夫婦の間にたちはだかる高くて厚い「壁」――。特にすれ違いに悩む夫婦が多いといいます。そのひとつが「価値観の違い」をきっかけとしたトラブル。クレジットカードのポイントを優先する夫に妻が不満を持つケースもあるそうです。新刊『夫婦の壁』で、「壁」の実態とそれを乗り越える方法について解説している、脳科学コメンテイター・人工知能(AI)研究者の黒川伊保子さんが、ポイントにハマる夫の心理を解説。同書の中から一部抜粋して紹介します。
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【相談】ポイントを貯めるため、カード払いができる店を優先する夫に不満
「うちの夫はなんでもクレジットカードで支払いたいタイプ。ポイントが貯まるというのが理由で、それ自体は悪いことではないのですが、度を超しているので困ります。たとえば、『今日はA店の焼肉を食べよう』と約束をしても、その店でカード払いができないとカードが使える蕎麦屋さんに変更。食べたいものよりも、カード払いができるかどうかを優先する夫の気持ちがまったく理解できません」(54歳・主婦)
【回答】男性脳は数字のカウントアップに弱い
焼肉が蕎麦になっちゃうの(笑い)? せめて、カード利用可能な焼肉店を探しましょうよ(笑い)。でもね。実はこれ、男性脳あるあるなんです。
男性脳は、ポイントにはまりやすい傾向にあります。数字のカウントアップに強く惹かれるからです。あるかたが、こんなことを言っていました。「自動車にスピードメーターしかついていないと、男性はついアクセルを踏み込んでしまう。なのに、エコメーターがついていると、その点数を上げたくて、ついアクセルをゆるめてしまう」。
まんまと自動車メーカーの策にはまる感じで、カワイイですよね。誰かが「腹筋50回やってる」なんて自慢すれば、自分は100回を目指すとか、数字が出てくるとがぜん闘争心も湧いてきます。私たちの世代のおじさま方なんて、「俺なんか血糖値◯◯」「いや、俺のほうが上」だなんて、本来なら低いほうがいい数値まで、自慢気に上乗せしてくる(苦笑)。
勝負に勝つことが嬉しくて戦利品はどうだっていい
さらに、競争にさえ勝てば、成果物には執着しない傾向も。小学生の女子から、こんな質問を受けたことがありました。「男子はなぜ、牛乳を飲みもしないのに、余った牛乳をもらうためのじゃんけんに張り切って参加するのですか」。欠席者がいて、牛乳が余った。その争奪じゃんけんに、隣の席の男子が、はりきって参加して勝ち、めちゃ嬉しそうな顔をして、「俺、牛乳飲めないからやる」と言ったそう。大人びた彼女は、「男子って、バカなんですか」と続けました。よほど不思議だったのでしょう。たぶん、焼肉が蕎麦に変わったとき、ご相談者も、「この人って、おばかさんかも」と思ったのでは。
いえいえ、「とにかくポイントアップや勝負に勝つことが嬉しすぎて、なんなら戦利品はどうだっていい」という感じ、男性脳にはあるあるなんです。だから、ポイントさえ使えれば、焼肉だって蕎麦だって、どっちだっていいという感じなのでしょうね。
もちろん、戦利品に執着することもありますが、ポイントアップに強く執着しているタイプほど、使うほうにはあまり興味がない傾向が。ここは、貯まったポイントは、うまくおねだりして、こっちで使っちゃいましょう。
となれば、夫のポイントが貯まることを一緒に喜べる妻になって、夫のカードが使える店をリストアップして上手に誘導することを考えたほうが得策ですよね。焼肉店でカードが使えなかったときに蕎麦になってしまったのは、夫のカードが使える焼肉店を、そもそもリストアップしてなかったから。イタリアンにせよ、中華にせよ、家族で訪れる可能性がある店については、あらかじめ、夫のカードが使える店を把握しておくこと。そして、そのカードが使える店が増えることを祈りましょう。夫のカードが使える店が少ないようなら、よく行く店で使えるカードに変えるように提案してもいいかもしれませんね。
さらに、夫のポイントアップを共に喜んで(「どれだけ貯まった? え〜、1万ポイント突破!」とか)、「これが貯まったら、何ができるの?」「あれが欲しい」などと無邪気に、希望を突っ込みましょう。
そう考えたら、自分が楽しむだけの趣味にお金をかける夫より、ポイントを貯めるのが好きな夫を持ったなんて、ラッキーなのかもしれません。
◆著者:人工知能研究者、脳科学コメンテイター・黒川伊保子
1959年長野県生まれ。人工知能研究者、脳科学コメンテイター、感性アナリスト、随筆家。奈良女子大学理学部物理学科卒業。コンピュータメーカーでAI開発に携わり、脳とことばの研究を始める。1991年に全国の原子力発電所で稼働した、”世界初”と言われた日本語対話型コンピュータを開発。また、AI分析の手法を用いて、世界初の語感分析法である「サブリミナル・インプレッション導出法」を開発し、マーケティングの世界に新境地を開拓した感性分析の第一人者。著書に『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』(講談社)『思春期のトリセツ』(小学館)『60歳のトリセツ』(扶桑社)など多数。