確定申告は、会社で年末調整を受けている会社員やパート勤務者が所得税の還付申告をする場合、5年間さかのぼってできることをご存じでしょうか。かかった医療費も過去5年分を申請することができます。今まで申請してなかった人は過去5年分の医療費をチェックしてみてもいいかもしれません。
医療費に関する控除は大きく分けて2種類あり、年間にかかった医療費が10万円以上の場合に使える従来の医療費控除に加えて、2017年から新しく「セルフメディケーション税制」が始まりました。両方の制度を併用することはできないので、自分にとってよりお得な方法を選ぶことが肝心です。
今回は、従来型の医療費控除と「セルフメディケーション税制」について、仕組みの概要やどちらを使うとお得なのか、特定社会保険労務士の小泉正典さんの監修のもと紹介します。
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改めて確認しておきたい「医療費控除」とは?
医療費控除とは、1年間に支払った医療費の合計が10万円(総所得200万円以下の人は所得の5%)を超えた分を申告すると、その分課税所得が少なくなります。医療費控除の金額は200万円が上限です。課税所得が少なくなるため、課税されていた分の税金が還付金として戻ってきたり、住民税等が安くなったりします。
対象となるのは、病院での診療や治療にかかった費用などで、自由診療の歯の根管治療やインプラント治療、不妊治療費なども含まれます。薬代は医師が処方するものに限らず、薬局やドラッグストアで購入できるかぜ薬、胃薬、頭痛薬などの市販薬も対象で、通院にかかる交通費も申請できます。一方で、人間ドックや美容整形の費用、疲労回復目的のマッサージ代などは申告できないので注意しましょう。
対象となる期間は、1月から12月まで。原則としてその翌年の確定申告で申請しますが、会社員やパート勤務などで確定申告の義務がない人は、確定申告の期間を過ぎても5年分をさかのぼって申請することができます。また、本人だけでなく、申告者と生計をともにする家族の医療費も合算することが可能です。
市販薬の購入で使える!「セルフメディケーション税制」の対象
2017年からは従来の医療費控除の特例として、医薬品購入に対する「セルフメディケーション税制」が始まりました。健康診断などを受けて健康維持や病気予防に取り組んでいる人が、「スイッチOTC医薬品(要指導医薬品および一般用医薬品)」を購入した際に、購入費用について所得控除を受けることができる制度です。
「特定健康診査」「定期健康診断」「健康診断」「がん検診」を受けていることが必要ですが、医療費控除に比べて金額的に申請のハードルが低いのが特徴です。本人または生計を同一にする家族がドラッグストアなどでスイッチOTC医薬品を購入して、年間合計額が税込1万2000円を超えていれば所得控除を受けることができます。
対象となるスイッチOTC医薬品は、厚労省のホームページで確認することができます。また、セルフメディケーション税制対象となる医薬品を購入した際は、発行されるレシートにOTC医薬品であることが記載されます。商品パッケージにセルフメディケーション税制対象となるマークが記載されていることも多いです。
医療費控除と同じく、同じ年の1月から12月までに購入した市販薬が対象となり、その翌年の確定申告で申請します。会社員やパート勤務などで確定申告の義務がない人は、確定申告の期間を過ぎても5年分をさかのぼって申請することができます。
医療費控除とセルフメディケーション税制、どっちがお得?
医療費控除とセルフメディケーション税制の併用はできないので、より有利なほうを選びたいもの。そこで、簡単なチェック方法を紹介します。
●1年間にかかった医療費が10万円を超えている人
【1】「(スイッチOTC医薬品の購入額)―(1万2000円)」と【2】「(医療費)―(10万円)」の金額を比較
【1】のほうが高ければ、医療費控除
【2】のほうが高ければ、セルフメディケーション税制
●1年間にかかった医療費は10万円以下の人
・スイッチOTC医薬品の購入額が1万2000円を超えている人は、セルフメディケーション税制
・スイッチOTC医薬品の購入額が1万2000円未満の人は、控除対象外
本人にかかった医療費だけでなく、「生計を一にする」のであれば、別居する親族の医療費も合算することができます。世帯単位で申請するので、家族の中で所得が高い人にまとめると控除額が大きくなるので、おトクです。
所得税の控除ではいくら戻ってくるかという還付金の金額に注目しがちですが、課税対象となる所得額が低くなることで、翌年の住民税が下がる可能性もあります。薬を購入したときや医療費の領収書はきちんと保管しておきましょう。
※手続き内容をわかりやすくお伝えするため、ポイントを絞り編集しています。一部説明を簡略化している点についてはご了承ください。また、令和3年8月10日時点での内容となっています。
◆監修:特定社会保険労務士・小泉正典さん
こいずみ・まさのり。特定社会保険労務士。1971年生まれ、栃木県出身。明星大学人文学部経済学科卒。社会保険労務士 小泉事務所 代表、一般社団法人SRアップ21理事長・東京会会長。専門分野は労働・社会保険制度全般および、社員がイキイキと働きやすい職場作りのコンサルティング。監修書に『社会保障一覧表』(アントレックス)、『「届け出」だけでお金がもらえる制度一覧』(三笠書房)など。セミナーや講演も多数行う。https://koizumi-office.jp/