食材の宅配から日用品、ウォーターサーバーまで、ネットショッピングや宅配サイトでは定期購入サービスをプッシュされることが多いです。一見お得ですが、実際のところは? 何らかの機会にサービスに申し込んだものの、消費しきれず「お金をどぶに捨ててしまった…」と思ったことがある人もいるかもしれません。行動経済学を研究するマーケティング&ブランディングディレクターで、『9割の買い物は不要である 行動経済学でわかる「得する人・損する人」』(秀和システム)の著書がある橋本之克さんに、定期購入を見直すためのポイントを聞きました。
売り手は何としてでも定期購入をしてもらいたい
橋本さんは、「定期購入は、実は売り手の思惑によって結構買わされていることが多い」と明かします。なぜでしょうか?
まず、最近売り手側に広がっている販売手法から教えてもらいました。
「近年、売り手側はネットのSNSや広告、ダイレクトメール、メールマガジンなどありとあらゆるメディアを使って告知し、メールや電話などで買い手と直接やり取りする『ダイレクトマーケティング』という手法が広がってきています。そこで消費者はキャンペーンや割引情報を知り、クレジットカードなどで決済し、商品をゲットします。実はこの瞬間から、『定期購入』や『リピート買い』に向け、売り手側のさらなる販促活動が始まっているのです」(橋本さん・以下同)
企業は「買い続けさせる」ことを目的にアプローチ
どういうことでしょうか? 橋本さんが続けます。
「売り手は買ってくれる個人を一人でも多く獲得すること、さらにその人に『リピート買い』をしてもらうことを目指します。そのため、個人の顧客をデータ化し、徹底的に管理しています。性別、年齢、住所、世帯年収、家族構成などの個人データはもちろん、購入した商品の数や購入時期もデータとして蓄積。
初めて売り手に接触した日から現在に至るまでのメールなどを通じたすべてのやり取りも記録します。また、売り手によっては、過去に購入にこぎつけた成功事例のパターンを膨大に持つ企業もあり、成功事例と照らし合わせながら、買い手にさまざまなアプローチを仕掛けるところも。全ての目的は『買わせて、さらに買い続けさせる』こと。いかに『ここでやめたらもったいない!』という思いを抱かせるかに、全力を注いでいるのです」
お得な「お試しセット」を申し込んだときの“落とし穴”
売り手は、「リピート買い」や「定期購入」に向けてあの手この手でアプローチしてきます。例えば、食材宅配で、通常より半額以下など安く購入できる、実にお得な「お試しセット」を見たことはないでしょうか。あるいは、「1か月間無料」という魅力的な言葉で商品を提供、あるいは貸与されたり、おまけの商品がつく形で提供されることもあるでしょう。
一見お得ですが、ここに罠あり。ユーザーは申し込むにあたり、連絡先など個人情報を入力します。そこからが、猛烈なアプローチの始まり。
割引クーポンがメールで届くことも
「まず、商品を使い切る頃までには電話やメールが届きます。使用感などを尋ねられつつ、毎月定期的に購入するコースへと誘導されたり、ボリュームの多いお徳用版をすすめられたり。さらに、『3000円オフ』といった形で金額が大きく書かれた、それも期間限定の『クーポン券』のようなものが郵送やメールで届いたりすることも。それを使わないまま期限が近づくと、クーポン券を失ったように錯覚し、なんとしてでも期限内に使い切ろうとする人もいるでしょう。
しかしそれこそ相手の思うつぼ。人は『安いからといって使うかどうか分からない商品を買うのはもったいない』と思いつつも、『お得な権利を失ってしまうのはもったいない』という気持ちの方が上回ってしまいやすい。ですが、実際買っても使わなければ、その方がもったいないと思いませんか?」
「初回お試し無料」「初月無料」をキャンセルしづらくなる理由
定期購入を条件に、初回のお試しや利用料は無料というケースもあります。2回目以降は有料ですが、キャンセルがない場合は自動的に毎月送られるパターンです。例えばウォーターサーバーなどにも、「初月無料でランニングコストがかかるのは2か月目から」といった販売方法を耳にしたこともあるでしょう。
消費者に心の中に働く「現状維持バイアス」
もちろん、1か月間のお試し中に、「もう必要ない」と思えば、簡単に定期購入をキャンセルできます。にもかかわらず、延々と買い続けてしまう人がいるのはなぜでしょうか? 橋本さんは、消費者の心の中に「現状維持バイアス」が働くから、と答えます。
「人は、現状に大きな問題がないならわざわざリスクを取ってまで変化する必要はないと考えがち。そのため、変化や未知のもの避けて、現在の状況に固執しようとします。
例えば、食材の定期宅配に慣れ、それらを使って料理するルーティンができてしまえば、そのルーティンを変える手間を面倒に感じ、定期便の中に毎回使わない食材があると分かっていても、あるいは競合他社の方が安いことに気づいてしまったとしても、定期購入をキャンセルしづらいのです。
初月無料のウォーターサーバーに至っては、置き場所を一度確保してしまったら、再びレイアウトを変えることを面倒に思い、そのまま定期購入してしまう人もいるでしょう」