですが、この春、いつも通っている整形外科で高血圧だと診断されて降圧剤をのみ始めました。するとなんとなく元気がなくなって、家に閉じこもりがちになってしまった。立ちくらみがして転倒しそうにもなったので、私が付き添って病院に行き、薬をやめさせたところ元に戻りました」
上月さんは、「血圧はゆっくり下げるのが基本」だと話す。
「血圧の下げすぎには注意が必要です。下げすぎるとふらつく人もいるので、降圧剤は少ない量から始めて、ゆっくりと下げていきます。治療を受ける際は、高血圧専門医の診察を受けるようにしてください」
(後編に続く)
※女性セブン2025年7月17日号