夫と話していると、まったく意見が合わないと感じることがありませんか? 何かを提案しても反対されることが多いと、だんだん会話も減ってしまうかもしれません。
そこで、ベストセラー『夫のトリセツ』(講談社)の著者で脳科学・人工知能(AI)研究者の黒川伊保子さんに、脳科学の観点から夫に対する妻の悩みに答えてもらいました。
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【相談】私の話にいつも否定から入る夫。「ノー」と言わせないためには?
「夫は私が何か言うと必ず否定から入ります。例えば、『寒いね~』と言うと、『そうかなぁ。別に寒くないけど』、『今晩はハンバーグでいいよね?』と言うと、『いや、俺は焼き魚がいい』、『部屋に観葉植物ほしいわ』と言うと『邪魔だからいらない』と言った具合です。
いつも否定されるので話しかけるのも面倒だし、大事な相談も否定から入るので話が進みません。夫に『ノー』と言わせないためには、どうしたらよいのでしょうか」(53歳・パート)
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「女の質問は、質問じゃない」という罠
妻としては、「ハンバーグでいいよね」というのは質問じゃなくて、共感や喜びの表明を期待した言葉。「お、ハンバーグ! 今日はおろしポン酢にしようよ」とか「いいね! ちょうど食べたかったんだ」とか、ポジティブな反応が返ってくれば、心も通い合い、買い物や料理のストレスも半減するというもの。
なのに、夫のほうは、これを質問だと思っているのです。なので、無邪気に、頭に浮かんだ対案を言ってくる。
男性相手では「一押し提案」は危険
実は、問題解決型の脳は、「対案比較」で結論を出そうとする癖があります。たとえば、ビジネス提案でも、「一押しの一つ」だけを提案すると、脳が別案をひねり出して、比較検討しようとする。このため、男性相手では「一押し提案」は危険。うまく“やや劣って見える”別案をつけて、比較検討させるのが賢い手なのです。
というわけで、夫に「ハンバーグでいいよね」と言うのは、二重の間違い。そもそも質問じゃないし、別案もないのに、夫は本能的に対案を見つけてしまうから。
最初から、「今日はハンバーグよ!」と、うれし気に告げればいいんです。こう宣言されると、よっぽど嫌じゃない限り、肯定してくれる。
男性から見たら、質問されたから「焼き魚がいい」と答えたのに、「ハンバーグじゃダメなわけ?」と不機嫌になられて「???」状態。
男たちはよく、「女って、答えが決まっているのに質問してくるでしょう? あれって何?」と私に質問してきます。「あ~、それ質問じゃなくて、共感してほしいだけなんです」と答えてあげます。「女の質問は、ときに質問じゃない」という罠に落ちちゃうんですね。
男女では、提案に対するセンスが違う
そもそも、男性と女性では、提案に対するセンスが違います。
問題解決型にとって、提案とは、「自分の意見を言って、相手のYES/NOを確認する行為」、共感型にとっては、おもてなし。だから、女性同士の会話は、相手の提案を否定するときも、いきなりNOとは言いません。
別案をぶつけるのは提案への礼儀?
Aさん:「ハンバーグがいいよね」
Bさん:「ハンバーグもいいわね。でも、ちょっと焼き魚の雰囲気じゃない? 今日あたりさんまもおいしいかも」
Aさん:「そうね、さんまにしようか」
男性は、いきなり「NO」や別案をぶつけてくるのは、それが提案に対する礼儀だと思っているからです。
女性は、「おもてなし」なので、相手の提案を呑まないときも、まずは相手の気持ちを有難く受け止めてから。
そのあたりのセンスの違いが、夫の言葉がきつく感じる理由なのです。
先にも述べたように、質問の形にしないのが一番ですが、それでも、夫が「焼き魚がいい」と返してきたときは、「おもてなし」を無視したのではなく、本当に焼き魚が食べたいのだなと思ってあげて。
決めつけずに、自分の気持ちとして伝えるのがカギ
夫に反論されたくなかったら、自分の気持ちとして伝えるのがコツです。
「今日はハンバーグよ」
「う~、寒い」
「私はコーヒーにするね」
「私はこう思っている」「私はこうしたい」と伝えることで、夫も「大丈夫?」と労わってくれたり、「俺もたまにはコーヒーが飲みたいな」なんて受け止めてくれる回数が増えるはずです。
女性が家族に共感を求める理由
女性が、家族に対して共感を求めるのは、家族を愛しているからこそ。自分とつながっている家族だから、「私が感じていることを相手も感じているはず」と無意識に思っています。これは子育てに不可欠なセンス=母性の表れなので、女性らしさの核となります。
ですから、女性も閉経を迎えると、「あなた、これ食べる? あっ、食べないのね。はいはい」みたいなきっぱりした会話をするようになるんです。
イライラしないためには男性の「ノー」を深読みしない
「俺は違うよ」と夫にいつも反論されると、「私に不満でもあるわけ?」と感じる妻も多いかもしれません。
先日、我が家でもこんな会話がありました。
私「カレーの残りと冷凍うどんがあるから、お昼はカレーうどんにしない?」
夫「え~、カレーうどん? う~ん」
私「じゃあ、何が食べたいの?」
夫「急には思いつかないけど、カレーうどんは違う」
妻「はぁ?」
「真逆の脳同士の会話」だから仕方ない?
お昼を作るモチベーションは地に落ちたけど、夫に悪気がないのはわかってるので、あんまりなセリフに、つい笑っちゃいました。
「とっさに共感して欲しい女性脳」と「とっさに問題点を指摘したい男性脳」。真逆の脳同士で会話をしているのですから仕方のないこと。
脳の違いを理解して、夫の言葉を深読みしない。それが、妻が夫にいちいちムッとせず、夫婦円満に過ごすためのコツです。
教えてくれたのは:脳科学・人工知能(AI)研究者・黒川伊保子さん
株式会社 感性リサーチ代表取締役社長。人工知能研究者、随筆家、日本ネーミング協会理事、日本文藝家協会会員。人工知能(自然言語解析、ブレイン・サイバネティクス)、コミュニケーション・サイエンス、ネーミング分析が専門。コンピューターメーカーでAI(人工知能)開発に携わり、脳と言葉の研究を始める。1991年には、当時の大型機では世界初と言われたコンピューターの日本語対話に成功。このとき、対話文脈に男女の違いがあることを発見。また、AI分析の手法を用いて、世界初の語感分析法である「サブリミナル・インプレッション導出法」を開発し、マーケティングの世界に新境地を開拓した感性分析の第一人者。2018年には『妻のトリセツ』(講談社)がベストセラーに。以後、『夫のトリセツ』(講談社)、『娘のトリセツ』(小学館)、『息子のトリセツ』(扶桑社)など数多くのトリセツシリーズを出版。http://ihoko.com/
構成/青山貴子
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