
冬のセールも佳境を迎える今。アパレル業界などは秋冬モノの在庫を一掃すべく、値引き幅を30%から50%、70%へとどんどん割引率を上げています。これだけ割引されると、つい「来年も着られるものをまとめて買ってしまおう」「送料が無料になる値段まで買おう」と、まとめ買いをする人もいるのではないでしょうか。
ただ、まとめ買いがすなわち「お得」とは限りません。「むしろ、損していることも往々にしてあるのです」。こう話すのは、マーケティング&ブランディングディレクターで、『9割の買い物は不要である 行動経済学でわかる「得する人・損する人」』(秀和システム)の著書がある橋本之克さん。なぜでしょうか? 行動経済学の観点から、セール品のまとめ買いをする際の注意点を教えてもらいました。
なぜ安さにつられてまとめ買いしてしまうのか?
そもそも、人はなぜ安さにつられてまとめ買いをしてしまうのでしょうか。
「私が研究している行動経済学の視点では、安く買える機会をみすみす逃すことは『損失』と捉えています。同じ額の損と得であっても、損した時の悲しみや不満は、得したときの喜びや満足をはるかに上回るということが、研究によってわかっています。そのため、人は損失をなんとか避けようとします。結果、低価格商品を必要以上に、それも大量に買い過ぎてしまいやすくなります」(橋本さん・以下同)

まとめ買いによって生まれる「損」とは?
まとめ買いをした結果、どんな「損」が生まれるのかというと――。
「第一に、溜め込んだ商品は一瞬でなくなるわけではないので、保管する場所が必要になります。保管するために、わざわざ収納ケースを追加購入し、余計な出費になるケースもあるでしょう。また、スペース自体にお金がかかっていることも忘れずに。
特に、地価の高い都心に住む人にとって、居住スペースを占有されることは、本来自由に使える空間の無駄遣いにつながります。1部屋4~6畳分を物置部屋にしているご家庭もありますが、都心の賃貸物件であれば、この1部屋がまるっとなくなるだけでひと月数万円の家賃が浮く計算になります」
”目に見えない損”も発生
支出以外に、目に見えない損も。
「モノがあり過ぎると、目当ての物を探すのに骨を折り探すのをあきらめたり、買ったこと自体を忘れてしまうことだってあり得ます。すると、着るべきシーズンを逃したまま、虫に食われるなどして着られなくなることも。袖を通す機会がないまま体型や流行が変わり、新品を泣く泣く処分したりリユース業者に出したりすることもあるでしょう。賞味期限がある食品に至っては、期限を逃したり、腐らせたりするリスクもあります」
そう考えると、安く買える機会を逃す「損失」と、安く買い過ぎることによって生まれた「損失」。どちらが大きな「損失」になるかは、自明の理でしょう。
「その商品が定価でも買いたいか?」を自問しよう
では、セール品の買い過ぎを防ぐにはどうしたらいいか。まず、「安さに惑わされないこと」が重要です。

「その商品が、安くなかったとしても買いたかったものかどうか、自問すべきです。『安くなっているから買うべき』ではなく、『いい商品だから買う』『必要だから買う』『ずっと欲しかったから買う』というように。『安くなくても欲しかった商品』が今たまたま値下がりしているならば“買い”と判断してもOK」
買ったあとの“在庫管理”にも気を配る
「それでもどうしても『送料無料』『まとめて買うと〇%オフ』といった甘言に惑わされやすい人は、『買わないと損だと思ってしまう自分がいること』を自覚すべし。
その上で、買う物やタイミング、保管場所、購入後の使用について、十分にシミュレーションをして買うかどうか判断しましょう。買い物は、単にお金を払って終わりではなく、買ったものの行方や管理まで含めて考えるべきです。
そのシミュレーションが正しかったかどうか、買ったあとも振り返りを。残念ながら外れていた場合、『結局賞味期限内に食べきることが難しかったから、もうまとめ買いはやめよう』と次の購入時にストッパーがかかります」

こうした経験を繰り返すと、賞味期限や、使い切るまでのタイムラグを見通す力がついてくるそうです。その結果、無駄なく有効に消費できるようになればOK。セール時のまとめ買いも、胸を張って「いい買い物」と言えるようになるでしょう。
◆教えてくれたのは:マーケティング&ブランディング・コンサルタント・橋本之克さん

昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。東京工業大学工学部社会工学科卒業後、大手広告代理店、日本総合研究所での勤務を経て、現在は行動経済学を活用したマーケティングやブランディング戦略のコンサルタント、企業研修や講演の講師、著述家として活動中。著書に、『9割の買い物は不要である 行動経済学でわかる「得する人・損する人」』などがある。