年を重ねると、コミュケーションが減ってくる夫婦もいると思います。でも、人生100年時代、離婚でもしなければ夫婦の時間はけっこう長いものです。せっかくなら仲良く過ごしたいもの。そこで、ベストセラー『夫のトリセツ』(講談社)の著者で脳科学・人工知能(AI)研究者の黒川伊保子さんが、年を重ねても夫婦円満でいるコツを教えてくれました。
【相談】晩婚で結婚。ラブラブ感はなく今後の介護が不安
私たち夫婦は晩婚だったので、結婚して2年目です。私は55歳で夫は60歳なので、年齢的にラブラブな夫婦生活はありません。しかし、このままだともしも夫に介護が必要になった場合、介護してあげられるかと不安になりました。もちろん夫を嫌いなわけではありませんが、大丈夫でしょうか?(55歳・会社員)
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「夫に触れるのに抵抗がある」は珍しくない
穏やかな情で結ばれたご夫婦なのですね。若い頃のように「相手に触れたくてたまらない」衝動があまり起こらず、ベタベタ期がないまま安定期に入ってしまったので、不安をお持ちなんだと思います。
でも大丈夫(というのもなんですが)、多くの妻たちが同じ不安を抱えています。
だって50代以上の夫婦なら、ベタベタしてたのは、もうはるか遠い昔のこと。相手に触れたくてしかたない、キスしたくてたまらない気持ちなんて、もう思い出せもしないのですから。
女性脳の警戒スイッチ
女性の脳には、「基本、異性との接触に不快感を覚える」という仕掛けがあります。
哺乳類のメスは、オスに比べて生殖リスクが圧倒的に高いので(身ごもって命がけで出産し、授乳もしなかきゃならない)、不用意に生殖するわけにはいかない。そこで、異性のアクションに対して、強い警戒信号が流れるようにあらじめ設定されているのです。
実は、哺乳類のみならず、鳥類や爬虫類にもあるメスの警戒スイッチです。この警戒スイッチは、発情すると一定期間入りにくくなるので、若い頃はベタベタ期が訪れるわけですね。
しかし、結婚後しばらくして、警戒スイッチが再び作動してしまうと、相手が間合いをつめてくることに不安を感じたり、皮膚接触に 抵抗が乗じることに。
いくら愛していても、この本能のスイッチは止められません。
警戒スイッチを無効にする方法
この警戒スイッチを作動させないためには、接触を習慣にしてしまうしかありません。警戒スイッチは、イレギュラーなほど、強く作動するからです。
例えば、毎朝、「いってらっしゃい」のバグをする。あるいは、「おやすみなさい」の握手をする。もちろん、両方できればよりいいと思います。
私も50代の終わり頃、同じ不安に駆られて、「いってらっしゃい」のバグをするようにしました。最初は互いにおっかなびっくりという感じでしたが、毎日することなので、やがてスムーズに。やはり、習慣は大事だなと思います。
藤竜也は「皺があっても妻の手が愛しい」
俳優の藤竜也さんと対談したとき、素敵なことを教えてもらいました。
6歳年上の奥さまが80代になった頃から、寝る前に握手をするようになったのだ、と。
---ある日のこと、帰宅したら、妻が居間で眠りこけていて、その姿に心臓が止まりそうになった。
この歳になると、おやすみなさいと目をつぶって、二度と目を開けない、なんてこともある、と気がつかされたんだ。なので、その日から、妻にお願いして、寝る前に握手をしてもらうことにした。
もしかすると、どちらかが目が覚めなければ、永遠の別れになるから、と。藤さんは、そんなふうに語り、さらに、こう続けました。
「それが習慣になったら、妻の手が愛しいんだよ。皺も血管も浮き出た老女の手なのに。若い女性の手は、もちろん、きれいだとは思うよ。けど、僕には、妻のほうがきれいで愛しいと思える」
男性脳にとって心地のよい「習慣」は夫婦を救う
「習慣」は、男性脳にとって、とても心地よいものなのです。
狩りをしながら進化してきた男性脳。空間全体を一気に把握して、危険なものを感知しなければならない男性脳にとって、「いつもと違う、変化のある場所」は、女性の想像をはるかに超えてストレスです。
一方、「いつもの場所、いつものやり方」は心地よく、だから「定番」を愛するわけ。行きつけの床屋や飲み屋を容易には変えない男性たちは、習慣にすれば、甘美な思いが漂う可能性が高いのです。藤さんのように。
妻の警戒スイッチを無効にして、夫に甘美な気持ちをもたらす、夫婦の接触習慣。ぜひ、お持ちくださいませ。
考えてみれば、人生の後半戦に「いってらっしゃいのバグ」と「おやすみなさい」と「握手」ができる人がいるって、素敵なことじゃないかしら。
◆教えてくれたのは:脳科学・人工知能(AI)研究者・黒川伊保子さん
株式会社 感性リサーチ代表取締役社長。人工知能研究者、随筆家、日本ネーミング協会理事、日本文藝家協会会員。人工知能(自然言語解析、ブレイン・サイバネティクス)、コミュニケーション・サイエンス、ネーミング分析が専門。コンピューターメーカーでAI(人工知能)開発に携わり、脳と言葉の研究を始める。1991年には、当時の大型機では世界初と言われたコンピューターの日本語対話に成功。このとき、対話文脈に男女の違いがあることを発見。また、AI分析の手法を用いて、世界初の語感分析法である「サブリミナル・インプレッション導出法」を開発し、マーケティングの世界に新境地を開拓した感性分析の第一人者。2018年には『妻のトリセツ』(講談社)がベストセラーに。以後、『夫のトリセツ』(講談社)、『娘のトリセツ』(小学館)、『息子のトリセツ』(扶桑社)など数多くのトリセツシリーズを出版。http://ihoko.com/
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