
今年2月、東京国際フォーラムで晴れの舞台に立ったのは元タカラジェンヌの高嶺ふぶきさん(60才)。宝塚歌劇団によるミュージカル『エリザベート』の日本初演30周年を記念するスペシャル・ガラ・コンサートでのひとこまだ。
このステージに立つまで山あり谷ありの人生を歩んだ。1981年に宝塚音楽学校に首席で入学して2年後に初舞台。1996年に一路真輝(61才)の退団を受けて雪組トップスターに就任、1997年に退団後は舞台を中心に活動した。スター街道を歩むも40代で甲状腺機能亢進症の一種である「バセドウ病」を患い、2020年には甲状腺がんと診断された。
「声帯の近くにある左右2つの甲状腺に腫瘍が見つかり、切除すると歌に影響する恐れがあると医師に宣告されました。それでも不思議なほどショックはなく、歌えなくなったら別の仕事をすればいいと思った。常に全力投球で毎回のステージをやり尽くしていたので、歌うことへの未練はありませんでした」(高嶺さん・以下同)
2020年5月に手術を受けてがんを切除したが、首筋には痛々しい傷痕が残った。
「転移しないように首のまわりにぐるっと20cmほどメスを入れて、ネックレスのような傷口が残りました。太陽にさらしたら痕になって残ると医師に言われ、その後1年は首のまわりに絶対に日光が当たらないよう気をつけて過ごしました」

高嶺ふぶきが歌を完璧に歌えないなら未練はないと潔く現役を引退し、術後のリハビリを続けた。
「切除した部分の筋肉が癒着してしこりにならないよう首のストレッチを続けました。正面から右を向いたり左を向いたりする簡単な運動ですが、伸ばすことで傷口がブチッと開いたらどうしようかとビクビクしながら行っていました」
引退後は旅館の女将などをしていたが、2023年に転機が訪れた。雪組100周年の記念公演への出演を要請されたのだ。
「せっかくの記念公演だからとお受けして、歌稽古をしたら先生が“うるさい!”と言うほど声量は充分にあったのでうれしかった。
手術の影響で声帯を動かす周りの筋肉のバランスが乱れて、昔のような地声の高音は出なくなりましたが、工夫して取り組みました」
2023年10月、舞台復帰を果たし、現在も活動を続けている。かつて「歌の高嶺ふぶき」と呼ばれた高音の美声は失ったが、その代わりに得たものがあるという。
「復帰して2年半ほど経ちましたが、いまも首まわりのリハビリを続けて、試行錯誤をしながら歌っています。2月の『エリザベート』は現役のときよりキーがだいぶ下がって苦しかったです。けれど、手術をして還暦になったいまは昔よりも登場人物の気持ちが理解でき、歌詞の重みをお客様に届けられるようになりました。年齢や状態によって表現の仕方を変えられると学んだのは、病気になって手術したからこそのけがの功名です」
これからも無理することなく歩きたいと語る。
「ひたすらがんばることは宝塚の現役時代にやり尽くしたので(笑い)、今後は無理をせず自分をいたわりながら生きていきたい。
病気をした後にがんばろうとする気持ちも大切ですが、“耐えない勇気”や“鈍感力”を持つことも大切だと思います」
※女性セブン2026年3月26日・4月2日号