
2月10日、全世界の“不時着”ファンが待ち望んだ、ヒョンビン(39歳)とソン・イェジン(40歳)が結婚を発表するや、結婚のきっかけとなった作品『愛の不時着』は、配信元のNetflixの「総合TOP10(日本)」で2位に急上昇。日本初配信から2年となる今でも、長きに渡ってTOP10に堂々ランクインを続けています。もはやそのブームは“冬ソナ”(『冬のソナタ』)を超えたともいわれるけれど、いったい何がそこまで私たちの心を惹きつけるのでしょうか。韓国エンタメライター・田名部知子さんにその理由を分析してもらいました。
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年末年始や週末に、“ドカン”と上がるランキング
『愛の不時着』が日本で初めて配信されたのは2020年2月23日ですが、私自身この2年間で、この作品に関するコラムを優に10本は書いています。「2020年 Netflix日本ランキング」(Netflix公式発表)で1位、「2021年 Netflix日本ランキング」(同)でも3位に入り(1、2位は日本のアニメ作品)、「2021年 Netflixでもっとも観られた韓国ドラマ人気ランキングTOP10」(ストリーミングサービス集計サイト・FlixPatrol社データ)でも、昨年大ヒットした『イカゲーム』を押さえ、2年連続1位の座を勝ち取っています(『イカゲーム』は3位、2位は『ヴィンチェンツォ』)。
韓国の財閥令嬢で、自身もファッションブランドのCEOを務めるユン・セリ(ソン・イェジン)はパラグライダー中に竜巻に巻き込まれ、北朝鮮に不時着。北朝鮮の軍人リ・ジョンヒョク(ヒョンビン)に助けられます。



セリはジョンヒョクの家に身を寄せ、ジョンヒョクやその部下らとともに韓国へ帰る方法を探るうち、やがて2人は惹かれあうように。心に大きな傷を負いながら懸命に生きてきた男女2人がファンタジックに出会い、愛する人のために命を懸けて運命に挑みます。
いい大人の男女が本当の愛を知って人間的に大きく成長していく姿は、まさに韓国ドラマの真骨頂といえるでしょう。

何度かランク外になったことはあるものの、2021年から2022年にかけての年末年始に、前出の「総合TOP10(日本)」の3位に上がって以来、2月になっても一度もTOP10外に落ちず、特に年末年始や週末にかけて上位にあがってくるという独特の傾向を見せています。
人気を支えているのは、2度目、3度目以上のリピーター
今さら新規の“不時着ラバー”が右肩上がりに増えているとは考えにくく、2度目、3度目と複数回見ているリピーターがこの勢いを支えていると分析できます。中には、7度目を完走した強者もいると、SNSで話題になったこともありました。
出会ってはいけない2人が、常に死と、そして北朝鮮という国家と対峙しなければならないありえない状況に、初見では、興奮と緊張感の中で手に汗を握って見ざるを得なかったものが、2周目3周目ともなると無駄な緊張感なく作品の世界観を心から楽しめ、どこで泣けてどこで笑えて、どこでほっこりできるかもわかっているので、安心して泣き笑いできるのです。

感情をぶんぶん振り回されて、気分爽快!
近年、意識的に涙を流す「涙活(るいかつ)」の“デトックス効果”に注目が集まっていますが、何度見ても同じところで同じ熱量で泣けるこの作品は、まさにその涙活に最適な作品といえます。朝鮮半島における南北関係のファンタジーとリアリティの入り混じった、ありそうで絶対にありえない世界の居心地のよさもそれに一役買っています。
そもそも韓国ドラマの特徴でもあるのですが、1話の中に号泣シーンとほっこり笑えるシーン、胸キュンシーンなどが絶妙に配分されています。特に本作では、爆笑やほんわかのすぐ直後に、ドン底に突き落とされるような悲しくつらい展開が待っているので、その振り幅の大きさで感情をぶんぶん振り回されて、泣き笑いした後のすがすがしい爽快感はやみつきになってしまいます。

最終話に毎回号泣
好きなシーンも泣けるシーンも人それぞれ異なりますが、私が一番泣けたのは最終16話。軍事境界線をはさんだ緊迫感の中での、セリとジョンヒョクの別れのシーンを挙げたいと思います(以下、ネタバレを含みます)。
ジョンヒョクらが北朝鮮へ送還されると聞き、病床から駆け付けるセリ。セリが護送車に追いついたときには、すでにジョンヒョクたちは軍事境界線を越えていました。ところがジョンヒョクに手錠がかけられた瞬間、病の体で走り出すセリ。「走るな!」と叫ぶジョンヒョクも公安の制止を振り切って再び境界線を越え、セリの元へ駆け寄り抱きしめます。
「会いたいと心から願えば、会いたい人に会えるかと聞いたろ? きっと会える。サランハオ(愛してる)」
北朝鮮の軍人であるジョンヒョクの愛の言葉は、私たち日本人に耳馴染みのある「サランヘヨ」ではなく北朝鮮で使われる「サランハオ」(※時代劇でも使われることがあります)。この2人の切ない禁断関係を再確認させられる言葉だと思うと、さらに泣けてきます。

2月、新作の嵐を乗り越えられるか
「不時着リピーター」たちは、泣く準備ができています。週末ごとに泣けるシーン、笑えるシーン、ほっこりシーンを見返しては、1週間の“憂さ”を全部吹き飛ばしています。今は、スマートフォンやタブレットがあれば、好きなシーンを探すこともさほど難しくなく、拾い見も簡単。『愛の不時着』の、自分だけの泣けるポイント、笑えるポイント、ほっこりポイントを探して、泣きながら、笑いながら、2周目、3周目の旅を楽しく続けてみてください。
2月のNetflixは、パク・ミニョンとソン・ガンの共演が話題の『気象庁の人々:社内恋愛は予測不能?!』、ナム・ジュヒョク主演の『二十五、二十一』など人気俳優による話題作がてんこ盛り。2月16日からは、『愛の不時着』以来となるソン・イェジン主演の待望の新作『39歳』も始まりました。結婚発表はこのプロモーションの一環ともいえる計算し尽くされたタイミングでしたが、これらの話題作に『愛の不時着』の人気がどこまで対抗できるか、はたまた依然として別格ぶりを発揮するのか、期待は高まるばかりです。

Netflixシリーズ『愛の不時着』独占配信中
◆教えてくれたのは:韓国エンタメライター・田名部知子さん

『冬のソナタ』の時代から16年、K-POP、韓国ドラマを追いかけるオタク記者。女性週刊誌やエンタメ誌を中心に執筆し、取材やプライベートで渡韓回数は100回超え。韓国の食や文化についても発信中。2018年に韓国の名門・梨花女子大学に短期語学留学し、人生2度目の女子大生を経験。twitter.com/t7joshi