ライター歴43年のベテラン、オバ記者こと野原広子(64歳)が、今年8月から茨城の実家で始めた93歳「母ちゃん」の介護について綴る。ほとんど寝たきり状態だった要介護5の母ちゃんは、今では歩行器を使って外を歩けるまでに回復。今回、母ちゃんがデイサービスに行っている間のちょっとした息抜きについてオバ記者が綴ります。
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医師も「生命の神秘」と母ちゃんの回復に驚く
せめて93歳の母親の最期は病院ではなく自宅で、と仏心を出して実家に帰ったのは暑い盛りの8月2日。病院での2か月間はほとんど寝たきり。夜中にはうわ言を叫んでいたそうで芥川龍之介似のU医師は「笑顔ですか? 見たことないです」とむずかしい顔をしていたっけ。
それが先日、往診にきてくださったら母ちゃんのベッドの横に座り、「生命の神秘ですね。長く医師をしていても、こういう奇跡はそう見られるものじゃありません」と、下を向いたきり動かない。
聞くところによるとU医師、かつてはドクターヘリに乗って、まさにドラマ『コード・ブルー』に描かれたような修羅場のまっただ中にいたとか。
そんなことを知らない母ちゃんは、「かかか、かかか」と笑うばかりだけど、母ちゃんの命が今あるのは、間違いなくU医師の的確な治療のおかげ。まったく運のいい婆さまだわ。
デイサービスに出かけるときの開放感は離婚以来!?
そんなわけで10月から週に2回、デイサービス、つまり朝9時から午後4時まで、介護施設に預かっていただいているの。それと隔週で1泊のショートステイにも行き出したんだわ。
婆さまが出かける朝の、まぁ、私のうれしいこと! こんな開放感は、離婚した時以来? いやいや、それは言い過ぎか。でも、「大人の休日倶楽部」のフリーチケットを握って東京駅にいるくらいの気持ちではあるね。
「じゃあね~!」と迎えの車に乗る婆さまに手を振った私は、原チャにまたがって一直線。最寄りのJR水戸線の大和駅にひた走る。
大好きな温泉まで30分の夢の時間
大和駅は無人駅でね。あれは5年前の秋のこと。胃がんの末期で長距離の車の運転ができなくなっていた義父と、ゆっくりだけどまだ階段をのぼれた母ちゃんと3人で伊東温泉に行ったときに利用した駅だ。
なにせ駅前のロータリーが車の駐車場で、駅舎に入って階段を6段のぼったらそこがホームなの。上りも下りもホームはひとつ。つまり駅に着いたらすぐ電車に乗れるわけ。
ここから約30分が夢の時間でね。車窓から見える筑波山や小貝川。田んぼから飛び立ついろんな種類の鳥に目を奪われているとあっという間よ。
在宅介護を続けるにはこんな時間も大切
目的地は大好きな思川温泉。元の小山遊園地で、テレビでもコマーシャルをしていたから昭和の人は「ああ、知ってる!」と言うのよね。今までは弟夫婦と来ていたけど、今はパソコンを持って温泉&仕事。これがなかなかはかどるんだわ。
そして制限時間の午後4時を意識しながら来た道を戻り、途中で、ピチピチの野菜を原チャに積んで家路に急ぐわけ。
わずかな時間でも離れていると、婆さまにやさしい声で話しかけられるんだよね。介護初心者の私がいうのもなんだけど、在宅介護を続けるにはこういう時間も大切なのよね。
週に2回、こんな日でもないと年寄りとの暮らしはとてもやってやれないんだって。何が、そんなにって話はまた改めて。
◆ライター・オバ記者(野原広子)
1957年生まれ、茨城県出身。体当たり取材が人気のライター。これまで、さまざまなダイエット企画にチャレンジしたほか、富士登山、AKB48なりきりや、『キングオブコント』に出場したことも。バラエティー番組『人生が変わる1分間の深イイ話』(日本テレビ系)に出演したこともある。今年10月、自らのダイエット経験について綴った『まんがでもわかる人生ダイエット図鑑 で、やせたの?』を出版。
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