
今はどの店舗に行っても、「ポイントカードはお持ちですか?」「ポイントカードは作りますか?」と聞かれることが増えてきました。ただし、「ポイントが〇個たまると〇円お得だから」と、店ごとにポイントカードを作っていては、財布がカードの厚みで膨れ上がります。その結果、いざ使おうと思っても探しきれず、結局有効活用できなかった…。そんな残念な経験を持つ人もいるでしょう。
果たして、ポイントカードはそこまでして作る意味があるのでしょうか。さらにいえば、ポイントカードはどう使いこなせば得になるのでしょうか? 行動経済学を専門とするマーケティング&ブランディングディレクターで、『9割の買い物は不要である 行動経済学でわかる「得する人・損する人」』(秀和システム)の著書がある橋本之克さんに聞きました。
「ポイント還元デー」と「割引デー」どちらをチェックすべきか
橋本さんは、「ポイントカードを使うことが、すなわち得とは限りません」と断言します。
「スーパーによっては、『ポイント10%還元』の日もあれば、『10%割引』の日もあるでしょう。どちらが得かといえば、後者です」(橋本さん・以下同)

分かりやすく、1万円を払って買い物をしたと仮定して、比較してもらいましょう。まず、ポイント10%の場合は――。
「1万円の買い物で10%のポイントがつくと、1000円分のポイントが加算されます。これを次回以降の買い物で使うと、お金を支払うことなく1000円分の商品をゲットできます。この一連の買い物において、支払ったお金は1万円で、手元には1万1000円分の商品が残ります。1万1000円分の商品を買うにあたり、値引きされた金額は1000円ですから、割引率は1000円÷1万1000円=9.1%です」
他方、10%値引きの場合は、どうでしょう?
「1万円分の商品が1000円値引きされますから、これを9000円支払ってゲットできます。当然、割引率は10%になり、結果としてポイント10%還元より得になります」
つまり、スーパーでチェックすべきは、「ポイント還元デー」より「割引デー」ということになるわけです(もちろん、還元率や割引率によりお得度は異なります)。
ポイントカードも割引には勝てない?
では、「10回の買い物でスタンプが10個貯まると、1回無料」といったポイントカードは、どうでしょう?
この場合も、「割引には勝てない」と、橋本さん。

「1回あたり1000円分のマッサージを想定して計算しましょう。10回通って1万円を払うと、次の1回分は無料です。つまり、11回分のマッサージを1万円で受けられて1000円を割引されたことになるので、割引率は1000円÷1万1000円=9.1%。10%割引よりも割引率が低くなります」
これは、路線バスや駐輪場などで見られる、1回100円分の利用券が11枚入っている1000円の回数券も、同様です。そもそも回数券に至っては、すべてを使い切る可能性が曖昧な時点で、購入を考え直すべきでしょう。
なぜポイントカードはお得に見えるのか?
とはいえ、それでもお得に思えてしまうのがポイントカードの魔力。なぜお得に見えるのでしょうか。橋本さんは、こう分析します。

「一般的なネット販売や航空会社などのポイントサービスを例に、説明しましょう。
まず、ポイントを貯める楽しみがある。ポイントの収集状況に応じてランクが上がり、優遇措置を受けられる。そして会員限定の割引やキャンペーンなどのメリットがある。こうした魅力があると、ユーザーは、ポイントカードそのものがステータスや得をするチャンスに置き換えられるようになります。
さらに、ユーザーの心の中に、自分が保有するモノに対して高い価値や愛着を感じ、手放したくないという感情が生まれます。この心理は、お金やモノなどの形あるものだけでなく、身につけたスキル、自分の評価など目に見えないものに対しても働きます。積み上がっていくポイントの数値が、まるで自分自身の努力を示す点数であるかのように錯覚することも。また、一度手に入れたステータスや、会員限定のキャンペーンに参加する権利も、手放しがたい大切なものに見えてきます」
とはいえ、こうした魅力のためにポイントカードを作ることが、すなわち金銭的に得とは限りません。その理由は冒頭に述べた通り。ポイントが貯まるにつれ高まる期待感や達成感、重要顧客の待遇でくすぐられるプライドといった「心理的メリット」と、割引で確実に得する「金銭的メリット」。
どちらを取るか、今の自分にはどちらが必要か。はたまた、ポイントカードの管理にかかる時間や財布のスペース、ポイントカードのアプリを保有することでスマートフォンのメモリが足りなくなるといったデメリットを、どう考えるか。ポイントカードを作る際には、メリットとデメリットを天秤にかけてみる必要がありそうです。
◆教えてくれたのは:マーケティング&ブランディング・コンサルタント・橋本之克さん

昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。東京工業大学工学部社会工学科卒業後、大手広告代理店、日本総合研究所での勤務を経て、現在は行動経済学を活用したマーケティングやブランディング戦略のコンサルタント、企業研修や講演の講師、著述家として活動中。著書に、『9割の買い物は不要である 行動経済学でわかる「得する人・損する人」』などがある。