
すべて想像の逆を行く男、高須克弥の破天荒な人生を描く連載『YES!逆張り人生~高須克弥物語~』! 読めば悩みが全て吹き飛ぶ、そんなパワフルすぎる人生を、どうぞご堪能あれ。
第13話:簡単には開業出来ない話【後編】
「僕は整形外科を専攻した。それは一族の中に誰もいなかった専門だったから。でも、この分野はものすごく歴史があって、偉大な先人が何人もいる。生きている間にここで一番になるのはほぼ不可能だ。その点、美容整形は伯父さんたちの言う通り、まともな医者は誰もいない。未知の領域だよ。もちろんリスクはあるけど、リスクが大きいほどリターンも大きい。僕は必ずこの分野で一番になる」
克弥は己の人生を逆張りすると宣言した。
「何を生意気にこの野郎!」
「美容整形なんか医者じゃないわ!」
「掃き溜めで野垂れ死ぬのがオチだわ」
「だまりんさい!」
松田兄弟の怒号を、今まで黙っていたイマが制した。悪魔の松田兄弟でも、イマには逆らえないのが高須一族である。
「『人の逆を行き、常に先駆者たれ』と克弥に言い続けたんはわしだわ」
イマの言葉を皆、黙って聞いている。
「ほいだで克弥が一番になるんじゃったら、それでええわ」
最も反対すると思っていたイマが、まさかの逆に出た。皆に激しく動揺が走る。そこにイマが更なる追い打ちをかける。
「それに、わしもやっとった」
──え?
「昔、研修に行っとった耳鼻科の病院で鼻を高くするのにワックスを入れたり、象牙を削って入れたりしとったんで、よう知っとる。あれはあれで役に立つ」
明治の世に、既に美容整形は行われていたのだ。イマの知られざる経歴に皆、言葉を失った。
「じゃあ、美容専門医になっていいの?」
克弥の問いに、イマが静かに頷いた。
こうして高須克弥の美容外科医の道が始まったのである。と締めくくりたいところだが、実際はそう上手くはいかない。登代子が現実を突きつけた。
「ほいでも、かっちゃんのわがままで作った高須病院はどうするだあ?」
ごもっともである。が、克弥は自分にとってこのいい流れを止めたくない。
「うーん。普通の病院経営なら、何も僕のような特別優秀な医者じゃなくてもできるはずなんだ。だから……」
克弥は部屋を見渡した。妹の横に、その夫が小さくなって座っている。たしか外科医だったはずだ。
「君、高須病院の院長やってくれない?」
恐ろしく無礼な流れ弾である。
「ダメです! イヤです! 絶対ムリです!」
妹の夫は必死で抵抗した。ここまでの会議の流れと、一族の濃すぎるキャラを見ていればこの反応は当然である。克弥と義弟との押し問答に会議は紛糾した。それを見かねたシヅが、この日初めて言葉を発した。
「では克弥さんに週に1日の休みをあげるのはどうでしょうか? 今まで働き詰めだったし。それで克弥さんは、その休みの日だけ美容整形をやればいいのでは?」
実に理に適った提案であるが、理よりもむしろ、シヅの冷静さが皆を納得させた。

「で、克弥さん、どこでやるつもりなの?」
克弥を救ったシヅが、場を和ませるつもりで会話を繋ぐ。
「よくぞ聞いてくれました。栄の錦3丁目。名古屋で一番土地が高い場所に決めたんだ。何せお金持ちが来てくれないと困るからね。今まで美容整形は裏街道だったから、逆に表の一番明るいところに作りたい。逆にね!」
得意そうに言うと、鞄から紙を取り出した。
「で、これが銀行の融資契約書。保証人のところにお母さん、サインして」
何もかもが勝手である。登代子がまた窓際に走るが、克弥は無視してシヅに言った。
「あとシヅさんも保証人、お願い。何せ金額が大きいから2人必要なんだってさ!」
シヅは克弥を助けたことを後悔した。1976年。高須クリニック開業の年の話である。(第14話につづく)
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【プロフィール】
家守鷹主(いえす・たかす)/テレビ局プロデューサーとして高須克弥氏と出会い、十数年来の友人。今回、その人生を小説として描きたいと依頼したところ、高須氏は一言“YES”と快諾し、ペンネームも命名。かくして、希代の人生物語が幕を開けた。
高須克弥(たかす・かつや)/1945年、愛知県生まれ。医師(美容外科、整形外科、形成外科。学位は医学博士)。2018年に自身の全身がんを公表(発病は2014年)。
※女性セブン2026年9月17日号